四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
【映像】日本版DBS ブラックリストではなくホワイトリスト方式?
この記事の写真をみる(6枚)

 大手中学受験塾「四谷大塚」元講師による盗撮事件で、2人目の逮捕者が出た。相次ぐ児童の性被害に、政府も事態を重視。松野官房長官は「塾講師としてあるまじき、悪質な犯行であると認識している」「日本版DBSについて、こども家庭庁においてその導入に向けた検討を進めている」と述べた。

【映像】日本版DBS ブラックリストではなくホワイトリスト方式?

 「DBS(Disclosure and Barring Service)」とは、性犯罪者のデータベースを作り、子どもと接する仕事を希望する人に性犯罪歴がないことをチェックする制度のこと。イギリスではすでに導入され、日本政府も秋の臨時国会での法案提出を目指していたが、見送る方針となった。

 なぜ日本版DBSの議論は進まないのか。導入が児童の性被害を防ぐ決め手となるのか。『ABEMA Prime』で議論した。

■「リスクを子どもに近寄らせない」「百数十年来の刑事政策の根本と相容れない」

四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
拡大する

 前こども政策担当副大臣、自民党の和田義明衆議院議員は「職業の対象は、学校、保育園、幼稚園だけでは不十分で、子どもに関わる全てのところをカバーしたい。また、痴漢など条例違反となるものは前科から漏れてしまったり、学校で処罰される前に辞めた人も入らない。こういったものを1つでも潰していきたいが、一方で憲法との兼ね合いもあるので、難しいバランスのところを詰める必要がある」と説明。

 弁護士、法学者、甲南大学名誉教授の園田寿氏は「前科情報は今、日本でもっとも厳格に管理されている個人情報。これが民間に流れる制度というのは、百数十年来、作り上げてきた刑事政策の根本と相容れない。その根本が十分に議論されているかが問題だと思う。もう1つは、刑法の原則をこども家庭庁という一省庁の規則で変えられるのかということ。難しい言葉を使うが、上位の規範を下位の規則で変更できるのか。犯罪者の改善更生システムに大きな変更を加える制度なので、もっと議論するべきだ」との見方を示す。

四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
拡大する

 これに和田議員は「確かに刑法は上位の法律であり、そこの整合性は必要だ。一方で、政治は立法府であるので、今の法律をただ守るだけではなく、時代にあった形に変更していくこともやらなければいけない」とした。

 日本版DBSでは、求職者の応募後、雇用主が政府のシステムに照会して回答を得る仕組みがイメージされているが、照会期間や情報漏洩なども論点にあがる。

 和田議員は「(データ保存は)10年が適切なのか、それとも20年なのか、常習制を考えれば永遠に残すべきなのか、といった議論もまだ熟していない」「イギリスは1日2時間以上子どもに触れる職業を求める人は、その人が無犯罪証明書を受け取ってくる。私もそのほうがいいのではないかと思う」と述べる。

四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
拡大する

 園田氏は、日本版DBSの導入には慎重な立場だ。「性犯罪は再犯率が高いと一般の人は思っているが、実態はそうではない。ほとんどの人が二度と性犯罪をせずに暮らしている現実があるというのが出発点だ」と指摘。

 和田議員は「統計は条件によっていかようにも変わる。痴漢は犯罪ではなく条例違反で、再犯者率の9.6%に入っていないというのは、そもそも設計としておかしいわけだ。政府はこども家庭庁を創設し、“こどもまんなか社会”をメインの政策としてやっている。リスクのあるものを子どもに近寄らせないために何をするべきかが、今回の日本版DBSの最大のポイント。この臨時国会での上程は厳しくなっているが、政府として必ずやり切るというのは使命として強く認識している。延ばすということは絶対にない」と述べた。

■ブラックリストではなくホワイトリスト方式?

四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
拡大する

 園田氏は「ブラックリスト」ではなく、問題ない人のリストを作る「ホワイトリスト」を提案している。「例えば、問題を起こして塾をクビになると、ホワイトリストから削除される。その人が新たな塾に証明書を持って行った時、リストに載っていなくても、採用側が『あなたはなぜ載っていないのか?』を個別具体的に聞いていくことができる。結婚や病気で辞めている人もいて、犯罪もいろいろな理由の1つだ。カウンセリングを受けて今は問題なく過ごしているという話もできる。ブラックリストは載っているだけでアウトになってしまう」。

 これに和田議員は「ホワイトリストは良く聞こえるが、実はものすごい怖いことだ」と反論。「“この人はホワイトである”と国が証明することになる。ブラックリストに載っていない人の中に予備軍がいて、たまたま載っていないだけという場合もあるだろう。そういうグレーの人を、国がホワイトであると証明をするのはやるべきではない」との見方を示す。

四谷大塚盗撮事件で脚光 「日本版DBS」の議論なぜ進まない? リスト作りにも賛否が
拡大する

 一方、近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「証明書を出す行為は、結果的にホワイトリストに見えると思う。塾や学校が義務を負ってチェックしなければいけないのも、作業が大変で負担になりそうだ。応募する人が提出書類の中に証明書を付けるだけで、園田さんがおっしゃっている仕組みに十分なると思う。義務化だと法律的にすごく大変なので、市場に任せればいいのではないか? “うちの塾はちゃんと証明書を持っている人しか雇っていません”とみんな書き出して、スポーツクラブなども追随すると思う」との考えを述べる。

 和田議員は「DBSから証明書をもらっても、それは“ブラックリストには載っていない”というだけだ。引き続き、何かあれば現場で厳しく対処してくださいということは、申し添える必要はあると思う」とした。(『ABEMA Prime』より)

この記事の画像一覧
子どもに性加害行為…当事者が生出演 DBS制度は必要?過去の罪を発信する意義は
子どもに性加害行為…当事者が生出演 DBS制度は必要?過去の罪を発信する意義は
性被害告発はウソだった?残され被害どう払拭? 疑惑が晴れた草津町長が生出演
性被害告発はウソだった?残され被害どう払拭? 疑惑が晴れた草津町長が生出演
【映像】性被害告発はウソだった?残され被害どう払拭? 疑惑が晴れた草津町長が生出演

■Pick Up
「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側

この記事の写真をみる(6枚)