日本や韓国で数多く放送され、話題を集めるサバイバルオーディション番組。審査員に現役アーティストが登場することも多いが、その中でも厳しい言葉で“バッサリと斬る”ことで知られる女性がいる。韓国のガールズグループ・(G)-IDLEのリーダー・ソヨンだ。
ソヨンは審査員として、韓国MBCで放送されたオーディション番組「放課後のときめき」(2021年)、そしてその後継番組として現在ABEMAで日韓同時放送中の「少年ファンタジー」に出演。彼女の歯に衣着せぬ物言いは、毎回大きな注目を浴びている。そこで本稿では彼女の名言の数々、そしてその裏に込められた思いについて紹介していく。
「怒りも湧かないくらい最悪」話題集めた酷評に込めた思い
審査員としてのソヨンが大きく注目されるきっかけになったのは、「放課後のときめき」第1話の下記のシーン(21分頃~)だろう。
練習生のソジンとイェソがOH MY GIRLの「Nonstop」をパフォーマンスするが、歌の音程は外れ続け、ダンスはお世辞にも上手いとは言えない散々な仕上がり。客席で見守る一般審査員の投票が75%以上集まると1次合格となり、ソヨンら審査員の評価を受けられるという審査方法の中、観客は2人に同情したのか、はたまた拙い姿を可愛らしく受け止めたのか、なんと1次合格となる。
観客から拍手が起こり温かいムードが流れる中、ソヨンはブチ切れ「今日見た全ステージの中で、怒りも湧かないくらいに最悪でした」と肩を震わせる。「実力がある子たちが1次合格できなかったのに。夢を持って努力している子たちを評価する場所なので、客席で評価をする人たちも責任感を持つべきだと思います。怒りが沸きますね」と、パフォーマンスした側だけではなく軽い思いで評価に携わる観客を問いただすように思いを伝え、その場の空気を凍らせた。
この発言は大きな話題を呼んだが、後日出演した番組「ユ・ヒヨルのスケッチブック」 にてその真意を問われたソヨンは、こう答えている。「実は私は他の人に厳しいことを言うのが苦手なんです。でも番組に出演すると決めた瞬間からは、悪役になろうと考えた。とにかくこの子たちにとって、私が助けになる人として記憶に残ってほしいと思って、必要な言葉を与えたいと思いました」。厳しい言葉の裏には、アーティストの先輩だからこそ抱く、才能の原石たちへの真摯で温かい思いがあるのだ。
先輩ですら言えないこともピシャリと言い放つ
放送中の「少年ファンタジー」でも、ソヨンの勢いは衰えない。評価テストで自信喪失し踊ることを放棄した練習生へは「途中で諦めてどうするの。これで最善を尽くしたの?だとしたら才能についてよく考えなければならないよ」と叱咤する。
また世界各国から多くの若者がK-POPアーティストを志願する昨今だが、外国人練習生であっても、ソヨンは韓国語の発音を厳しく指摘。日本人のヒカルが流暢な発音で歌い上げたあと、厳しい評価を下された中国人のソウルが「でもヒカルは韓国へ来てもう3年目だし…」とボヤくと、「来て何か月目かは重要じゃないです」とピシャリと言い放った。
先輩アーティストへのリスペクトを深く持っているソヨン。「少年ファンタジー」では彼女が尊敬する2PMのウヨン、WINNERのカン・スンユン、B1A4出身のジニョンと共演しているが、そんな先輩たちの前でも、ソヨンは言うべきことを遠慮せずに伝える。第1話にて、あまりにも話が通じない練習生に、審査員一同が絶句する場面がある。路上ライブ経験者のその練習生は自信たっぷりだが、音程に不安が残る歌唱を披露し、審査員たちは苦笑い。努力が足りていないことをスンユンやジニョンがやんわりと伝えるも、全く響いていない様子の彼にソヨンは痺れを切らす。「先輩方が遠回しに言ってくれたからわかってないみたいですが、地域のど自慢みたいでした。本当に深刻です。これだけしか見せられないのは、練習方法に大きな問題があるんですよ。もっと考えて」と厳しい言葉を送る。
ステージ終了後、「先輩方が遠回しにすごく下手くそだよって言ってくれたのに、自分の実力をわかってくれなくて、頭にきて我慢できませんでした」と怒り心頭に発するソヨン。ウヨンは「ソヨン頑張ったね」と感心し、スンユンは「何だろうこの、バカ兄ちゃんたちを連れてるみたいな、しっかり娘の感じで……」と申し訳なさそうに語っていた。先輩たちですらオブラートに包んでしまうところでもガツンと伝えるブレないソヨンの姿に、惚れ惚れする場面は多い。
もちろんソヨンは厳しいだけではなく、褒めるべきときは言葉を尽くして褒める。「放課後のときめき」では生まれ年別に設定された学年でソヨンは4年生の担任を務めており、練習室に足繁く通い、1人ひとりの課題に寄り添って丁寧なアドバイスを届けていた。また「少年ファンタジー」では、病弱な練習生のチン・ミョンジェへ当初「ミョンジェくんのパフォーマンスは、(コンセプトとしての)“退廃美”“病弱美”というより、具合が悪くて飛んでいきそうな印象に見えてしまっています」と厳しい言葉を伝えていたが、彼が努力を重ねてステージで成長を見せると「あなたが持っている独特のキャラを、限られた時間内に魅力的に見せてほしかった。今日のステージはそれができていました。とてもカッコよかったです」と心からの賛辞を笑顔で送っていた。
自分が言ってほしかった言葉を、練習生たちに贈る
そんなソヨンとはどんな人物なのだろうか。さまざまな経歴を持ち風格が漂う彼女だが、1998年生まれの24歳とまだ若く、アーティストとしても第一線をひた走っている。そして彼女は実は、I.O.Iを生んだオーディション番組「PRODUCE 101」(2016年)に出演していた。惜しくも最終順位20位となり番組でのデビューは逃したが、高い実力で鮮烈な印象を残している。
その後も女性ラッパーたちが実力を競うサバイバル番組「UNPRETTY RAPSTAR Vol.3」に出演。前述した「ユ・ヒヨルのスケッチブック」において、ソヨンは過去を振り返り「オーディション番組に出た時や練習生の時に思っていたのは、どうしてあの時私にああいう言葉を言ってくれなかったんだろう?って。そういう言葉を全部私が練習生たちに言ってあげているんだと思います」と発言している。練習生たちに厳しい言葉を浴びせるのも、すべて自身の経験が背景にあり、若き才能を少しでも伸ばせるように、というひたむきな思いがあるのだろう。
ソヨンは「UNPRETTY RAPSTAR Vol.3」出演後にソロデビューし、2018年にガールズグループ・(G)-IDLEのメンバーとしてデビュー。作詞作曲や振付、そしてグループのプロデュースまでも手がけ、ラッパーとしての実力はK-POP界随一と言われている。
2022年は(G)-IDLEが快進撃を見せた1年だった。「TOMBOY」はミュージックビデオの再生回数が2億回を超え、Spotifyで1億ストリーミングを突破。続けてリリースしたミニアルバム「I love」は発売と同時にiTunes Top Album部門全世界40地域で1位を占め、予約注文は70万枚を数え、韓国の音楽番組で11冠王を達成。そして今年5月にリリースしたミニアルバム「I feel」 は先行注文で110万枚を達成して自己最高記録を更新するなど、立て続けに大ヒットを記録している。
また(G)-IDLEの楽曲はサバイバルオーディション番組で課題曲として使われる機会も多い 。4月まで放送されていた「BOYS PLANET」にて、ソン・ハンビン、ジャン・ハオら“アベンジャーズチーム”が「TOMBOY」を披露していたことも記憶に新しいのではないだろうか。ソヨンは今、練習生の気持ちが誰よりもよくわかるアーティストであり、プロデューサーであると言って差し支えないだろう。
日本でも「Nizi Project」でJ.Y.Park、「THE FIRST」ではSKY-HIと、プロデューサーがオーディション参加者に掛ける言葉が感動を呼んだ。若い才能に現在進行形で本気で向き合っているソヨンの言葉に、ぜひ「少年ファンタジー」を観て注目してみてほしい。
テキスト:岸野恵加