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 佐藤浩市×横浜流星のW主演、沢木耕太郎の同名小説を瀬々敬久監督が傑作に仕上げた映画『春に散る』が8月25日から公開。一度諦めたボクサーとしての再起に命を懸ける翔吾役の横浜流星と、翔吾に若き日の夢を託す仁一(佐藤)の姪・佳菜子役の橋本環奈インタビューに応じた。初共演のお互いの印象、そして大ベテラン・佐藤浩市との初共演の舞台裏を語るとともに、それぞれのターニングポイントにまで話は及んだ。

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横浜流星の細部にまで注意を払った役作り「格闘家が見ても本気でやっていると思われなければ」

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 かつて映画『きみの瞳が問いかけている』(2020年)で体重を10キロ増やしてキックボクサーを演じた横浜。今回は5キロ体重を減らしてフェザー級の体躯を作り上げただけでなく、ボクシングのプロテストにも挑戦して見事ライセンスを獲得した。中学3年時に空手世界一の称号を得ているだけに、格闘家に対するリスペクトと責任感がそうさせた。

 「僕自身、格闘家を目指していたからこそ、一番の課題は格闘家が見ても本気でやっていると思われなければという点でした。ボクシングの見せ方はもちろんのこと、体つきや雰囲気にもウソがないようにしようと、日焼けサロンで肌を焼いたり、髪の毛も傷んだような金髪にして荒々しい感じを意識したり」と細部にまで注意を払った。食事制限については「元々食が細い方で、毎日決められたメニューを食べるのは楽でした。そういった意味では増量の方がキツかったかも知れない」と性に合っていたようだ。

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 そんな横浜と初共演の橋本は、ボクサー・横浜流星を「前々からボクシングをやられていたのではないかと思うくらいの気迫とリアリティがあって近寄れない雰囲気すらあった」と評する。すると横浜は「橋本さんには快活なイメージがあったけれど、撮影現場では静かに役柄に向き合う真摯な姿を見ることが出来ました。佳菜子のような役をまた見てみたいと思った」と橋本の新境地に言及。これに橋本は「確かに佳菜子は私がこれまで演じてきたキャラクターとは異色と言える役。現場での盛り上げ役を率先する事もなく静かに撮影に臨んでいましたが静かでいられるのも心地よいと感じられた撮影期間でした」と振り返った。

横浜流星&橋本環奈が驚いた大先輩・佐藤浩市の“俯瞰力”「後ろに目が付いているのかと思うくらい」

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 戦う翔吾(横浜)の姿に自らの若き日々を重ねて導くのが、佐藤浩市演じる仁一。横浜は「翔吾にとって仁さんは心の支えであり、疑似親子や師弟関係のようでもあり、戦友のようでもある」と関係性を分析しながら「撮影中も浩市さんは僕に対して仁さんのような気持ちでいてくれました。『自分のやりやすいようにやれ』と言ってくれて、現場の集中力が途切れそうなときは率先して声を上げてくれる。どんな時も味方でいてくれて、何度も救われました。仁さんが浩市さんだったからこそ、翔吾と仁さんのような関係性が作れたのではないかと感謝しています」と初共演に感激しきりだ。

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 一方、クランクインが佐藤との2ショット場面だったという橋本。本格的初共演に際して「重厚な作品や役柄のイメージがあったので勝手に怖い人だと思っていた」と打ち明けるも「撮影初日が終わると『せっかく大分に来たんだから美味しいものでも食べよう!』とみんなを食事に誘ってくれて…でもかなり酔っていらして(笑)。次の日には『昨日はごめんね~!』と明るく挨拶をしてくださって。こんなにも温かくて優しい方なのかと驚きました」とベテランとは思えぬオープンマインドぶりに衝撃を受けた様子。このエピソードに横浜は「大分での撮影がなかったので残念です。僕もご一緒したかった!」と悔しがるも、「撮影の待ち時間にはたくさんのお話をしてくださいました。その他愛のない会話でこちらの緊張をほぐしてくれるというか…。しかも浩市さんはこの撮影が終わった後に僕が出演する舞台をわざわざ観に来てくれました」と心底嬉しそうだ。

 撮影中の佐藤のプロフェッショナルな立ち振る舞いや配慮にも痺れた。橋本は「カメラがどこまでを映しているのかを把握されている一方で、自分の撮られ方を意識していらっしゃる。そのバランス感覚が凄い。スタッフさんに対する接し方も丁寧で、注意するにしても場の空気を壊さないような言い方をされる。後ろに目が付いているのかと思うくらい全体の雰囲気を読む力があって、繊細な気配りを自然とさらっとやってしまう。そのカッコよさがありました」と惚れ惚れ。佐藤の俯瞰力には横浜も脱帽で「浩市さんの現場での視野の広さは自分には全くないもの。年齢やキャリアを重ねた時に僕もそうあらねばならないと思わされました。僕はまだ不器用で役を生きるために自分のことしか考えられないときもあるので…」と大先輩が見せる背中に羨望の眼差しだ。

横浜流星「事前に把握しておけば演技のイメージも膨らむ」クランクイン前に撮影場所を見学

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 ならば横浜と橋本の撮影現場の居方とは?TPOに合わせるという橋本は「自分が主役なのかそうではないのかの立ち位置や演じるキャラクターによっても違うので、現場で共通してやっているようなルーティンはありません。その現場の空気を壊してはいけないとは考えたりはしますが」と郷に入っては郷にしたがうタイプ。他方、横浜には最近始めたルーティンがあるようだ。「いざ撮影に入った時に自分のイメージと違う時が一番怖いので、クランクイン前に撮影場所やセットを見学するようにしています。例えばずっと暮らしている自分の部屋という設定の際に、撮影初日に初めて入って慣れ親しんだ自分の部屋のように過ごせるのかどうか。余裕を持って事前に把握しておけばイメージも膨らみます。実際にやってみてとても大事なことだと実感しました」と明かす。ちなみに本作では「シューズは練習の時から履き慣らしたもの。撮影で使用したグローブも練習の時から使用していました」と愛着感にこだわった。

「道を間違ったのではないかと思った時期も」横浜流星&橋本環奈の人生のターニングポイント

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 『春に散る』には、人生を変えたターニングポイントというテーマが内包されている。

 橋本が自らの人生の岐路に挙げたのは枝裕和監督の『奇跡』への出演だ。「演じる楽しさ、映画作りに子供心ながら魅了され女優を目指したいと考え始めた」と振り返る。

 横浜は俳優業を始めたことがターニングポイントだという。しかし現在のブレイクまでには紆余曲折があり、ターニングポイントだと認めるまでには時間が必要だった。「この世界で生きていこうと思ったものの、最初の頃は仕事が全くなくて、道を間違ったのではないかと思った時期もあります。空手も中途半端になってしまったのでは?と悩んだりして」と葛藤があった。だが俳優の仕事には一対一の格闘技にはない要素があり、徐々に魅了されていった。チームで何かを成し遂げるという達成感がそれだ。「自分一人という孤独な戦いとは違い、この仕事は人と人との繋がりや大勢の人と一つのものを作っていく。その楽しさに気づいた途端、自分にはこれしかないと思えるようになりました」と実感を込めながら、「初めての瀬々組は、僕ら役者に寄り添ってくれるとっても熱い組でした」と『春に散る』への達成感も改めて口にしていた。

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取材・文:石井隼人
写真:You Ishii

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