野球の世界には、飛びすぎる“悪魔のバット”と呼ばれる商品がある。
MIZUNO(ミズノ)の『ビヨンドマックス』は、ボールが当たる部分に高反発性能の発泡ウレタンを使用し、飛距離を追求したもの。2002年に発売されると、草野球界の常識を変えた。
初代は、従来の金属バットに比べ、平均飛距離が6.4メートルアップ。2020年発売の『ビヨンドマックス レガシー』は113メートルの飛距離を記録し、2018年発売商品の106メートルを大きく更新した。ビヨンドマックスは、1本5万円ながら売り切れ続出だという。
野球YouTube「トクサンTV」の徳田正憲さんは、「誰もが思いつかなかった、とんでもない発明」だと話す。
「ホームランを打ったことがないおっちゃんたちに、ホームランの夢を見させるためのバット。だからスイングスピードが速くなくても、ある程度とらえたら飛ぶような構造に、あえてメーカーがそこに魂をかけて開発したのがビヨンドマックス」(徳田氏)
「ちゃんと打つということをしないと打てない」としつつも、本来アウトの打球がヒットになるなど「ドーピング要素はあるのかな」と印象を語った。
しかし、飛び過ぎるがゆえに自治体では使用禁止の動きが出始めている。世田谷区では9月19日から、いわゆる高反発バットの使用が禁止された。世田谷区広報広聴課の担当者は、ボールが6メートル程度のフェンスをたびたび飛び越えてしまい、通行人や自動車にボールがぶつかる事例があったことを理由に挙げる。他の自治体でも使用禁止は広がっているという。
また、野球に詳しい作家のチャッピー加藤氏によると、高校野球では、すでに従来よりも飛ばないバットが推奨されており、2024年からは日本高野連が定めた新基準の「低反発バット」を使わなければならないと説明する。“飛ぶバット”を使用することにより、ピッチャーはより変化球を投げる必要などが出てくるため、肩や肘の負担が増してしまうからだ。
2020年から球数制限が導入され、投手1人が1週間で投げられるのは500球が上限となった。また、2019年には鋭い打球が投手に直撃し、頬骨を折る大けがも起こり、安全策が求められていた。高野連の実験によると、新基準のバットは従来品より、打球の初速が約3.6%減少するという。2024年の春大会から、すべてのバットが新基準となる。
今年の夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)の合計本塁打数が、2017年の68本から、2023年は23本と、3分の1にまで激減したという事実もある。
MIZUNOバット企画担当の須藤竜史氏は、「当然安全面は考慮しなくてはいけない」としながら、複雑な心境を口にする。
「反発性能をあげて、飛距離をあげる。それを目指せなくなるのは残念といえば残念。野球というものも大きく変わってきていると思うんですよね。求められるギアが、バットも含めて変わってくるのは当然ですし、我々も変わらなければいけない」(須藤氏)
そして「バットに求められる要素は“飛び”だけではない」と言い、打った感触や打感、音や振りのバランスなど求められるものを探りながら開発を進めていくと語った。
政治ジャーナリストの青山和弘氏は、息子がビヨンドマックスを愛用。親子大会に出場したときに、それでホームランを打ったことがあると振り返りつつ、ある悩みも口にした。「禁止する球場とか大会というのが、まだらに存在して、うちの子は『もう1本バットを買わなきゃいけないのか』が家庭の問題になっているんです」。そして、子どもにとってバットは何本も持つものではないとし「どこかでばっさり統一してもらわないと、少年野球のみんなが困惑すると思いますね」と提言した。
元週刊SPA!副編集長の田辺健二氏は、みずからも草野球でビヨンドマックスを使っている経験から、「『ホームランが打てるかも』と思わせたのが画期的だった。スウィングスピードが遅くても、非力でも、おじさんでも…」とありがたみを語る。そして、その一方で「使用禁止の波は止められないだろう」と残念がった。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側