中国の習近平国家主席が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」。アジアとヨーロッパを陸と海の物流ルートで結び、貿易を活発化させて、経済成長につなげようという構想は今年で10年を迎え、それを記念する国際会議も先日行われた。虎視眈々と影響力の拡大を狙う中国、その実態にANN中国総局 李志善記者が迫った。
■一帯一路、南ルートの最新事情
━━中国からラオスにつながる高速鉄道においては、約1兆円の総工費を中国が拠出、残りの大半も中国からの融資だというが、この鉄道によってどのような変化が起きたのか?
中国の影響もあってラオスの経済成長率は4%に上ると見込まれている。首都ビエンチャンは凱旋門や病院の建設地など中国の援助がいたる所で確認できる一方で、通貨安とインフレに苦しんでいる。
ラオスで取材した多くの人は中国への感謝を口にしたが、若者は「自国の力が発展せずどんどん依存が強まっていく。いつか言うことを聞かざるを得なくなるのでは…」と将来の不安を口にした。環境が整う人は海外に出ていくという。外国語の一番人気は英語で2番目は中国語だ。
━━ラオスに隣接するカンボジアの取材で感じたことは?
実際に中国の投資で整備された道路を走った。まだまだ悪路もある中で、現地の人にとってみればインフラ整備はありがたいだろう。また、カンボジアの経済特区ではたしかに多くの雇用も生まれている。
だが、中国が深水港の建設を目指すカンポットという街のある漁師は「業者が突然やってきて環境への影響評価すらなく工事が始まり、その影響で漁ができなくなった。保障は一切ない」と不満を口にした。3人いる子どもをどう育てるか悩み、村全体で港の建設に反対しているという。
カンボジアのシアヌークビルという都市では廃墟ビルが約1000棟も立ち並ぶ。工事が止まった理由は、コロナ禍前には30万人もいた中国人が急激に減ったこと。同時に中国の経済が悪化したこともあり、一気に中国資本が手を引いて工事が止まったという。中国側の“損切り”と言える。
もちろん中国側だけでなく現地政府の管理や見通しが甘かった面もあるが、地元住民は「シアヌークビルはかつて静かなビーチだったが、カジノと廃墟ビルばかりになって残念だ」と口にした。一帯一路構想の影の部分ともいえ、持続可能性や透明性などこれからの10年が問われる。
■西の陸路ルートで今起きていること
━━ラオス、カンボジアという南の海に向かうルートに加えて、西側の陸のルートはどうか?
新疆ウイグル自治区の阿拉山口周辺を取材したが地元の人は急速な変化・発展に驚いている様子だった。この西側ルートを深堀りすると広い意味での「安全保障」としての顔が浮かんでくる。
食糧自給率が高いにもかかわらず、中国が輸入先など多元化を進めているのは戦略的にアメリカなどとの長期的な対立に備えている側面があるからだ。実際、阿拉山口には関係を重視するカザフスタンから小麦やひまわり油など穀物関連の輸入が増えているという。背景には、中国が、一帯一路の枠組みで、ヨーロッパのパンかごと言われるウクライナから小麦やひまわり油の輸入を試みたものの、ロシアの侵攻により物流がストップしたことも影響しているとみられる。
━━一帯一路はただ経済面の構想だけではない“別の顔”もあるということか?
中国視点で世界地図を見てみると、周りには日本や韓国、台湾、フィリピン、そして中国と微妙な距離をとるインドがあり、外に出られないように封じ込められているように映る。
しかし、これを“突破”するようにミャンマーと中国を繋ぐ石油のパイプラインがすでに稼働しておりさらに、パキスタンの港から新疆ウイグル自治区までをつなぐパイプライン計画も進んでいる。
このエネルギー・物流のラインはアメリカの影響力が強いマラッカ海峡が万が一、ストップした際に安全保障の面でも重要になってくる。さらに、タイ南部に運河を建設しようとする動きもあり、もし実現すれば中国としてはマラッカ海峡を使わずに交易が可能になる。
一方で、9月のG20サミットではアメリカとインド・サウジアラビア・UAE・EUの首脳が中東経由でインドとヨーロッパを鉄道や航路で結ぶ交通インフラ整備計画に関する覚書に署名した。これには中国の一帯一路に対抗する狙いがあるとも言われる。俯瞰してみると、ダイナミックな国際関係が見えてくる。
(ABEMA/倍速ニュース)