「このマンガがすごい!」(オンナ編)で史上初の2作連続1位を獲得した岩本ナオ氏による漫画『金の国 水の国』アニメーション映画が、1月27日(金)から公開される。100年のもの間、敵対し合う2つの国。<金の国>のおっとりした王女サーラと、<水の国>の家族思いの貧しい建築士ナランバヤルが、偽りの夫婦を演じたことをきっかけに、国交に関わる壮大な物語が繰り広げられる。不器用な2人のやさしい嘘は国の未来を変えることができるのか――。愛情が満ち溢れる物語で、ナランバヤルとサーラの声を演じた賀来賢人と浜辺美波に作品への想い、見どころを聞いた。
「毎回、1から学ばせてもらっているという感覚」賀来賢人&浜辺美波が感じる声優と俳優の違い
――本日はよろしくお願いいたします。お2人の声がナランバヤルとサーラにピッタリで心温まる物語でした。多くの人から映画化が熱望されていた作品ですが、主役のオファーがあったときのご感想を教えてください。
賀来賢人(以下、賀来):台本を読んだときに、国同士の争いや政治など普遍的なテーマが壮大なスケールで描かれていて、大人も子供も楽しめるエンタテインメントだと思いました。これは、幅広くたくさんの人に見てもらえて、愛される映画になるだろうなという予感がありましたね。あとはもう、ナランバヤルとサーラがものすごくステキだったので、すぐにやります!と返事しました。
浜辺美波(以下、浜辺):私は原作を読んだときに、すごく感動しました。読み終わった後に、幸せな気持ちに包まれて、これを映画にしたらすごく面白いだろうなと思いました。人に幸せを届けられる作品にぜひ携わりたいと思ってお受けしました。
――賀来さんから、ナランバヤルとサーラがステキというお言葉がありましたが、キャラクターの印象、好きなところを教えてください。
賀来:ナランバヤルは、普段はちゃらんぽらんと言うか、抜けているように見えますが、知的で頭の回転が速くて頼もしい男です。やるときは確実にやるカッコイイ奴。素敵な男だな、こんな男になれたらいいなと思いながら演じていました。
浜辺:サーラは、王女という立ち位置ではありますが、下位の王女様です。そういうこともあって自分から何かを起こすというよりも、起こさないことが国にとって有利で最善であることをわかっているところが賢いなと思っています。あとは雰囲気が大好きです。登場するだけで周りが柔らかくなるような空気感を持っているところ。原作の漫画を読んでいる段階から癒される存在でした。
――お互いの声についての印象を教えてください。
賀来:浜辺さんのほうが先にアフレコ収録をしていて、僕はあとから合流しました。浜辺さんの声を聞いたとき、僕のイメージするサーラ像とピッタリ過ぎて、やっべ~!て思って、急に汗が出ました。優しさがあって、おっとりしているけれど芯がある。そして一番は品ですよね。うわ~、品のある声だな~って。それで、やっべ~!って思いました。
――あまりにステキな声で驚いたんですね(笑)。浜辺さんはいかがですか。
浜辺:私は、先にアフレコ収録に入っていたときにとっても苦戦していました。緊張もしているし、無音の空間になかなか慣れなくて、息もちゃんと吸えないような状態だったんです。でも、賀来さんがいらして、ナランバヤルの声を出されたときに、その真っすぐな声が胸に刺さりました。ずっと見ていたキャラクターの声そのままでという感じでした。そこでホッとして緊張がほどけて、作品のイメージがはっきりと見えた感じがしました。もし、別々のアフレコだったら私今頃、泣いていたかもしれないです(笑)。
――本当にお2人ともキャラクターにピッタリの声でした。苦戦したということですが、俳優と声優とでは違いがありますか。
賀来:表現の意味では一緒ですが、やりかたが全く違いますよね。お芝居は、表情や動きでも表現ができますが、声優は、音とスピードと高さ、音圧とか。もちろん感情をこめますが、テクニック部分がより必要となる専門職という感じでしょうか。今回は、音響監督さんが納得いくまで指導してくれて、テイクを重ねて、徐々に僕たちも精度が上がって行きました。そのお陰もあって、完成した映画を観たとき、自分の声だけど、キャラクターにちゃんと乗っているなと感じられたので、それだけでも感動して、ちょっと自信につながりました。
浜辺:私もそう思います。役作りの仕方から全く違って、声優さんのお仕事は、半分くらいは技術職に近いような印象です。毎回、1から学ばせてもらっているという感覚がすごくあって、俳優とは違う難しい別のお仕事ですね。
――演じるうえでとくに苦労した点はどのあたりでしょうか。
賀来:大事な台詞だと思えば思うほど、難しかったです、決め台詞っていうのかな。お客さんにとくに届いてほしいポイント。うまくやろうと意識すればするほど、何故か喉が閉まっていく感じがして。なんでしょうね。それもトレーニングなのだと思いますが、かなり戦いながら演じました。
浜辺:私は、おっとりという部分で苦戦しました。動きがない分、声だけだと伝えるのが難しかったです。監督からは、想像する三倍よりももっとゆっくりしてほしいって言われて、苦労しました。私自身が焦り症なところがあるので、タイムが決まっていると思っている以上に早く読んじゃうという癖もあったので。賀来さんも言っていたように、緊張すると喉が硬くなるし、同じ部分を繰り返すと酸欠になって呼吸がしづらくなる悪循環に陥ったこともあります。でもそういうときは、音響監督さんにかなり助けてもらいました。緊張であまりいいテイクを重ねられなかったときは、休憩を入れてくれて、ブースに入って来てお話をしてくれました。終わった後には、あとは任せてと言ってくれて、本当に心強いなと思いました。
「ケンカもちょっと嫌なことも、喜ばせるための作戦だったら」ふたりが許してあげる嘘とは
――映像もとても美しくて印象的でした。おふたりのオススメシーンを教えてください。
賀来:<水の国>は自然が豊かで、<金の国>は裕福な土地。ナランバヤルが<金の国>に行って、初めて<金の国>の全貌が分かるシーンがあるんですが、あそこのシーンは映像の美しさにうわっ!てなりました。「これは…金の国だ…」というナヤンバラルのセリフが、心の底から出せました。
浜辺:わかります、キレイでしたよね。私は、フライヤーにもなっていますが、橋の上のシーンかな。奥行きがあって、お月様も圧倒的に美しくて、台詞も物語もすごくいいシーン。音楽もステキで、全身で風が吹いてくるような感覚を感じることができました。あのシーンは最初の鳥肌ポイントでした。
――とても美しいシーンでしたよね。主人公たちを囲む個性的なキャラクターたちも魅力ですよね。ご自身が演じたキャラ以外で好きなキャラクターはいますか。
賀来:ジャウハラかな。カッコいいし、木村昴さんの声もピッタリ合っていていいんですよね。最初はイヤな感じで登場するけれど、その後、すごいキーになるカッコいい登場の仕方をするところも好きです。
浜辺:私は犬のルクマンと猫のオドンチメグかな。グッズとか欲しくなるような愛らしさ。サイズ感も小さくて、心をくすぐられましたね。裕福な<金の国>の特色もあって、動物に豪華なご飯をあげるシーンがあるんですが、私もご飯はいいものをあげたいって思っちゃうタイプなので、可愛いものには美味しいものをあげたいよねってものすごく共感しました。
――「小さな嘘が国の未来を変えるのか――」というテーマがありますが、こんな嘘なら許せるという噓があったら教えてください。
賀来:誰かが褒めていたよ、みたいな。言われて嫌な気持ちのしない嘘ならいいかな。褒められて伸びるタイプなので。ポジティブな嘘だったら許しちゃいますね。
浜辺:私は、サプライズとかの嘘なら。それを成功させるためにケンカした振りとか、ちょっと嫌なことをしてみるとか。最後に喜ばせるための作戦だったら、楽しい気持ちがわかるから許せます。
――ありがとうございます。最後にこれから劇場に足を運ぶみなさんにメッセージをお願いします。
賀来:世代性別を問わず、誰でも心が揺れ動かされて心地よく帰ってもらえる映画になっていると思います。是非、気構えずにさらっと見に行ってください。
浜辺:本当にその世界が広がっているような美しい映像と、素晴らしい音楽、優しい物語で、胸が震えるような感動ができる作品です。新年から本当に心が優しくなるし、負担がかからない作品なので、たくさんの人にご覧になっていただきたいです。
取材・文:氏家裕子
写真:You Ishii