チームエントリー、“解散”を生報告&声援に感謝 リーダー・郷田真隆九段「生まれて初めて」のイベント主催チャレンジの舞台裏
【映像】力を合わせて激戦に臨んだチームエントリー

 将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」に出場したチームエントリーの郷田真隆九段(52)、行方尚史九段(49)、古賀悠聖五段(22)が9月24日、東京都渋谷区の駒テラス西参道に参集。チームの解散イベントを開き、ファンに応援への感謝を伝えた。

【映像】力を合わせて激戦に臨んだチームエントリー

 予選Dリーグ第3試合放送から約1カ月後の8月初旬。新宿駅近隣のカフェに郷田九段と行方九段の姿があった。2人の会合の内容は、チームの解散イベントの開催について。いつ、どこで、内容は…?将棋ファンの増加からニーズが細分化したこともあり、“作戦会議”はチームリーダーを務めた郷田九段を中心にゼロベースからのスタートとなった。

 郷田九段は19歳で四段昇段後すぐに頭角を現し、プロ3年目の1992年には王位戦挑戦から史上初となる四段でのタイトル獲得を決めた。その後もトップ棋士として名人挑戦2期を含め番勝負登場は18回、獲得は6期、現在もトップランナーとして多くの将棋ファンを魅了している。若くして棋界の顔役を担ってきたこともあり、イベント出演回数は多いものの「自分でイベントを作るのは生まれて初めて」。幾多の激戦を潜り抜けてきたベテラン棋士であっても経験したことのない難関、難問に挑むこととなり、準備段階はもちろんチケット完売後、イベント直前まで「この内容で皆さんに満足してもらえるだろうか…」と深く頭を悩ませることとなった。

 第1回企画会議以降、遠征を含む対局や公務の合間を縫ってそれぞれがイベント準備のため奔走することに。参加者へのおみやげとして、行方九段からは地元・青森県産のシードルまたはりんごジュース、古賀五段は福岡の銘菓を用意。行方九段は「ファンの皆さんと一緒にお酒(シードル)を飲むのはどうか」と立案したものの、会場は明治神宮西参道周辺の活性化を目的とした事業の一つとして渋谷区が首都高速の高架下に整備した施設。運営は将棋連盟が担っているが、念には念を。“グレーゾーン”を生じさせないためにも各所へ許可をもらうべく、郷田九段はここでも走ることとなった。

 確認事項に至っては大から小まで枚挙にいとまがない。進行の時間管理は?台本作成は?経理処理は?連名の色紙の準備は?提供するケーキ用のカトラリー類は?ゴミの分別は……?しかし、これも一人ひとりが丁寧にチェック項目を埋めていく以外に不安を消す方法はない。運営の一部を“外注”したとしても、今回の主催者は3人だ。根本的な解決には至らないと、対面、電話、メールでスタッフと細かな打合せを重ねていた。

 ここまで郷田九段を動かしたものは何だったのか。命題となったのは、ファンへの感謝と新将棋会館建設費寄付だ。最初に目標を掲げたのは、ABEMAトーナメントのエントリー戦を勝ち抜き、行方九段、古賀五段とのチーム結成が決まった直後。恒例のチーム動画撮影が行われた際「優勝賞金の使い道は?」の問いに、迷うことなく同建設費へ寄付することを約束した。また、過去のABEMAトーナメントで指名を受けたリーダーたちからの影響も。前・将棋連盟会長で第5回大会の佐藤康光九段(53)のリーダーシップはもちろん、第4回大会の主将・菅井竜也八段(31)が先に開催したチーム解散イベントの例も大いに参考にしており、激務の中でもファンサービスに尽力するパワフルな活躍ぶりも刺激となったようだ。

 大きな目標を掲げて挑んだ予選リーグだったが、佐藤康九段率いるチーム康光に1勝5敗、糸谷哲郎八段(34)のチーム糸谷にはフルセットの大激戦の末に4勝5敗で敗れ、予選敗退。頂点には遠く及ばなかったものの、本イベントでファンへ結果報告と声援へのお礼を直接伝えるとともに、オークションの売り上げと経費を除いた参加費を連盟へ寄付。予定から形は変えたが、目標の一部を実現する結果となった。

 イベントでは指導対局のほか、フィッシャー対決を皮切りに、ファンと一緒にケーキを食べるお茶会…を脱線し行方九段セレクトのシードル試飲会などを実施。オークションにはそれぞれが対局の時に使っていた愛用グッズを出品し、特に郷田九段の冬のトレードマークとも言える紫色のマフラー、行方九段が名人挑戦を決めた際に着用していたというネクタイが紹介されると、参加者からは驚きの声も沸き起こっていた。トークショーではABEMAトーナメントの未公開秘話はもちろん、参加者から寄せられた質問に答える形式で進行し盛り上がりを見せた。

 「また大会に出ることがあれば、この3人で出場したいです」。トークショーの中で古賀五段が語った真っすぐな言葉に、行方九段は「それって天文学的な確率では!?(笑)」と笑ったが、ベテラン勢の嬉しそうな表情と“再会”を誓い合うように顔を見合わせた様子に、客席からは大きな拍手も送られていた。チームのこだわりが詰まったイベントは、大盛況のうちに終了。3人はギリギリのスケジュールに肝を冷やすことも多かったようだが、会場いっぱいに詰めかけたファンの笑顔は、準備の苦労を軽く吹き飛ばすほど大きな喜びとなったようだ。

 今期のABEMAトーナメントは永瀬拓矢王座(31)率いるチーム永瀬が3年ぶり2度目の優勝を飾り、約半年間の長い戦いを終えた。解散イベントの裏側を紹介したエントリーチーム同様、全15チームそれぞれに絆と物語がある。今後はどのようなドラマが生まれるか、戦いの場に身を置く棋士たちはどんな表情を見せてくれるか、さらに進化していく大会の未来に期待は高まって行く。

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