最近、岸田総理自ら情報発信する場面が増えているがその背景には何があるのか? テレビ朝日政治部の小野甲太郎記者に聞いた。
━━岸田総理による発信はどのくらい増えている?
岸田総理が総理官邸の出入りのタイミングなどに、記者団の問いかけに応じる「ぶら下がり」会見が急増している。8月21日から、9月4日までの2週間で12回にのぼっている。7月は1カ月間で7回だったため、その増加ぶりがわかる。
━━「ぶら下がり」とはどんなもの?
記者団からの質問にも答えるスタイルで、記者側の要請でセットされることが多いが政府側から要請が届くこともある。質問は1〜2問という時もあるが、9月4日は4つの質問に答えた。
━━総理自らの発信が急増した理由は?
理由は3つある。一つ目は「危機感」だ。マイナンバーをめぐるトラブルなどで岸田内閣の支持率は30%台と最低水準に低迷している。岸田総理は「自分の進めている政策をきちんと理解してもらいたい、理解してもらえれば国民は支持してくれる」という思いから記者の前に立っている。
二つ目は「山積する課題」だ。特にこの2週間は重要な課題が目白押しだった。処理水をめぐる問題のほかにも、ガソリンなど燃料価格の高騰への対策、そして万博の準備の遅れなど「自ら説明して国民の理解を得なければ」という強い思いにいたる材料が山ほどあった。
三つ目は「手応え」。ある政府高官は「発信を増やしたのは総理自身の考えだ。発信の重要性をかなり意識している」と話した。「発信力が弱い」と言われていた岸田総理が連日のぶら下がりに手応えを感じ、発信の機会を増やしていることは確かだ。
━━農水大臣の“汚染水発言”などにも総理は頭を抱えていたのか。
岸田総理はマイナ問題で批判を浴びた経験から、処理水をめぐる問題を前に「自分で発信しなければ」との考えに至ったのだという。野村農林水産大臣の“汚染水発言”があったのは午後3時過ぎだが、岸田総理は同日夕方のぶら下がりで「謝罪し撤回するよう指示した」と発表した。岸田総理としては、ぶら下がりがあったおかげで、速やかに「火消し」ができたと言える。
━━現場の記者から見て、岸田総理の「ぶら下がり」はどうか?
昨年1年間に岸田総理が受けたぶら下がり会見の回数は、前総理の菅義偉氏のおよそ1.5倍、取材を受けた時間の合計は2倍以上であり、意外と前に出る。
ただし、岸田総理の口から発せられる言葉は、聞いているほうからすると物足りない。秘書官や役人が書いた原稿のとおりに話していることが多いためだ。よく岸田総理が宙を見ていることがあるが、実は暗記している内容を思い出しているのだ。岸田総理が外務大臣だった時のぶら下がりでたまたま手元のメモが見えるところにいたが、その話す内容は役人の用意したメモのままだった。
これはある意味すごい才能だが、それだけに岸田総理の発言内容は政府の決定事項を説明しているだけだったり、具体に踏み込まないことが多い。ディフェンシブ、というか「ミスを防ごう、失敗しないようにしよう」という姿勢が目立つ。余計なことを言わないから霞ヶ関からの受けはいいのだが。
(ABEMA/倍速ニュースより)