ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年が経った。長期化により、隣の国ポーランドで指摘されているのが、支援疲れだ。
現地で支援を続ける日本人男性、坂本龍太朗さんを取材すると、“薄まる関心”との戦いについて語ってくれた。
「ここには小型のポータブルバッテリーが入っているんです」
ロシア軍の砲撃が今も続くウクライナの東部・ハルキウへ送る荷物をまとめる坂本さん。
坂本さんは隣国のポーランドで、日本語学校を経営。侵攻直後から避難してきたウクライナの女性や子供を受け入れ、戦地に残る人たちへの支援を続けてきた。
「支援を入れても入れても、必要なものが増えていく。本当に心の中でつらく、痛いものを感じています」
絶えない支援を求める声。一方、坂本さんの活動を支える支援金は底を突き始めていた。
去年2月に侵攻が始まってから、最初の半年間で約4500万円が集まったが、次の半年は半分以下に。そして先月は170万円ほどに減ったという。
これまでウクライナに送った物資の領収書やレシートは700枚以上。坂本さんは「今、ウクライナの人たちが戦っているのは、ロシアや冬だけではありません。薄まる関心との戦いでもあります」と語る。
侵攻から1年で見えてきた支援疲れ。これまでに延べ、950万人を超える避難民を受け入れてきたポーランドでは、続々と支援の打ち切りが決まっている。
「戦争が始まった当初は、本当にたくさんの人が支援に携わった。ただ、それはお金や労力を使って支援したわけで、1年間も長期化することに対して、全く準備ができていなかった。そういう人たちが、支援の第一線から引いてしまった」
去年9月、物資を前線に運ぶなど、共に支援を続けてきた友人・ウォージャさんが妻と2人の子供を残し、36歳の若さで亡くなった。ウォージャさんは、ウクライナ南部の都市ヘルソンでロシア軍の攻撃に遭った。
「友達の死も含めて、多くの死に向き合ってきました。そんな中で、彼らの死を無駄にしたくない気持ちが特に強くなりました。こちらの人々の声はほとんど日本に届いてない。言語や文化も違う場所で、1年近く避難生活をしている子供たちがいる。平和とは何か。どうすれば家族が安定して、今後もふるさとで暮らしていけるのか。もし、自分が同じ状況になったらどうするのか。そこまで考えてほしい」
■ポーランド国内からは不満の声…取材した記者「避難民を支えることに限界も」
坂本さんを取材したテレビ朝日社会部・郷間彩姫記者はこう話す。
「侵攻の長期化や物価上昇に伴い、経済的な負担を理由に支援を継続することが難しくなってきています。坂本さんはポーランド人の妻、6歳と2歳の子どもと暮らしていて、ウクライナの子どもたちが苦しんでいる姿を見て支援を始めたのがきっかけだそうです。主にウクライナへの物資搬入のほか、ボランティアで避難所の運営、避難民を自宅に受け入れるなどしてきました。支援金がなかった当初は身を切って支援をしていました」(以下、郷間記者)
侵攻開始から1年。ポーランド政府などは、シェルターの無償提供や補助金の支援をしてきたが、そのほとんどが資金難などを理由に打ち切られている。
「ポーランド政府は避難民を受け入れる家庭に対し、避難民1人あたり1日40ズロチ(約1200円)の支援を実施していましたが、120日間で打ち切りになりました。多くの家庭で部屋はあるのに、物価上昇などもあり、経済的に避難民を受け入れる余裕がなくなりました。支援の打ち切りによって、避難先を出ざるを得なくなった家庭もあります」
現在、ポーランドで続いている財政支援は、18歳までの子どもたちに支給される子ども手当だけだ。
「子ども手当は月に500ズロチ(約1万5000円)で、ポーランド人にも同じ条件で支給されています。言語の壁、子育てもある中で仕事をしなきゃいけない人もいます。また、ポーランドでアパートを借りるにも保証人に加え、最低1年の契約があります。経済的に余裕がないウクライナの人々が、ポーランドに留まるのは難しくなっています」
ポーランド国内では多額の税金がウクライナ支援に使われている一方、物価や電気、ガスの値上がりもある。郷間記者は「国民からは一部で不満の声も上がっており、避難民を支えることに限界がきています」と話す。
また、多くの公的支援が打ち切られた今、支援を続けている坂本さんにも大きな問題点が出て来ているという。
「ポーランドは、これまで延べ950万人以上の避難民を受け入れてきました。一方で、経済的理由や避難疲れもあり、750万人以上がウクライナに渡りました。また、戦争を利用してポーランドで調達した物資をウクライナの物資がない地域で売りさばくなど、不当に儲けようとする人が後を絶たず、去年7月には支援物資を運び入れることが厳格化されました。国境でのチェックも厳しくなり、盗品ではないことなどを証明するオフィシャルな書類が必要になったそうです。書類の内容が十分でないと、没収されることもあります」
取材を振り返り「日本に感謝を伝えたいと話す坂本さんが印象的だった」と語る郷間記者。
「坂本さんの友人・ウォージャさんは車のエンジニアをしていたそうです。侵攻が始まる前は戦場とは全く無縁の仕事をして、妻と2人の子どもと暮らしていた。そういう市民が大勢犠牲になっている。坂本さんは『とにかくこの現状を知って欲しい』と言っていました。『ウクライナとともに』という本は、仕事や子育て、支援活動の合間に睡眠時間を削って書き下ろしたそうです。特に日本の子どもたちに読んでほしいといいます。『ここまで活動を続けてこられたのは、日本の支援金があったから』とも話していて、日本に対する感謝の気持ちを強く感じました。『本の収益をウクライナ支援に充てて、長期化する支援に備えたい』と話しています」
強い思いを胸に、坂本さんが書き下ろした1冊の本『ウクライナとともに涙と笑顔、怒りと感謝の365日』(双葉社)の収益は、すべてウクライナの支援に充てられるという。