「港区、タワマンに憧れ東京に出てきた男性。愛読書、東京カレンダーを手に新生活を始めるも激務に追われる毎日。趣味は収入を盛って登録したマッチングアプリ。もちろん鳴かず飛ばず。無理して借りた南麻布の部屋から見える景色は東京タワー。ではなく高速道路、そして故郷に思いを馳せる」
これは、今ネットをザワつかせている覆面小説家・麻布競馬場(31歳)さんの作品だ。麻布競馬場、通称アザケイさんは成功者の象徴・タワーマンションなどを舞台に、都会の格差や嫉妬心を描いた短編小説をTwitterに投稿している。
ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した麻布さんは「東京に生きる人ってみんな競馬の馬と同じだから。好きに走りまわっているように見えて、実際には決まったコースを走らされている。結局、ムチを打たれながら競争させられている。その皮肉を名前にした」と話す。
「タワマン文学」と呼ばれ、現代人の生き様を炙り出す作品の火付け役とも言われている麻布さん。去年、Twitter上の作品をまとめた書籍を出版すると、5万部を超えるヒット作となった。
「誰かを羨ましいと思う気持ちってきれいじゃないから、みんな恥ずかしがってあまり文字にされていなかった。自分が書いた物を読むのは、気持ちよくないけれど、自分自身のセラピーとして書いている」
書いたものが、人々に受け入れられている現実をどのように思っているのか。
「もともとは人を不快・不安な気持ちにしたくて書いた。人様に誇れる内容ではないので、溜めると恥ずかしくなって書けなくなってしまう。その場で思いついたものを書いている。不安や恥ずかしさに名前を付けたい。名前が分かると対処の方法も分かるし、これからどう向き合ったらいいか分かる」
反響からどのような世代の読者に刺さっていると感じているか。
「27、28歳から33歳くらいが刺さると思っていた。自分の同世代なら気持ちが分かる。あと、僕の母親ではないが、最近鹿児島に住む50歳くらいのお母さんの読者から『すごく刺さった。私の息子がこの春から東京に行くので予防接種として読ませた』という声ももらった」
なぜ、東京を舞台に小説を書いたのか。他の街ではダメなのか。
「東京は、人が一番しがみつく街だと思う。その度合いが強い。大阪に1回、タワマン文学を書きに取材に行った。旅費をもらって行ってきたが、大阪の人は相当地元を愛していて、逆に東京に行く人間を『成功した人間』ではなく『地元でうまくやれなかった人間』と彼らは思っていた。きっと、これが東京以外のローカルの考えだ。ある意味、東京は地方で馴染めなかった人間の決勝戦でもある。東京というゲームは、明らかに存在する。少しでも人よりいい大学に行って、いい会社に入って、いい給料をもらって、いい家に住んで、きれいな奥さんと結婚して子どもをなるべくいい大学に行かせる。東京には、そういう物差しが無限にある。僕らの世代は幸せの尺度が明確だ。ゲームに負けて『地元に帰る』が一番下だと思っている。若い人は最近そうではないと聞く」
Z世代にあたるNPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「はしごレースという概念がよくわからない」と話す。
「世代間にギャップがある。例えば、今の20歳と40歳では東京に対する考え方も若干違うと思う。僕は愛媛の田舎出身だが、東京の大学を出た子もけっこう地方に戻る。東京に対して憧れもそんなにないし、東京という街にすばらしさやきらびやかを感じていない世代もいるのではないか」
麻布さんによると、親は本を出版したことも知らないという。元々どのような場所に住んでいたのだろうか。
「僕は地方に18年住んだ。西日本の方の割と大きい地方都市だ。東京に来て13年目だが、結論から言うと、地方はあくまで東京の劣化版だ。例えば、僕は美術館が好きで地方の美術館を回るが、大きいところでも各県につき、多くて2個とか3個だ。東京に行くと無数にあるし、アートの領域に関してもピカソから現代アートまで全部ある。地方と東京だと、人生の選択肢がまず段違いに違う。みんな『これからは地方だ』と言っているが、そうやって地方に押し込まれる子の未来がちょっと不憫だと思う。親の東京コンプレックスみたいなもので、子どもの人生の選択肢を狭めることが本当に正しいのか。今一度立ち止まって考えてほしい」
「僕はもう基盤は絶対東京にしがみつきたいと思う。東京にしがみつく人の哀れさをこれからも書き続けたい。だから逆説的だ。東京のことが好きだけれど、東京にしがみつく人のことはかわいそうだと思っているから、自分自身のこともある意味、自己否定している。でもそういった自分をやめたくないし、書き続けたい」
(「ABEMA Prime」より)
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