年明けから間もない1月7日(土)、AK-69が主体となって企画した“東海エリア限定”のライブショウケース「EXCLUSIVE TOKAI CLUB 2023」がZEPP NAGOYAで開催された。
AK-69、DJ RYOW & Friends、¥ellow Bucks、C.O.S.A.、MaRI――東海エリアからヒップホップシーンを盛り上げるアーティスト5組を主軸にした今回のイベント。
日没後の肌を刺すような寒空の下で開場を待ち焦がれるファンの列は、会場前から東海道新幹線の高架下を優に超えて連なっており、その長さはかつて見たことがないほどだった。じきにZEPP NAGOYAが観客を一気に飲み込むと、DJ RYOWがショウの序章に当たるDJプレイをスタートさせる。その選曲内容然り、G.O.T.O.のサイドキック、SOCKSやVILLSHANAが魅せたショットライブに至るまで、これから始まる混じりっ気のない“東海ヒップホップショウ”への期待を強力に煽るもので、満員となった場内は時間の経過とともに冬の寒さをものともしないくらいに熱気を帯びていった。
この地で行われたAKのライブは、2020年の東名阪ツアーが最後だ。さらに遡ると、2016年のZEPP TOURとなる。
それ以前の彼はキャリア初期のツアーファイナルなどで頻繁にステージを踏んでいた印象だが、徐々に会場をアリーナクラスへと移行させていく。そんなこともあって、今回のライブがZEPP NAGOYAで、しかもツアーではなく単発で行われることを耳にした時、わずかな違和感を覚えたというのが正直なところだった。言わずもがな、今回は純粋なAK-69名義のワンマンライブではないし、その点だけでも明らかに今までと異なるのだが、それとは別の、何か言葉にできないような感覚があったのだ。その理由はすぐにはわからなかったが、AKが渾身のリリースツアーファイナルをZEPP NAGOYAで開催していた頃と通底するような緊張感すらあったのは気のせいだったのだろうか。
会場の暗転がショウ本番の開演を告げると、舞台を覆う紗幕にオープニング映像が投影される。これはSNSなどで公開されていたティザー映像の本編に当たるもので、簡単に説明するならば、“5組のアーティストが生み出した楽曲がさまざまな境遇で生きる人々に届き、そこで何らかのパワーを与えている”ということを表現した内容。
そのなかで一際目を惹いたのは、ガソリンスタンドで働く金髪の若者のシーンだ。なぜなら、この描写は2014年のアリーナツアーでAK自らが演じた映像演出を彷彿させるものだったのである。そこでその裏側にある意図を読み取ろうと考えているうちに、ライブは“The Cartel From Streets”で幕を開けた。
2009年リリースのアルバム表題曲でスタートするのはある意味で予想外だったが、お陰で先述の違和感の理由もはっきりした。
なるほど、AKは今回のライブを通して、自身の“原点回帰”を表明したかったのだろう。しかし、特筆すべきはその決意の大きさである。「楽曲やアルバムのコンセプトとして」などといった類のものではなく、今後の活動全体の方向性をそうしていくことが端的に示されていたように思うのだ。近年のAKのライブとの明らかな違いは、先に触れた今回の会場選定やオープニング映像の描写以外にも表れていた。珍しくオープニングのほかに映像演出が一切存在せず、ステージセットにはLEDスクリーンも設置されていなかった。極め付きとして、自分の名前をほかの4組と並列に表記したフライヤーのイベントで、“ストリートからの果たし状”という意味の曲でライブを開始し、そのメッセージを補うように“Guess Who's Back?”“IRON HORSE -No Mark-”へと続けざまに披露していったのだ。
今でこそ、自身名義のリリースツアーなどではさも当然のように大規模な会場を埋めてしまうAKではあるが、明確に毛色の異なる今回のショウケースが今までとは別の形での“新たな挑戦”であることは想像に難くない。言うなれば、それを具現化することで、地元への“TRIUMPHANT RETURN(=凱旋)”を強く宣言しているように感じさせたのだ。
かつて、“東海エリアのヒップホップが面白い”と言われていた時期があった。2000年代前半〜中盤、名古屋を筆頭とする東海エリアからさまざまなタレントが全国へ飛び出し、そのリリース攻勢や熱量から雑誌などで特集が組まれることも少なくなかった。もちろんアーティスト本人たちの思いは当時さまざまだったと思うが、それでも“東海エリア”のアーティストが1つの大きなクルーかのようにまとめて注目され、そのパワーが東京を含めたほかのエリアにも大きな刺激を与えていたのは事実だろう。
しかし、いつの日か、各々がヒップホップゲームで孤軍奮闘していくような構図になっていった。誰が悪いとか、そういう話ではない。そこには他エリアの躍進を含めた多様な要因があったはずだし、時代が変わったと言ってしまえばそれまでのことなのだが、それもまた事実として認めざるを得ない状況になっていたことを覚えている。
しかしながら、そうして東海エリアのヒップホップが残してきた“歴史の一片”は、今回のライブに散りばめられ再び輝きを放っていた。今回のライブで初公開となった2曲――DJ RYOW名義の“Picture me rollin’(feat. C.O.S.A. & Kalassy Nikoff)”、AK名義の“Bussin’ Remix(feat. ¥ellow Bucks, MaRI, C.O.S.A.)”――や、豊橋の重鎮・TWO-Jを迎え入れての“Move On”などはその最たる例と言えるはずだ。今回、ショウケースの中心となったのは紛れもなく旗を掲げているAK-69のライブだったものの、冒頭のDJ RYOWに加えて、¥ellow Bucksは“Yessir”と“Shut Up(feat. MaRI)”を、C.O.S.A.は“Mikiura”を、MaRIは“Bum Bum”をそれぞれ単独でキックするパートが設けられるなど、終始“東海エリアの復権”を予感させる構成だった。ヒップホップ的に言えばフックアップというワードになるのであろうが、ステージを完全に明け渡す時間まで設けられた今回、それとは似て非なる思いがAKにはあるように見受けられた。具体的に今後どのような動きをしていくかは明確に見えていないものの、ヒップホップゲームの先頭を突っ走ってきたAKが、自身の活動を通して獲得してきたリソースを、歴史ある愛すべき地元に還元していきたいと考えているように思えたのだ(ライブ翌日に小牧市で行なったジャンプランプ寄贈式もその一環)。
ライブ後の取材でAKはこう語っていた。「ただのライブタイトルだと思っている人がきっと大多数だけど、“EXCLUSIVE TOKAI CLUB”っていうものは、ここからどんどん発展させてコミュニティにしたい。ヒップホップというカルチャーに繋がりのある人間が集まったからこそできることを実現させる。単に有名人を集めて…とかそういうことじゃなくね。次元の高いストリートカルチャーを、それに見合った世界を作り込んだうえで“EXCLUSIVE TOKAI CLUB”として見せていきたい」
ヒップホップにおける熱量や興奮、感動、新たな発見……そういったものの最大値は、いつまで経っても“現場”にある。他の手段で疑似体験はできたとしても、その最大値には到底及ばない。たとえばインターネットを使えば、よくも悪くも欲しい情報がピンポイントで手に入る。その便利さや手軽さといったメリットも多くあるが、一方で空気感を含めて“誰かに編集された情報”であることも間違いない。“何が起きているか”“何が起きようとしているか”といった純度100%の情報は、現場以外では感じることができないのである(無論、このライブレポートも例外ではないのかもしれない)。必然または偶然であれ、自分の目で見て直接触れたリアルから得られたり気付けたりすることがヒップホップにおける本質だとAK-69は伝えたかったのではないか。それをまずは5組で具体的に表現してみせたのが、今回の“EXCLUSIVE TOKAI CLUB 2023”だったのではないか。そういった意味でも、実際に現地へ足を運ばなくては体験し得なかった今回の“東海ショウケース”で見せ付けられたすべては、今の時代だからこそより一層深みを増していた。そこにあったのは、まさにエクスクルーシヴと呼ぶにふさわしい、東海エリアの未来をイメージさせる濃厚な120分だった。
Text by Kazuhiro Yoshihashi
Photo by cherry chill will.