1月22日(日)、中国では旧正月(春節)を迎える。3年ぶりに行動制限がない今年は21億人が移動するという予想もあるが、どのような状況にあるのか。現地のANN上海支局 高橋大作支局長に聞いた。
――まず、この「21億人」という途方もない数字は実情に近いのでしょうか?
「航空券や高速鉄道の予約数を元に出している正確な数字です。春節期間を挟んだ40日間の合計となります。延べ人数なので、一人が往復すると2回分という計算。中国の人口は14億人なので、仮に全員が帰省するとなると28億人になります。実はコロナ前の2019年はのべ30億人が移動していたのです」(以下、高橋大作氏)
――中国人にとって春節はどのような存在なのでしょうか?
「日本人よりも、帰省に対する意識は強いです。春節に帰るのは『水を飲むようなもの』と話した人も。22日の前日、日本でいう大晦日の夜までには帰って、家族兄弟親戚大勢が集まってたくさんの料理を味わい、爆竹を鳴らして祝う。これが伝統的な春節の風景です。それが新型コロナの影響で3年間も途絶えていました。地方出身の若者は『もう3年も帰っていないので、親戚に顔を忘れられた』となげいていましたよ」
――とはいえ、感染拡大を懸念する声もあるのではないでしょうか?
「実は、日本人が知っている中国の感染状況・市民感情は3週間ほど前のものなのです。今や感染は『深刻なもの』ではなく『ピークを過ぎ去ったもの』という認識です。実際、大多数の方が既に感染し、回復したのです」
――死者多数という報道もありましたが。
「たくさんの死者を出したのも事実です。当局の公式発表で直近1カ月での死者数は6万人。これは日本人が3年間で亡くなった人数に迫ります。この数字は病院で亡くなった方のものなので、実際にはさらに多くの人が亡くなっているようです。とはいえ、感染爆発は起きてダメージも負ったが第一波が過ぎたという認識なのです」
――中国人にとっては「春節前に終わってよかった」という認識なのでしょうか?
「その通りです。政府も感染症としての位置付けを一段引き下げました。『安心して帰ってください』とまでは言いませんが、通常モードに戻ろうというアナウンスです。その背後にはゼロコロナ政策で傷ついた経済があります。国民にはこの春節に一旦休んでもらってまた立て直したい、という政府の思惑があるのです」
――都心出身者など春節を海外で過ごす人もいると思いますが今はどこが人気なのでしょうか?
「タイ、オーストラリアなどが人気です。特にタイは早々に、『陰性証明があれば中国人を喜んで受け入れます。中国とは一生の友達です』と友好的な宣言を出しました。今は大きなインバウンドの恩恵に預かっています」
――この春節のタイミングで来日する中国人はいるのでしょうか?
「もちろん、日本に行きたいという中国人も多いです。しかし、今年の春節では“ほぼ”行けない状況です。元々日本とビジネスをしている人や留学生、永住権を持った家族がいる人なら行けるのですが、その他の中国の一般市民にはいま日本への観光ビザが下りません。これは中国政府が止めているため。“ほぼ”と言ったのは、超高所得者は5年有効なビザが発行されているという抜け道があるからです。とはいえ、4年前に比べると非常に少ない」
――中国政府としては「今日本に行かないで」というスタンスなのでしょうか?
「明言はしていないが実質その通りです。日本の水際対策の強化を受けてという面に加えて、日本での感染の広がり、医療体制の逼迫を気にしているのです。自国民が日本で感染した場合、そこで医療を受けられるのか、帰国後に感染が拡大しないかと心配しているのです。日中間は往復が多いため、扉を開いてしまうと一気に人流が拡大します。それを止めたかったようです」
――今年の春節の中国人の日本人への来訪はどの程度なのでしょうか?
「航空便などから予想すると実質的な観光目的で日本に来ているのは最盛期の50〜60分の1、多くて1日1000〜2000人程度なのではないでしょうか」
――ゼロコロナ政策時は政府へのデモも起こっていましが、春節期間における行動制限解除を受け、政府に対しての国民はどんな感情を抱いているのでしょうか?
「取材をしていて、中国人はある種『政府の方針には疑問を持たずに従う人』が多いという印象を受けています。上海に住んでいた人は一生忘れないようなロックダウンを経験したのですが『過ぎたことなのだからいいじゃないか』『今がよかったら問題ない』という方が多いのです。ただ、経済的には大きなダメージを受けているので相当頑張らないと以前に戻すことすら難しいでしょう」