先月21日、東海道新幹線の車内チャイムが20年ぶりに変更され、人気グループ・TOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」から、歌手・UAが歌う「会いにいこう」をアレンジした曲に切り替わった。
「会いにいこう」の作曲を務めた岩崎太整(たいせい)さんは、チャイムを作るにあたって20パターン以上を試作し、約4カ月かけて完成させた。制作の際には列車の走行音を流しながら作業を進めたり、車庫に停まっている車両の中で「AMBITIOUS JAPAN!」のチャイムに続けて試作曲を流したり、これまでのチャイムを継承することに力を入れたという。
「長い戦いだった。ちゃんと継承された感があるといい。新しいことをやるのも大事だが、ちゃんとつながりがあると受け取ってもらえるとうれしい」(岩崎さん)
これまでチャイムは長いものと短いものの2パターンあったが、新しいチャイムは1つに。制作現場に密着したテレビ朝日・経済部の梅田景記者はこう話す。
「私が密着したのは4月からでしたが、その時点で『会いにいこう』のサビ部分を使うことが決まっていました。岩崎さんに話を聞くと、サビ、イントロなど20パターン以上を制作していました。スタジオでは、新幹線の走行音をスピーカーから流しながら、まるで新幹線に乗っているような空間で、違和感がないかなどを何回も確認していました。また、現場では必ず『AMBITIOUS JAPAN!』を流してから『会いにいこう』の新しいチャイムを流して、『なんか違う』と思われないように気をつけていました」(以下、梅田記者)
その後、岩崎さんらは新幹線の車両基地で試曲。新幹線のN700AとN700Sでは、スピーカーの数が違い、音の聴こえ方も違ってきたという。
「グリーン車と普通車でも音の聴こえ方が違いました。グリーン車は床がじゅうたんなので、跳ね返りなどが違って聴こえるそうです。当初、車両基地における試曲は1回だけの予定でしたが、岩崎さんが『もう少し調整したい』ということで、一度持ち帰って作り直して再度試曲しました。その結果、N700AとN700Sでは若干違うパターンの曲が流れています」
▲テレビ朝日・経済部 梅田景(うめだ ひかり)記者
前回の「AMBITIOUS JAPAN!」では“途中駅”と“始発・終着駅”の2パターンのチャイムが存在したが、今回は1パターンのみだという。なぜ絞ったのか。
「『会いにいこう』はCMでも使われているぐらい、サビがとても印象的な曲です。どの駅を利用する人にもなじんでいただくために、1パターンに絞ったそうです」
これまで、細田守さんが監督を務めたアニメ映画「龍とそばかすの姫」や、山田孝之主演のNetflixドラマ「全裸監督」などで、音楽を担当してきた岩崎さん。日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞した経歴を持つ。最初はキャンペーン曲として「会いにいこう」を作っていたため「チャイムになるとは思っていなかった。公共の曲を作るとは思わなかった。夢物語のようだ」と話していたという。
新幹線のチャイムは1964年、新橋〜横浜間の開業時から存在する。国鉄時代の特急では「鉄道唱歌」のオルゴールが手巻きで流れていた。梅田記者によると、今でも岡山県を走るJR西日本の特急「やくも」(国鉄カラーのみ)で聴くことができるという。
「東海道新幹線のチャイムは、尺や曲に関するルールはなく、オルゴール調である必要もありません。JR西日本では谷村新司さんが作曲された『いい日旅立ち』や北陸新幹線の『北陸ロマン』が使われていますし、ほかにも期間限定だった特別仕様の『新世紀エヴァンゲリオン』新幹線では、『残酷な天使のテーゼ』が流れていました。岩崎さんは『違和感がない継承された曲』を意識されていたので、今回のようなメロディーになったのだと思います」
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