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 芥川賞受賞の私小説家・西村賢太も激賞した、岩浪れんじによるコミックが原作の映画『コーポ・ア・コーポ』(11月17日公開)。昭和レトロな大阪のコーポを舞台にした本作で、女性に貢がせて暮らすヒモ男・中条を東出昌大が好演した。パリッとしたスーツに身を包み、清潔感溢れる風貌と甘いルックスと声で女性たちを虜にしていく姿形はまさしく優男そのもの。しかし取材部屋に入ってきた東出は、長髪&顎鬚のワイルドな風貌に様変わりしていた。俳優業のみならず、バラエティ仕事にも引っ張りだこの東出が、ヒモ男を演じた心境やここ最近のワイルド路線のワケを語る。

【映像】東出昌大のワイルドな旅姿

ヒモ男・中条に感じる太宰治的な内省「お互いの弱さに気づかせ合いながら生きる意味を探している」

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――不倫愛を演じた『天上の花』、間男と罵られる『福田村事件』、そして女性に貢がせるヒモを演じた今回と、最近の東出さんはダメ男役が続いてますね。

役をお引き受けするかしないかの判断基準は、ストーリー全体の魅力と単純に僕のスケジュールの問題になってきます。今回の中条という役はわかりやすく形容するならば女性に養ってもらっているヒモ男。ただヒモはヒモでも人間味のあるヒモです。それはこの物語全体にも言えることですが、コーポに集まったいびつな人間たち全員のキャラクターにリアルな人間らしさを垣間見ることが出来ます。そこを僕は「いいなあ」と感じました。この映画にどんな魅力を感じたのか?と問われるならば、僕は「なんかいい」としか言えません。具体的にどこがどうというのは言いたくない、この「なんかいい」を感じた脚本だったのでぜひ演じたいと引き受けました。

――演技とはいえ、女性を翻弄するヒモ男を演じてみていかがでしたか?

中条は空虚さを抱えている男のように感じました。ヒモといっても、女性を風俗で働かせて食い物にするような酷いことをするわけでもないし、私利私欲のために金持ちになりたいという単純すぎる動機もない。女性からお金を貢いでもらうという行為に、中条自身の弱さを確認する行為も含まれているような気がして、中条もそして中条に貢ぐ女性も自分の弱さに気づき、気づかされ合いながら、生きる意味を探しているような節があります。僕はそんな中条の姿が好きで、ヒモになりたいというわけではないけれど、どこか共感してしまいます。

――ダメだと自覚しながらダメな道を歩む中条の姿に、太宰治的な内省を感じました。

人間誰しも他人といる時は何かを演じているものです。中条は演じている度合いが大きい分、女性から何を考えているのかわからないと思われている。何を考えているかわからないというのが中条のミステリアスな魅力にも繋がっていて、女性は彼の心の内をもっと知りたいと思って惹かれてしまう。逆説的に言えば、中条だって女性の探求心をくすぐるために何を考えているのかわからない風を演じているのだと思います。住人の一人であるユリ(馬場ふみか)といる時や、一人でいる時に「這い上がりたいね…」とポロっとこぼす言葉の中に、彼の本音や本質がある気がして、そこに僕は中条の素直さを感じました。

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――ミステリアスな魅力といえば、東出さんも急に山に住みだしたりしてミステリアスな人のように感じます。

昔から仲のいい友達からも「一周回ってよくわからないヤツ」と言われたりします。でも僕だって自分のことなんかわからないんだから、それはもう仕方がありません(笑)。これは年を重ねたからこそ感じることなのかもしれませんが、自分なんてまだまだ未完成です。中条も親に敷かれたレールに乗っていいところのお坊ちゃんとして育てられてきた状況から逸脱し、ヒモになりながらも自問自答して生活している。ということは彼も自分のことを未完成だと感じているはずで、その点も自分と似ています。僕も「生きるとは?」「普通とは?」なんてことを日々考えながら生きていますから。

ロン毛&髭のワイルド路線は役作り「これからの季節のことを考えると長い髪の毛の方が温かくていい」

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――『コーポ・ア・コーポ』では現在のワイルドな姿とは似ても似つかない、好青年スタイルの東出さんが映されていますね。

あははは!まあ、馬子にも衣裳と言いますか、立派なスーツを着させていただきました(笑)。ヒモを演じられるというのも面白かったです。

――ロン毛&髭という最近のワイルド路線へのイメチェンでミステリアスさに拍車が掛かっているような気がします。

11月23日から始まる舞台『ハイライフ』で、自分の身なりを気にしないようなジャンキーを演じるので、その役作りのために髪も髭も伸ばしています。だからワイルド路線を意識しているわけではありません。稽古中に演出家の指示でこのスタイルも変わるかもしれませんが、これからの季節のことを考えると長い髪の毛の方が温かくていいので、髪の毛を切れとは言われたくないです(笑)。

――ここまで髪の毛や髭を伸ばしたのは初めてのことですか?

確かにここまでは初めてかもしれません。周囲からの反響は…ありません(笑)。でも山の温泉でよく会うおじちゃん達から「髭は普通剃るものだけれど、役作りならば仕方がないな」とか言われたりして(笑)。そこにも「普通」という物差しがあるんだと感じて面白いです。

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取材・文:石井隼人
写真:You Ishii

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