3大会越しの“初日”に感慨深さと悔しさをにじませた。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Dリーグ第3試合、チーム糸谷とエントリーチームの対戦が7月1日に放送された。過酷な予選を勝ち上がりエントリーチーム入りを果たした行方尚史九段(49)が、チーム糸谷の新進気鋭・徳田拳士四段(25)を破り待望の大会初白星を挙げた。勝利後には「本当に“難産”ですね、大変です」と語り、多くのファンもともに喜びを共有していた。
第3回大会では木村一基九段率いるチーム木村のメンバーとして参戦したが、4戦全敗。力を出し切ることなく敗退した。第4回、5回大会ではエントリートーナメントから出場を目指したものの、ここでも超早指し戦との相性が合わず影を潜めていた。今大会では「おじさんはお呼びじゃないでしょうし、のびのびやりたいです」と、エントリートーナメントにも力を抜いて参加したところ、あれよあれよと勝ち上がり出場権を獲得。「夢にも思わなかった」と、3大会ぶりの出場を決めた。
行方九段は、名人、王位のタイトル挑戦経験を持ち、棋戦優勝は2回を誇るトップ棋士。しかし、本大会ではうまく本領発揮することが出来ずに、チーム康光との第1試合では2戦2敗と前回大会に続き初日が遠かった。チーム糸谷との第3試合では第1局を任されたものの、徳田四段を相手に150手で黒星。苦しい時間が続いた。
その後、第2局からは仲間の郷田真隆九段(52)、古賀悠聖五段(22)が奮起し3連勝。流れに続け、と第6局で2度目の登場となった行方九段は徳田四段との再戦に向かった。角換わりの出だしから、△6一飛と引いたところからペースを掌握。控室の郷田九段からも「行方氏の力が完全に出る展開だね」の声が上がった。しかし、チーム糸谷にとってはチームのピンチとあり絶対に譲れない。解説の瀬川晶司六段(53)も「心臓に悪い。迷いましたね、受けるか攻めるか…」とギリギリの攻防戦を伝えた。2枚の竜で追い込みをかけ粘り強く食らいつく徳田四段に対し、行方九段は迷い「いやあ!」と声を漏らして緊迫感漂う終盤戦を奮闘。△8二と金の好手から最後は華麗な詰みに討ち取り、3大会越し待望の初勝利を飾った。
この勝利に、行方九段は「本当に“難産”ですね、大変です」とコメント。視聴者からは「なめちゃん!!」「こんなん泣いちゃうよ~」「やったぜなめちゃん!」「なめちゃんやったね!」「初勝利おめ」「かっこいいよ、なめちゃん!!」「なめちゃん最高!」「初日おめでとうございます」「かなり興奮した」「なめちゃんの勝利嬉しいぃぃ」と祝福のコメントが押し寄せた。仲間の元へ戻った行方九段は「最初から(力を)出していたら…せめて第3試合の最初から…」と本音と悔しさをにじませつつも、「初めてグループリーグで勝てました」と勝利を報告すると、チームメイトから温かい拍手が送られた。
激闘の末、第3試合はフルセットに。最終局を任された行方九段だったが、森内九段との相掛かり戦で誤算があったか、57手と短手数で黒星を喫した。エンディングでは、「波に乗り切れなかった。久しぶりのスタジオ(対局)は予選会と別物で、いつの間にか魔物に憑りつかれたような感じだった。昔(第3回大会)と比べて戦い方も進歩していて、その辺の認識ができていなかった」と自身の戦いぶりを総括。それでも、「今度もし…。なかなかドラフトにかかることはないでしょうから、数年後にまたエントリー予選で勝ち上がって、今までの教訓、経験を活かして戦う機会が持てればいいなと思う。今回のチーム名は『ストロングスタイル2023』でしたが、フィッシャーは格闘技だなと感じました」と語った行方九段。今大会では1勝4敗の成績ながら、多くのファンの胸を熱くさせた“主役”の一人であったことは間違いない。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)