いよいよ受験シーズンに突入。人生の岐路とも言える大事な時期だが、学生たちを狙ったツイートが問題視されている。
「共通テスト中は痴漢チャンスデー」
ネット上では悪質な書き込みが相次ぎ、駅や電車内での警戒も強化された。Twitter上では、「怖くて悔しくて混乱して答案に向かっても鉛筆を持つ手の震えが止まらなかった」「試験に大遅刻するのではないかと不安になって声を上げることができなかった」と被害を訴える声も。
9年前、センター試験に向かう電車で痴漢にあったという後藤さん(仮名)。会場に行くため、普段は乗らない路線だったという。「ドアの前に立っていたら、いわゆる押し付け痴漢にあった」。
最初は気のせいかと思ったそうだが、徐々に被害を認識。しかし、遅刻はできないと、「ちょっと顔を見たら素知らぬふり、両手は吊り革にあげた状態で、モノだけ押し付けるようなポーズをとっていた。その顔がすごく気持ち悪くて、試験会場のある駅で逃げるように降りた」。会場についたものの混乱はおさまらず、試験中は本来の実力が発揮できなかったという。
受験生を狙う悪質な痴漢の温床になっているのが、ネット掲示板やSNSだ。痴漢抑止活動センター代表理事の松永弥生氏は「受験日は子どもたちが警察に届け出る時間がないだろうと、昔から“やり放題だよね”という投稿が匿名掲示板で多かった。しかし、最近は一般的なSNSでの書き込みが増えてきている」と話す。
彼らは隠語を使い、路線に関する情報交換や体験を綴っているのだ。2017年にはネットを介して集まり、痴漢を行って逮捕されたケースも。さらに、常習者はクローズドのSNSでのやり取りが主流で、警察も見つけることが難しくなっている。
また被害にあっても"泣き寝入り"する人が多いのが実情。実際に警察に通報したのは5.1%、駅員には6.1%で、親に相談したのは13.7%、友人・知人には30.4%、誰にも相談していない人が42.7%で最も多かった(福岡県警)。
「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子氏は「私の体験からすると、その時に言えないことは結構あると思う。後で友達に話してようやく“おかしかった”となることはあるのではないか」との見方を示す。
「日本若者協議会」ジェンダー委員で自民党に「#NO MORE CHIKAN」の要望書を提出した芹ヶ野瑠奈氏は「恐怖でフリーズしてしまうというのはよく聞く。そもそも痴漢にあった時にどうするかということを、日頃から考えているわけではない。警察で取り調べを受けても、時間はかかるし、二次被害になるような部分もある。さらに周りのサポートが少なかったり、“痴漢ぐらい仕方ない”という風潮もあると思う。最近、痴漢なのかがわかりづらい微妙なラインのものも多いようだ」と説明。
「BlackDiamond」リーダーのあおちゃんぺも「痴漢されてその場で声を上げるのは無理に近い。“次こそはぶっ飛ばしてやろう”と思っているが、絶対に言えない。何をしていいかわからないのと、被害を受けている間も“間違いで相手の家族と仕事を奪ったらどうしよう?”と気を遣っているからだ。私は何度も警察に電話したことがあるが、事情聴取と現場検証を2時間くらいやった後に言われたのは、『でも現行犯じゃないので逮捕できない』と。捜査のやり方は全然進んでいないし、罪も6カ月以上の懲役か50万円以下の罰金で安すぎだと思う」と訴えた。
精神保健福祉士・社会福祉士で加害者臨床が専門の斉藤章佳氏は、自著『男が痴漢になる理由』から、痴漢加害者には「認知の歪み」があると指摘する。「彼らは基本的に制服を着た女子学生を狙っている。私はこのロジックがよくわからなかったが、1000人以上の加害者のヒアリングをする中で出てきたのが『制服は従順の象徴である』という言葉だった。泣き寝入りしそうだという記号を制服から読み取っているんだ、と気付いた時になるほどと。彼らはそんなふうに都合よく、“相手は痴漢を望んでいるんだ”と捉えて加害行為を繰り返す認知の歪みがある。ここを修正していくのが治療の中では重要なポイントになっていく」。
「逃げやすい」という理由から、空いた電車を狙う常習犯もいるという。被害にあった場合の対処について、斉藤氏は「あおちゃんぺさんがおっしゃったように、被害者のほとんどがフリーズしてしまう。スポーツをやっていて体を鍛えている女性であっても、その場になると声をあげられない。今注目されているのは“アクティブ・バイスタンダー”といって、周囲にいる第三者の傍観者がどう行動するか。なるべく早く助けを求めて、その人物がしかるべきところにつないでいくというアプローチが、最も安全かつ現実的な対応だと思う」とした。
要望書を提出し「電車内性犯罪」の創設などを訴えた芹ヶ野氏は、「未成年の学生の被害者が多いのに、学校では痴漢にあったらどうすればいいのか、第三者としてどう介入すればいいのか、友達が被害にあっているのを目撃したらどう助ければいいのかを、具体的に教えてくれない。自分の体も相手の体も大切にするという十分な性教育をきちんと受けていないことによって、若い時から認知の歪みが生まれてくるのではないか。また、問題の根本を解決するためには、加害者を治療につなげることが一番だと思っている」との考えを明かす。
これに斉藤氏は「5~6回逮捕されてからやっと裁判になるようなケースが非常に多い。そこで初めて弁護人から勧められ、専門治療につながる。統計をとってみると、問題行動を始めてから治療につながるまでに平均8年かかっている。週に平均2、3回は加害行為をやっているので、1000回以上も行動しているということだ。多くの被害者を出してからの治療になっているので、ここをもう少し短くするため、執行猶予なら治療とセットにするような判決を出せる制度やシステムが必要だと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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