「レディース&ジェントルメン、アメリカの“次期”大統領 ドナルド・トランプ氏です」
【映像】「トランプ氏の本当のターゲット」は民主党でも検察でもない
そう紹介されたトランプ氏は4日夜、フロリダ州の私邸にて
「過激な左翼が法執行機関を利用して選挙を妨害しようとしている」
と無罪を主張する演説を行った。
不倫関係にあった女性への口止め料支払いをめぐる疑惑で、先月30日に起訴されたアメリカ前大統領のトランプ氏。
大統領経験者が刑事事件で起訴されるというのは、歴史上初めて。トランプ氏はかつて住んでいた「トランプタワー」で一夜を過ごし、翌日昼過ぎにマンハッタンにある裁判所に出頭し無罪を主張。
その後フロリダに戻り、冒頭の演説を行った、というわけだ。
「分断はトランプのせいです」
「全部フェイクニュースだ」
出頭時、厳戒態勢のマンハッタンの裁判所前も柵で“真っ二つ”となった。トランプ派と反トランプ派はまさに一触即発。
そして、今回の起訴で「トランプ氏の支持率は上がり」「アメリカの分断は深まった」。
「この2つは密接にリンクしている」と語るのは、ANNワシントン支局の梶川幸司支局長だ。まずは、データで見ていく。
トランプ氏にとっては、起訴されることで、かえって“追い風”だとも言われているが。
「起訴後に実施されたロイターの調査で共和党支持層を対象に、『次の大統領選候補に誰が望ましいか』聞いたところ、トランプ氏は48%(前月比+4pt)と数字を伸ばし、ライバルのデサンティス氏は19%(前月比-11pt)と支持を落とした」(以下、全て梶川幸司支局長)
一見するとネガティブな事件で、天秤が大きくプラスに傾いたのだ。
「さらに、トランプ陣営は、先週起訴されてから1000万ドル(約13億円)の献金を集めたと発表し、『無実 not guilty』と書かれたTシャツの販売を始めた」
起訴後にCNNが行った世論調査。「トランプ氏の起訴を支持する」と答えた人は全体の6割。党派ごとの内訳で見ると、民主党は94%:6%、共和党は21%:79%となり、ここでも真っ二つである。
また、「起訴の背景に政治的な影響があったか」と聞いたところ、全体でも76%の人があったと答えており、共和党に限れば93%があったと答えている。なぜ、多くの人が政治的な影響を感じたのか。
「実は、捜査を率いるブラッグ検事が民主党から立候補して当選したという事情もある。また、ニューヨーク州はもともと民主党の牙城で、党派的な思惑から捜査や裁判が不当に進んでいると見られやすい」
その点を、トランプ氏は“攻撃”しているのか。
「トランプ氏はブラッグ検事の個人攻撃はもちろん、ニューヨークの司法当局全体が民主党の手先だと訴えて、自分は『政治的な迫害の被害者』だと印象付けたいようだ」
民主党や検察を批判することが「トランプ氏の狙い」なのか。
「『本当のターゲット』は共和党のライバルであるデサンティス氏のようだ。トランプ氏のソーシャルメディアを見ると、検察批判と同じくらいの頻度で、デサンティス知事を批判したり、揶揄する投稿を繰り返している。とにかく、デサンティス氏が目障りなのだ」
「共和党支持層には、何があってもトランプ大好きという『岩盤支持層』、そしてトランプ氏とは距離を置く穏健な層、最後にこの真ん中『トランプ氏の言っていることはわからないでもないが…』という3つに分かれている。トランプ氏が共和党の候補者指名レースで勝ち上がるには、『岩盤支持層』を固めるだけでは無理。支持領域を横へ横へと拡大していくために目障りなのが、ちょうど真ん中の層に支持を伸ばすデサンティス知事なのだ」
ライバルを蹴落としたい、という心理以上に戦略的に動いていたわけだ。
「共和党の政治家や支持者としては、『民主党から迫害を受けている』と言われると、トランプ氏と距離があるなしにかかわらず、今回の起訴を批判しないわけにはいかない。まさにトランプ氏の思う壺なのだ。今回の起訴は、『岩盤支持層』の隣にいる層に支持を広げることができる。短期的に見たら、今回の起訴は『追い風』と言えるだろう。
トランプ氏の好調は続くのか。
「そうとも言えない。トランプ氏をめぐっては様々な疑惑があり、①連邦議会占拠事件への関与、②機密文書の邸宅への持ち出し、③大統領選挙へ作業への介入、④不倫揉み消しの口止め料、主に4つで捜査が進んでいる」
「議会占拠事件と機密文書については、司法長官が任命した『特別検察官』が捜査を進めている。最近になって裁判所がトランプ氏側の訴えを退けて、関係者に新たな証言や資料を提出するよう命令するなど、トランプ氏側に不利な展開が続いている。この問題で起訴されると、大統領の資質に関わることで、打撃は小さくはない」
裁判、そして選挙の今後の見通しは。
「今の段階で有罪か無罪かを占うことは難しいが、裁判にとても時間がかかることだけは確か。ニューヨーク州では、この種の事件で裁判が始まるのに、およそ1年かかるという。『初公判』は年明けになることはほぼ確実で、来年11月の大統領選までに裁判が始まっていない可能性さえある。今回の起訴で司法への信頼も含めて、国内の分断がますます進むことだけは確かだ。ますます先行きの見通せない状況に入りつつある」