「道の駅」に設置された「段ボール製の授乳室」が賛否を呼んでいる。
横幅約1m、高さ約2mの箱状で、重さは約20kg。中にはイスが設置されているが、カギはもちろんドアもなく、入口はカーテンで仕切られている。
この授乳室に対して、SNSでは「使用中だとわかると、いたずらされそう」「授乳中だと逃げられないから怖い」「衛生面でもプライバシー面でも不安」といった批判の声が続出した。一方で、島根県の丸山達也知事は「100点じゃないから供用すべきじゃない、というのは間違った考え方です。『ああいうものでもいいから使います』という人がいるのなら、供用し続ければいいと思いますけどね」と反論する。
実はこれ、国土交通省による「子育て応援」の取り組みの一環だった。道の駅でのベビーコーナー設置率は、2019年度のわずか4%から、2025年度までに50%超へ増やす目標を掲げている。
その方針を受けて、日本道路建設業協会が授乳室を選定し、寄贈した。段ボール授乳室は、今後3年間で全国の道の駅に150セット設置される予定だという。選んだ理由には「コストが安く、一定量の寄贈が可能。設置後も移動ができ、災害時に活用できる」ことを挙げ、選定時には女性の意見を取り入れて改良したとしている。
しかし9月20日の設置以降、実際の利用者は0人だ。また、同じ島根県の川本町では、安全面などを考慮して、当面の間使用しないと決まった。道ゆく「ママさん」たちからも、さまざまな心配の声が上がっている。
「壁とかじゃなくて段ボール…安心できるのかな?変な人がいたら、少し不安は感じる」
「無防備な状態。安全性の低いところに入る勇気は、ちょっとない」
「ちょっと物音がしただけでも、赤ちゃんは『ビクッ!』となり、授乳中に泣き出す。簡易的すぎて、音漏れとかも心配」
こうした意見について、段ボール業界の関係者は、どう受け止めているのか。段ボールメーカー「Jパックス」代表取締役の水谷嘉浩氏は、「イエスかノーかでいくと、私もノー」と語る。同社は東日本大震災をきっかけに、段ボールベッドを開発して、同業者とともに、20の被災地で2万台以上を提供してきた。
「段ボール自体は非常に便利なもの。便利ということは加工がしやすいわけです。比較的安価で、いろんな形に切っていって、いろんなものがアイデア次第でいくらでもできる。ただ、安全性とか快適性とか、そういう目的にそぐわないと、あまり適していないと思うんです」(水谷社長)
自らの経験から、段ボールの特性を語る水谷社長に、強度についても聞いてみた。
「設計次第で、いくらでも強度は高くできます。例えば私が12年前、東日本大震災の時に考案した段ボールベッド。均等に加重して破壊テストをかけるんですけど、7トンに耐える。むしろ普通のベッドよりも、はるかに強度が強い。そういう設計もできるにはできるんです」(水谷社長)
段ボールベッドは、東京2020オリンピックで世界的に評価され、パリオリンピックでも選手村のすべてにあたる1万6000床分の提供が決まっている。授乳室に使われている強化段ボールは、水拭きも可能で、強度的には問題がない。
「アイデア自体はすごくいいんですけども、赤ちゃんとか若いお母さんのためにということであれば、もう少し安全性に配慮するのが必要かな。段ボールのメリットは『軽くて強い』というのがあるんですけど、むしろそれが、あだになる。授乳室を横から押せば、簡単にコロンと倒れてしまいますね」「どこにも使用者の主観がないんです。供給者の主観なんですね。コストであったり、軽くて強いであったり、真新しさ。それで選んでいるような気がするんです。使用者からすると、まずは安全性が非常に重要なことだと思います」(水谷社長)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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