ウクライナのゼレンスキー大統領が18日にアメリカを訪問し、ニューヨークで開催中の国連総会で演説した後、ワシントンを訪れてバイデン大統領と首脳会談に臨んだ。ニューヨークとワシントンで一連の動きを取材した梶川幸司支局長に「ゼレンスキー大統領の狙い」と「アメリカの支援疲れの実情」について聞いた。
【映像】アメリカ国民の半数以上が支援に反対?(CNN世論調査)
━━今回の訪米、ゼレンスキー大統領に成果はあったか?
「ロシアとの戦いは長期化が避けられない」という見方が強まる中で、ゼレンスキー大統領としては世界とアメリカ国内に向けて「団結」を訴えて、支援の継続を確かなものにしたいという狙いがあったはず。しかし、一連の日程を振り返ってみると、結果的には思い通りにいかず、むしろ「分断」の方が目立った印象を受けた。
━━国連総会での演説では「空席」が目立ったそうだが?
ビデオメッセージで演説した去年と比べると、議場に熱気はなく空席も目立った。「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカの国々の中には、ウクライナをめぐるアメリカとロシアの対立に巻き込まれたくないという思いから、出席を見合わせた国もあったと見られている。
また、世界には気候変動・物価高・エネルギー高騰などさまざまな問題がある中で国連の場がウクライナ一色になってしまうことを面白くないと思っている国もある。
━━ゼレンスキー大統領は国連総会に出席した後、ワシントンを訪れバイデン大統領と会談した。何が話し合われたのか?
ゼレンスキー大統領には、今回のワシントン訪問でどうしても手に入れたいものが2つあった。一つは「新たな武器」、もう一つが「議会の支持」だ。
まず、首脳会談に合わせて発表されたウクライナへの新たな軍事支援には日本円にして480億円、防空システムの強化、砲弾などが盛り込まれていたが、焦点となっていた「ATACMS」という長距離ミサイルは供与されなかった。これはロシアを刺激して事態がさらにエスカレートするリスクに加えてアメリカ軍の長距離ミサイルの備蓄に限りがあることも要因のようだ。
━━「議会の支持」は得られたのか?
ゼレンスキー大統領はホワイトハウスでバイデン大統領と会談する前に議会を訪れて、上院議員に現在の戦争の状況について説明したり、下院の民主党や共和党の幹部と会談し、支援の継続と拡充を訴えた。
出席者によると、ゼレンスキー大統領は上院議員に対して、「アメリカからの支援がなければ戦争に負ける」と述べ、軍事支援の継続を直訴した。ゼレンスキー大統領は終了後、メディアの前で「素晴らしい対話ができた」と語っているが、結果は複雑であった。
━━ウクライナが戦い続けるために、なぜアメリカ議会の支持が必要なのか?
一言で言えば「予算」だ。アメリカでは予算の権限は議会が握っており、議会の支持がない限り、軍事支援は前に進まない。
ゼレンスキー大統領にとって悩ましいことだが、アメリカ議会が去年12月にウクライナ支援として承認した449億ドル(6.6兆円)の予算が、急速な弾薬の消費などでもうすぐ底をつく恐れが出ている。
━━そんな中、アメリカの「世論」がウクライナ支援に厳しくなっている。CNNが7月に行った世論調査では、「議会は追加のウクライナ支援を認めるべきではない」と答えた人が55%と過半数を超えた。与党の民主党支持層は62%が賛成だが、野党の共和党支持層は71%が反対している。なぜ共和党支持層は反対するのか?
共和党支持層は「ウクライナ支援はもう十分やった」、「予算は国内のために使うべき」という声が根強く、共和党の議員も支持者らの意見を無視できない。
共和党最有力の大統領選候補であるトランプ氏も、ウクライナを支援するとは明言しておらず、「自分が大統領になったら24時間以内に戦争を終わらせる」と言っている。戦いを即座に終わらせるということは、巨額の支援を続ける気はないということだ。
野党・共和党が多数を握る下院では、トランプ氏に近い“保守強硬派”を中心に、巨額の支援を続けることに否定的な意見が出ていて、トランプ氏に近い議員はさっそくSNSに「もう十分だ。支援を続けることにNOと言うつもりだ」と投稿している。
━━「支援のための予算が通らない」こともあり得るのか?
議会全体で見ると、ウクライナの支援を続けることに賛成の議員の方が多いが間の悪いことに、ちょうど今、議会では来年度の予算をめぐって与野党が激しく対立し、来月から政府機関が一部閉鎖されるのではないかという重大な局面を迎えている。
そういう事情もあって、共和党のマッカーシー下院議長は、メディアのカメラがある場所ではゼレンスキー大統領と会うことを避けた上で、記者団に対して、「まずは国内の問題が優先だ」として、ウクライナ支援の追加予算を年内に通すことを確約しなかった。民主党に対して、簡単に折れるわけにいかないのだ。
ゼレンスキー大統領としては当面の予算を確保してもらうため、今回の訪米で共和党の幹部に直接会って理解を得ることが至上命題だったが、与野党の対立が激しすぎて、先行きは不透明と言わざるを得ない。
(ABEMA/倍速ニュース)