婚姻数も深刻だ。ゼロコロナ政策に伴う経済の悪化、さらにこれまでの一人っ子政策によって若い女性が少なくなっている影響などで去年の婚姻数は688万3千組とピークだった2013年から半減、過去最低を更新した。
そのような状況下において、6月22日から北京では「結婚をテーマにした博覧会」が開幕した。会場にいるANN中国総局 北里純一記者にその様子と中国の人口政策を聞く。
――会場の様子は?
結納品として人気な金の装飾品など結婚関連商品の展示・販売が行われており、結婚を決めた、あるいは結婚を検討しているカップルで賑っている。2日間で延べ10万人程度が来場すると見られている。
――人気や注目が集まっている場所はあるのか?
結婚写真を撮る会社のブースが人気だ。中国でも金銭的な事情などから結婚式・披露宴を挙げないカップルが増えており、代わりに結婚写真に力を入れている。
――日本と中国の結婚式に違いはあるか?
都会ではホテルなどを借りて披露宴を挙げるという日本に近い形式だ。対して、田舎ではより大規模になる。なかには結納品として女性側にたくさんの豚などを送るような地域もあり、その負担が「結婚の障害になっている」という声もある。そのため、地方によっては過剰な結納を規制する動きもある。
――ゼロコロナ政策や一人っ子政策以外の婚姻数減少の要因は?
中国には、「不動産を持っていないと結婚する段階ではない」という考え方がある。しかし、不動産価格が高騰している中、準備ができない若者も多い。加えて、高学歴・経済力のある女性が増えており、北京でバリバリ働く女性のみなさんからは「釣り合う男性がいない」「結婚して自分の生活の質が下がることは許せない」といった厳しい意見が容赦なく飛んでくる。また、日本と同じく「幸せ=結婚して家庭を築く」という一律的な価値観からの変化もあるようだ。
――人口の減少を中国政府は深刻視しているのか?
人口の減少は国力の低下につながると捉える中国政府は警戒感を強めていて、様々な政策がこの数年間で発表された。中国全体の政策としては、3人目まで子どもを産んでいいという「三人っ子政策」がスタートしたことが象徴的だ。さらに、少子化の背景に教育費の高騰があるとして、営利目的の塾を禁止にして親の負担を減らす政策が始まった。さらには、北京市では人工授精など生殖医療の保険適用。四川省では、これまで認められていなかった未婚の女性から生まれた子どもの戸籍登録を可能にした。
ただ、もっと抜本的な政策が必要なのではないかという指摘があがるなか、経済界からは「2人目の子どもを産むまでは避妊具の販売を許可制にする」という案も出て注目を集めた。
――それはさすがにやりすぎでは?
我々の感覚からするともちろん極端に思える。ただ、一人っ子政策を振り返ってみると、2人以上の出産で多額の罰金が科されたり、公務員だと解雇されたり、地域ごとに認められた出産数を超えれば中絶を強要されるなどの激しい政策が行われたという報告が多数上がっている。私の周りでも、北京で仕事をしている20代の女性は「女の子だから」という理由で産まれてすぐに川辺に捨てられたという。
幸い、育ての親となる夫婦に拾われ命をつないだのだが、その家庭にはすでに男の子がいた。周囲に自分が見つかれば親の仕事にも多大な影響が出るため、人目を気にしながら困難な生活を強いられたそうだ。しかし、この一家に疑念を抱いた役人がある日家を訪ねてきた。もう逃げられないと覚悟したのだが、血のつながっていない祖母が「そんなに疑うなら私を殺してから部屋を調べなさい」と体を張って守ってくれて難を逃れたという。
強烈な「産むな」を経験した中国社会は、いま「産みましょう」 という方針に変わった。しかし、これから人口減少の影響が深刻になった局面において、いつの日か「産め」という強烈な政策がとられることはないのだろうか。一人っ子政策の現実を肌身で感じて育った若者の間からは、そんな不安も聞こえてくる。