気候変動を止めるには“脱成長”? 「江戸時代に戻るとか、電気を使うなという話ではない」「モデルは1970年代後半」 斎藤幸平氏に聞く
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 日本で猛暑が続き、世界でも豪雨や熱波などの異常気象が伝えられる中、気候変動を止める方法として「脱成長」という考え方が注目されている。

【映像】「脱成長」のモデル?1970年代後半の暮らし

 国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も消費需要を減らす必要性を訴える中、2020年に著書『人新世の「資本論」』でいち早く主張していたのが東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏。『ABEMA Prime』で気候変動と地球の環境、危機感の共有の仕方について聞いた。

■「24時間営業や食べ放題。過剰な消費は本当に必要なのか」

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 斎藤氏は「岸田政権が言う新しい資本主義は『持続可能な投資をしていこう』というのがトレンド。そんなうまい話があるだろうか?というのが脱成長の考えで、理由は2つある」と説明する。

 「例えば、電気自動車は良い技術で、私も必要だと思う。ただ、大きなEVを作ったり、3台も買ってしまうのはどうなのか。他にも、24時間営業や食べ放題など、色々なところで過剰な消費を続けている。これが1つ目。2つ目に、今の資本主義社会では格差が広がっている。世界のお金持ちがプライベートジェットを乗り回したり、必要もないような大きい家に住んだりする中で、トップ1%の人たちが全体の15%もの二酸化炭素を出しているというデータもある。この状況を改善しない限り、本質的な気候変動対策はできないのではないか。要するに、過剰な生産や消費にブレーキをかけながら、格差を是正していけば、経済成長を続けなくても多くの人たちが普通の暮らしを送ることができ、しかも持続可能な形になるという考え方だ」

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 先進国の「豊かさ」は、グローバル・サウスの「犠牲」の下に成り立っているという指摘がある。例えば労働力の搾取や自然資源の収奪。ファストファッションを例に見ても、バングラデシュの劣悪な労働環境や酷暑のインドで綿花を作る農民があげられる。

 「日本がファストファッションをやめたら、バングラデシュの貧しい人たちが困るのではないか? というのは違うと思う。日本がその構造を押し付けることで、彼らが自分たちのためにものを作ったり、新しいものを発明したりする力を奪っている」

 脱成長に対し「過去に戻りたいのか?」という指摘はよくあるとした上で、1970年代後半の暮らしがモデルになるとの見方を示す。

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 「江戸時代に戻ろうとか電気を使うなと言っているわけではないし、効率化や省エネ化を否定する必要もない。しかし、本当は要らないものがあるのではないか? 24時間営業しているコンビニが50mごとにいるのか?ネットで必要ないものを何気なく頼んでいないか?これを考え直していく。70年代後半にはファストファッションもコンビニもなかったし、1泊2日で海外に行くこともなかったが、人は普通の暮らしをしていた。実際にそこまで落とすかは、技術の進歩にもよるが、今の過剰さを見直すという意味では必要だ」

 とはいえ、富裕層を含めそうした意識を持たせることは難しいのではないか。斎藤氏は「ある程度は法律などでやっていく必要がある。プライベートジェットを禁止しても、ここにいる我々は誰一人困らない。あるいは、ファストファッションやファストフードにも税金をかけられる。そのお金を環境にやさしい、例えばスポーツや芸術の振興に再分配していく。他にも富裕層の所得税をもっと高くするなどいろいろできると思う」と述べた。

■「脱成長」実現のためには何が必要?

 電通総研の「気候不安に関する意識調査(国際比較版)」によると、世界各国でZ世代の多くが気候変動に危機感を持っている中、日本は「心配していない」という回答が高くなっている。

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 斎藤氏は「若い世代だけでなく、社会全体として気候変動への関心が低いと思う。よく言われるのは文化的な要素だ。日本は災害が多いので、“しょうがない”と受け入れてしまう。脱成長も同じで、我慢や省エネを“不便なこと”とネガティブに捉えてしまうと、聞きたくない・関心を持たない」との見方を示す。

 脱成長の達成は「今世紀末くらいまで」をイメージしているというが、実現のためには何が必要なのか。

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 「ハーバード大学のある先生は『3.5%の人たちが死ぬ気で立ち上がると社会の制度や仕組みが大きく変わる』と言ってる。例えば、日本では街中や店でたばこが吸えなくなった。運動を始めたことで、法律ができて多くの人たちが従い、振る舞いが変わっていった。産業革命前と比較して地球の気温が1.1度上がっているが、これが1.5度を超えると今より大変なことが起こると言われている。ただ、目標達成が難しくなってきた以上、そこまで楽観的にはなれない。ゴッホの『ひまわり』に環境活動家がトマトスープをかけたのがアクションとして優れているとは思わないが、この危機を前に本気で立ち上がる人たちも出てきている。脱成長をもっとポジティブに捉えて、“今の資本主義、社会っておかしくね?”という空気ができてくれば、日本も変わってくるという希望は捨てないでいたい」

(『ABEMA Prime』より)

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