先週、岸田総理が韓国を訪問し、12年ぶりの日韓シャトル外交が大きく注目された。
韓国の尹錫悦大統領は「かつて両国の関係が良かった時代以上に、もっと良い関係を作るべきだと責任を感じている」とコメント。共同会見では、岸田総理が元徴用工問題について「当時、厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と述べた。
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ここ数年の日韓関係といえば、元徴用工や慰安婦の問題、輸出管理上の優遇措置となる「ホワイト国」(現:グループA)から韓国を3年以上にわたって除外するなど「戦後最悪」と言われるまでになっていた。険悪ムードから一転、思惑や狙いはどこにあるのか。ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した、韓国政治・日韓関係の専門家である浅羽祐樹氏(同志社大学教授)は「尹大統領の政治的な決断が非常に大きい」と話す。
「尹大統領の訪日が3月、岸田総理の訪韓が5月だ。12年間止まっていたシャトル外交が2カ月のうちに復活して、多分野において一気に12年前の状況に戻った。2018年10月の韓国大法院、最高裁のいわゆる徴用工判決の前ではなく、シャトル外交で特に懸案事項がなくても普通に会って話をする状況に戻った。それに際して尹大統領は支持率を落とすことを覚悟のうえで日本との関係を改善し、また「国賓」として訪米した。さらにG7広島サミットに招聘されて、日韓首脳会談、日米韓首脳会談を行う予定だ。それは文政権の時にぐちゃぐちゃになっていたアメリカ・日本との関係をまずは立て直すためのものだ。その上で、中国・北朝鮮・ロシア、つまり現状変更勢力にどう臨むのかを示した。これが大統領就任後の外交面での成果だろう」
その背景には、韓国の安全保障上、喫緊の課題としての北朝鮮、そして何より中国の存在がある。浅羽氏は「ようやく日本と同じような世界観を持つ指導者が隣国に現れた」と指摘する。
「米中対立が現在のように深刻化した時、どちら側につくのか、旗幟を鮮明にせざる得ない状況が生まれた。これまでの韓国のように『安全保障はアメリカ、経済は中国』のような虫のいい戦略的曖昧性は成り立たない。中国との経済的関係を完全に切ることはどの国も不可能だが、いざ国民の生命、財産が関わる有事が起きた場合、韓国は日本、アメリカという自由陣営と連帯するのだ、もはや戦略的曖昧さの余地は残されていないのだ、という認識をはじめて我々と共有した大統領が出てきた」
これまで韓国の大統領は中国から“冷遇”されてきた。2017年、文大統領(当時)が国賓として訪中した際、滞在期間中に中国指導部と会食したのは、全10回のうち2回だった。
なかなか相手にされなかった過去に、浅羽氏は「文政権は訪中で8回も“ぼっち飯”をした。当時の韓国政府高官は『あれは中国の人たちの朝ごはんの様子を視察するためだ』みたいな苦しいツイートを今になってしている。『そこまで言わないといけないのか』というぐらいつらかった。中国に舐められないためにもアメリカ、日本との関係を確実なものにする必要があった」と説明。
しかし、外交的に成果を上げているように見える尹大統領の支持率は、低迷している。歴代政権と同じような「反日」で支持を回復させようという動きにならないのか。「ちゃぶ台返し」の恐れはないのか。浅羽氏は「今韓国は完全に二極化している。アメリカと同じか、それ以上だ。野党支持と与党支持が完全に分かれてしまっている。尹大統領が何をやっても反対する人は反対するし、賛成の人は賛成する中、批判を浴びているのは人事だ。大統領自身も検事総長を務めたので、検事出身者の登用が多く、金融監督庁のような部門のトップも検察出身だったりする。大韓民国は5000万人もいて、Ph.D.を持っている人も多い。それなのに『エリートは検察だけですか!』と。いくらなんでもやりすぎでしょう。内政の支持がないと外交的にも安定的に動けない。無党派と中道派を取り込んで来年の総選挙で多数を占めることが課題だ」と述べる。
一方、尹大統領の不人気は、日本との文化交流にはどのような影響を及ぼすのか。浅羽氏は「日韓関係がどんなに悪くても、日本にKフードは入ってくるし、K文学は読まれる。韓国でも日本の映画『すずめの戸締り』や『SLAM DUNK(スラムダンク)』が大人気だ。梨泰院におけるハロウィンの大惨事、東日本大震災、個々のレベルでハラスメントなど、そういう生き苦しさも共有されている。留学生数を倍増させる旨が首脳会談で合意されたが、どんどんやればいい」と文化交流が政治の日韓関係とリンクしなくなっている現状を指摘。
日韓両政府は、北朝鮮の核・ミサイル開発の活発化を踏まえ、アメリカも含めた3カ国の安全保障協力を強化する方針で一致している。浅羽氏は「北朝鮮の大陸間弾道ミサイルが後継型も含めてアメリカ本土にまで届く。いろいろな軌道で飛んでくるから、日本や韓国が持っている防衛システムでは防ぎきれない」とした上で、台湾有事の韓国への影響をこう解説する。
「『台湾海峡有事が日本有事になる』は、安倍元総理の予言めいた遺言になっているが、おそらくそうなるだろう。Google Earthをお持ちの方は、Googleで北京を一番下に置いて、3000キロメートルで線を引いてもらいたい。南西諸島、日本列島は全部入る。3000キロは仮だが、中国は中距離ミサイル、4000キロくらい飛ぶミサイルを2000発ぐらい沿岸部に配備完了している。台湾に一方的に現状変更を迫るとなると台湾の後方支援を在日米軍や在韓米軍にされると困る。もし私が中国の指導者であれば当然叩く。台湾海峡有事が日本の有事であると同時に、朝鮮半島有事にもなる。北朝鮮がそれに乗じる可能性もある」
(「ABEMA Prime」より)
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