2022年6月29日に大分県別府市で発生したひき逃げ事件。信号で止まっていたバイク2台に軽乗用車が追突し、19歳の大学生1人が死亡、1人がけがをした。警察は現場から逃走した八田與一(はった・よいち)容疑者(26)を道路交通法違反の疑いで全国に指名手配。逮捕につながる有力な情報提供には遺族が最高500万円の懸賞金をかけているが、未だに行方はわかっていない。
八田容疑者は事件の直前、事故現場近くのショッピングセンターの駐車場で、亡くなった大学生Aさんに対し一方的な言いがかりをつけていた。大分県警によると、八田容疑者の軽乗用車は時速70キロ以上で追突し、ブレーキもかけずに電柱に激突。被害者2人のバイクは、交差点の先まで吹き飛ばされ、Bさんは奇跡的に軽傷だったが、Aさんは心肺停止となり病院で死亡が確認された。大分県警は、八田容疑者が故意に追突した可能性も指摘しているが、逃走中のため明らかにはなっていない。
事故発生からまもなく1年となるが、いまなお逮捕には至っていない。大分県警は5月、八田容疑者の車両と、被害者のバイク2台をメディアに公開した。車は前方が激しく損傷し、フロントガラスにはひびが入りへこんでいる。Aさんのバイクも追突により後方が激しく破壊され、追突された衝撃の大きさを伝えている。
元宮城県警で、現在は交通事故調査鑑定人の佐々木尋貴(ひろき)氏は、危険を感じて急ブレーキをかけている途中に追突した事故ではないと分析する。
「ブレーキをかけると、車は一時的にグッと前が沈み、ぶつかった位置が下に向く。この交通事故は、間違いなく真っすぐぶつかっていっている。回避するための措置は講じていなかったと思う。2人亡くならなかったのが奇跡なのかもしれない」(佐々木氏)
Aさんは高校時代にプロサッカー選手を目指していたが、ケガで断念した。その後、別府市内の大学へ進み、経営学を専攻。経営者である父を目標に、世界を舞台に活躍する経営者になる夢を抱いていた。母親の誕生日にはお小遣いで入浴剤をプレゼントするなど、家族思いの一面もあった。
Aさんと「年の離れた兄弟」のようだった父親は、「あっという間の1年だった」と振り返る。
「『なぜうちの子なんだろう?』という気持ち。(遺族が)精神的に病んだり、病院に行く気持ちというのが、初めてわかるような気がした。精神的には一生戻らないと思う。何か違うことをやっていないと、ずっと考えていたら頭がおかしくなる」(Aさんの父親)
一周忌に際し、ようやく仏壇を用意した。受け入れがたい現実が続く1年だったが、その間に遺族は、八田容疑者の母親から2通の手紙を受け取っていた。
「『申し訳ありません』という手紙をいただいた。『一生懸命育ててきた』と(書かれていたが)、それはこっちも一緒のこと。私も気持ちをぶつけた手紙を、警察を通じて送り返したが、それに関しては何も返信がなかった」(同)
Aさんの父親は再度、手紙を警察に託したが連絡は全くなかった。しかし一周忌を前に、八田容疑者の母親から2通目が届いたという。
「『覚悟を決めて責任を取っていく次第です』という風な文面だったので、『そういう覚悟があるのであれば、逃げ回っている息子さんに対して、自首するように、あるいは呼びかけてくれ』という内容の手紙を出した」(同)
事件で奇跡的に助かった、Aさんの同級生であるBさん。大学で経営学を学ぶ2人の夢は経営者で、「世界の人々と交流できる経営者になりたい」と熱く語るAさんに、Bさんはいつも刺激を受けていたという。公開された2台のバイクを見て、いまの思いを語る。
「ここだけ時が止まっているというか……。この原付と(Aさんと)一緒にいろいろな所に行っていた。これ(バイク)に乗っている姿を見るのが一番多かった。僕だけ結果的に生き残って、こんないいやつが、こんな未来あるやつが、向こうにいっちゃって、『なんで俺だけ』とすごく思った。みんなからしたらこの1年はあっという間だったかもしれないけど、僕からしたらあの時から何も変わっていない。悔しい」(亡くなったAさんの同級生・Bさん)
遺族や同級生の励ましで、Bさんは「亡くなった親友の分まで生きていこう」と思えるようになり、価値観も大きく変化したという。
「事件が起こるまでは、良い車乗って、良い家持ってとか、自分の利益を優先して考えていた。でも、事件があって周りから助けられたことで、『自分のために』が『人のために』に変わった。お世話になった人に、どうやったら恩返しできるか。『なりたい理想像』がガラッと変わった」(Bさん)
別府の事件について、警察は情報提供を呼びかけている(別府警察署:0977-21-2131)ほか、番組Twitter(ABEMAニュース/@News_ABEMA)のDMでも事件や容疑者に関する情報を求めている。(『ABEMA的ニュースショー』より)
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