相次いでトラブルが発生しているマイナ保険証。「不安」、「デジタル化で便利になる」など賛否が分かれるなか、そもそも一体化する目的は何か、そして今後の厚労省の対応などについてテレビ朝日社会部厚労省担当・藤原妃奈子記者に聞いた。
━━改めて「マイナ保険証」とはなにか?
マイナンバーカードを、健康保険証として使うものだが、これまでの健康保険証にはなかった機能もついているのが「マイナ保険証」だ。「マイナ保険証」を利用して、医療機関を受診すると、過去に処方された薬や、特定検診の情報がオンラインで紐づいていて、自分自身が同意すれば、医師や薬剤師に、その情報を見てもらいながら、より適切な医療を受けることができる。
病院に行ったとき、お薬手帳を忘れて、「なんの薬を飲んでいますか」と聞かれたときに、「薬の名前までわからない」となることを防ぐことができるほか、複数の医療機関で治療を受けているときに、同じ薬を処方されることも防げる。また、医療機関側としても、過去のデータに基づいた適切な医療を提供できることや、事務作業の手間が軽減されるなどのメリットがあるといえる。
━━今までどのようなミスが起きてしまった?
一番大きいトラブルは、深刻な「紐づけミス」だ。去年11月までに別人の医療情報が登録されていた事例が7312件、去年12月から今年5月22日までに60件確認されている。この「紐づけミス」は個人情報の流出につながっている。
マイナ保険証を使うと、「マイナポータル」というアプリで、健康保険の情報や、過去に処方された薬の情報などが閲覧できるが、「紐づけミス」によって、他人に見られたくない自分の情報が、誤って紐づいた先の第三者に見られる事態が計10件確認されている。
━━実際に医療現場ではどんなトラブルが?
実は医療現場においても、マイナ保険証のみを持参した患者で保険の資格確認ができないトラブルが生じ、窓口で全額負担になってしまったケースなどが起きている。
━━厚労省の対策は?
6月29日、厚労省では健康保険や医療情報をオンラインで確認する「マイナ保険証」のシステムについて、「オンライン資格確認利用推進本部」を初めて開催し、登録するデータの正確性の確保や医療現場でのトラブルへの対応策などについて話し合った。これには、今ある課題を払しょくして、何とか来年秋に間に合わせたいという意図がある。
ある厚労省幹部は、2024年秋の健康保険証廃止について延期したほうがいいのではないかという意見があることに対し、「そうした仮定のことは考えていない。もちろんいま発覚しているトラブルやミスは防がないといけないが、政府全体で大きく方向性を変えていこうということには少なくとも今はなっていない」と話している。そして、とにかく国民にマイナ保険証を使用することによる「メリット」を実感してもらいたいと話していた。一方で、「マイナ保険証」のメリットは利用者である国民に実感されていない現実もある。
━━「メリットが実感されてない」とは?
厚生労働省は5月「マイナ保険証」について直近3カ月に医療機関で利用した1000人と非利用者1000人に対し調査した。公表結果によると、直近3カ月に「マイナ保険証」を利用した患者の56.5%が利用して実感したメリットは「特になし」と回答。「問診表に記載する内容が少なくなり、手間が減った」など少なくとも1つ以上のメリットを実感した割合は4割強にとどまる。利用したことのない人でメリットについて「特に知らない」と答えたのは57.7%でこれも半数以上だった。
━━この調査結果をどうみるべき?
今後浸透する中で、メリットを感じる人が増える可能性はあるが、実際に利用した人がさほどメリットを感じていないとなると、何のためにマイナ保険証に一本化するのかという目的・必要性の部分が揺らぎかねない事態ではある。原因としては、「マイナ保険証」の使用に、医療機関側も患者も、まだ馴染んでいないので手探りでやっていることと、私たちは「適切な医療が受けられるのは当たり前」という感覚で、なかなかそれを「マイナ保険証による恩恵」と捉えにくいのではないか。
一方で、これは光のあたりにくい部分かもしれないが、コロナ禍ではパンデミックで医療機関の事務負担が激増し、逼迫が起きた。「マイナ保険証」はまだ始めの段階ということもあり、うまくいっていない部分も紹介したが、本来は医療機関側の事務負担を軽減するというメリットがある。うまく働いていけば、コロナ禍の時のような事態が起きることを防げる可能性がある。これは大きいのではないか。
━━しかし、トラブルは実際に起きているなかでなぜ来年11月の一体化にこだわる?
先ほども述べたが、厚労省の幹部は「政府全体で大きく方向性を変えていこうということには少なくとも今はなっていない」と話している。法改正もして来年の秋と決めたので「やるしかない」ということではないか。