少子化対策と同様に重要視されている介護問題。政府が対策を急ぐ中、ある強烈な経験を綴った本が話題になっている。タイトルは『寿命が尽きるか、金が尽きるか、それが問題だ』。
【映像】“平均年齢90歳”4人介護の過酷な実情 当事者に聞く
小説家でフリーライターのこかじさら氏が、年老いた両親と叔父・叔母の4人(平均年齢90歳)を介護する日々を綴っている。そのキャッチコピーは「私の方が先に死んでまうやろ!」。待っていたのは食事や排せつの世話だけではない、神経を削られる過酷な現実だったという。
4年前、実家のある千葉県を台風が直撃しテレビが映らなくなった時は「これじゃあ相撲が見られねーだろ!早く電気屋を呼べ!」。他にも注意すると怒る、過ちを認めない、駄々っ子のようにわがままな両親に振り回され続ける日々の中、こう思ったという。「うちの老父母は弱者なのだろうか」。
現在危惧されているのは、65歳以上の高齢者の人口がピークを迎える2040年の問題。すでに人材の高齢化、離職が進む介護のこれからについて、『ABEMA Prime』で議論した。
「正直甘く見ていた」と話すこかじ氏。大変なのは体力的なことよりも精神的な部分だという。
「お風呂の介助など下の世話が大変だと勝手に思っていたが、実際は物理的なことはわりと粛々とやってしまう。ただ、想像以上に理解力、判断力が低下している。大停電の話も『うちだけじゃなくて千葉県中だよ』と説明しても、30分ぐらい経つと『電気屋に電話したのか』と。父はとても神経質で繊細な人だったが、目の前の欲求しか頭になくなってしまうのだろうか。食べたいこと、見たいこと、やりたいことをすぐに口に出して、『ちょっと待ってね』と言っても聞かない。そして、『いざという時に役に立たない』と憎まれ口を言われる。年を取るというのはこういうことなのだろうかと、切なさ半分、苛立ち半分だ」
親戚や近所、行政など頼れるようなところはあるのか。「介護認定をするので、ケアマネージャーが担当についてくれる。入居する施設やデイサービスを紹介してくたり、必要な場合はヘルパーを派遣してくれたりする。しかし、他人を家に入れることを母が非常に嫌がって、両親の説得が難しい。デイサービスに行ってくれれば楽なのにと思っていても、父と母は“あんなところは年寄りが行くところだ”と。“あなたたちが年寄りじゃなければ誰が年寄りなの。平均寿命より10歳上だ”と言っても、自分たちはそうだと思っていない」と説明した。
訪問介護ヘルパーの高齢化、人手不足は深刻だ。訪問介護員のうち65歳以上の割合が25.6%で、人手不足の事業所は81.2%、有効求人倍率は14.92倍という数字に。コロナの影響で離職が相次ぎ、2022年は介護事業者の倒産が過去最多の143件となった。さらに2040年には、介護職員が69万人不足、自宅で最期を迎える高齢者が2020年から約2倍の34.6万人になるとも推計されている。
経済学者で慶応義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は「私の父が10年前に91歳で、母が2年前に97歳で亡くなったが、それぞれ施設に運良く入ることができた。私と兄とでお金を出したが、教育にお金がかかるように、人が亡くなるプロセスにもすごくお金がかかる。でも、まだ十分な体制が整っていない。介護認定されている人は20年間で3倍の700万人になっているが、これからもっともっと増えていくだろう」とコメント。
こかじ氏は「特別養護老人ホームの介護士さんからは“100人待ち”と言われて、それこそ“私の方が先に死んでまうやろ”と。じゃあ介護付き有料老人ホームにするかというと、月に20万円かかるのだが、そこすらも入れない。“3人ほど待ってらっしゃる人がいらっしゃるので”“入院している方が戻ってこなければ1人空くんだけど”みたいな生々しい話がある。これから施設が足りなくなると思う」と懸念を示す。
竹中氏はこの先、「介護難民が社会に出てきて、“大変だ”とパニック的に広がることを一番心配している」という。「元々家庭・個人でやっていた介護を社会でできるようにしたのが介護保険制度だが、できてからまだ20年ちょっとぐらいしか経っていない。介護保険は赤字ではないが、介護職の人の給料を上げようと思ったら保険料を上げなければならず、それはまた大変なことになる。やはり混合介護でお金を出せる人は出してくださいと。今制度としてあるものを早い時期から活用していかなければいけないと思う」との考えを述べた。
こかじ氏は「日々老いていく父母は最後、自分の背中で“お前のこれからの人生考えろよ”と示してくれているのかなと思うと、少しは救われる。私の場合は故郷にUターンして近所に幼馴染がいたりするので、愚痴を言える相手がたくさんいる。ケアマネージャーをしながらお姑さんと実母を世話している友人が言っているのは、介護は“我慢しない。頑張らない。抱え込まない”と。スーパーなんかで会うと“聞いてよ、聞いてよ”とつい15分くらい話してしまったりするが、介護している者同士の情報交換の場、吐き出す場所にもなっている。そういうサポートをする施策や社会の仕組みもこれからは必要なのではないか」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
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