街中でよく見かける道路標識。街の名前や道路名などが記されている。なんとこの「文字」が絶滅の危機にあるという。
【映像】「デジタルはピシッとしてる。写研の書体は甘い感じがする」マニアックな文字への偏愛
標識に使われているのはナールという書体で「写研」という会社が開発している。
なぜ文字が絶滅するのか? その答えが東京千代田区のとある作業所にあった。
見慣れない大きな機械は「写植機」という。
1980年代ごろまで印字に使用。雑誌や書籍、ポスターの製作などで活躍してきた。
実は、写研が作った書体は21世紀の今もパソコンで使うことができず写植機などの専用装置でしか使えないのだ。
写植職人の駒井靖夫さん(81)は
「写植の文字は『線が柔らかい』。デジタルだったらピシッと線がきついから直線でできているなという感じがする。(写研書体は)手書きで作っているから甘い感じはある」
と魅力を語る。
このままでは写研の文字が社会から消えてしまう。
手を差し伸べたのはライバルのフォント業界大手「モリサワ」。
そもそも、書体とは、「共通した表情をもつ文字の集まりのこと。明朝体、ゴシック体などのこと」。対して、フォントとは、「デジタル化され、パソコンで使える書体のこと」を言い、さまざまな会社が制作している。
実は写研とモリサワには深くて長い繋がりがあった。
1924年、写研とモリサワの創業者が共同で日本語の写植機を開発した。二人は会社を立ち上げ共同で事業を営んだが、方向性の違いからモリサワが独立、ライバル関係になったのだ。
モリサワはパソコンで手軽に使えるフォントを80年代からいち早く手掛け、デジタル化を推し進めてきた。
そして、この度そのノウハウを活かし、写植機用に開発された写研の文字をパソコンで手軽に使えるように、100年の時を経て、両社がタッグを組んだ。
しかし、写研の文字は手書きでデザインされているため、デジタルでデザインされた現代の文字とはいくつか異なる点がある。

例えば、「真」という文字のゴシック。
中ゴシックでは最後の一角ははらう形で作られているが、同じ書体の太ゴシックでは止めている。通常デジタルの作り方だと同じ書体なら払うか止めるかで揃える。
他にも太さによる字形の違いや大きさの不揃いなど手書きならではの“バラつき”ある。今、そのバラつきをモリサワが整えている。オリジナルの特徴やいいところを残しながら必要に応じて直していくという。
「どこまでを残してどこから修正するか、その線引きが難しいところ」(モリサワ タイプデザイナー 木村卓さん)
写研が作った50種類以上の書体のなかから、今回は「石井ゴシック体」「石井明朝体」などをデジタルフォント化していく。10万文字超をデザイナーが一文字ずつ修正していく。
「写植の時代に定評のあった書体を今のデジタルフォントの環境下で広く多くの方に使っていただけるようにするのは文字文化の継承や発展に寄与する意義があることだと感じている」(モリサワ タイプデザイナー 木村卓さん)
この度、写研とモリサワを取材したテレビ朝日社会部 西井紘輝記者は少年時代より“フォント沼”にハマったと熱弁すると共に、取材実現の経緯を話した。
「いろんな会社がいろんなフォントを作っている。そんな文字の違いにかなり惚れ込んだ。見比べて楽しんだ。しかし、写研の書体についてはパソコンで使えない。どうして使えないのかと調べ、何冊も専門書も読んだ。どうして日本の印刷物の70〜80%をも占めていた文字を見かけなくなったんだろうと。そういった個人的な熱意と『社会にとって非常に身近なもの』という判断から今回の取材が決まりました」
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