不貞の進化系「パラサイト不倫」をテーマにした、日向坂46・齊藤京子が単独初主演する連続ドラマ『泥濘の食卓』（10月21日午後11:30）。初回放送で展開された毒親・捻木美幸（筒井真理子）の娘・捻木深愛（齊藤）に対する自己肯定感削ぎ取り描写に背筋が凍る。
アルバイト先のスーパーの店長と不倫している深愛が、店長家族の中に入り込み、妻や息子の心にパラサイト。店長一家を泥濘へと引きずり込んでいく。原作は、2016年に『悪い夢だといいのにな』で第75回ちばてつや賞大賞に輝いた新進気鋭の漫画家・伊奈子による同名コミック。「パラサイト不倫」といういまだかつてないジャンルを誕生させた衝撃作だ。
なぜ深愛は家庭を持つ那須川店長（吉沢悠）との道ならぬ恋に足を踏み入れ、問題山積の那須川一家を救いたいという歪んだ使命感や夢を持ってしまうのか？「自分には何の取柄もない」と思い込む深愛の自己肯定感の低さも含めて、その原因はえげつない毒親・美幸の存在にあった。
母娘二人で囲む静かな食卓シーンは壮絶だ。母・美幸が作ったきんぴらの美味しさに感激し「今度作り方を教えて」と笑顔で頼む深愛に対して、美幸は「えっ？あんたきんぴらも作れないの!?…あんたをもらうことになる旦那さん、苦労するわねぇ」と先制ジャブ。
深愛の傷ついた心情など一切無視の美幸は、スイッチが入ったように「旦那は顔がある程度カッコいい人を選びなさいよ。あんたに似たらかわいそうでしょ、子ども」とさらっと酷いことをいい、オドオドする深愛の「私は…顔より性格で選びたいかな」という必死の本音も「バッカねえ！性格で選んでもね、人なんてちょっとしたことですぐに変わっちゃうのよ？何があっても許せちゃう、自分の好きな顔で選ばないと。それに可愛くない子どもなんて大っ嫌い」と全力で否定する。
深愛はもはやサンドバック状態。美幸は「あんたは就活も失敗して、毎日ご飯まで用意してもらって。このままじゃお母さん死んでも死に切れないわよ。早く孫の顔見て安心して死にたいだけなのに。あんたが高校の時に男と家出してから、あんたへの信頼とか期待とか？どーでもよくなっちゃったのよねえ。いい加減親孝行してよ」と言いたい放題だ。しかしこの暴言が、揺らいでいた深愛のトリガーになり、パラサイト不倫を決意させることになるとは…。
毒母・美幸を淡々と演じることで厭味ったらしい人物像を浮かび上がらせたのは、映画『淵に立つ』『よこがお』で各映画賞を総なめにした実力派・筒井真理子。いきり立つわけでもなく、声を荒げるわけでもなく、他愛のない日常会話のようなトーンでバサバサと切りかかる。そのリアルな“普通さ”ゆえに言葉の端々のトゲが強調され、鋭さも増し、深愛の常識が歪んでいく様が手に取る様にわかる。深愛のパラサイト不倫の行く末もさることながら、毒母・美幸との関係性の変化にも注目したい。
