13日に投開票を迎えた「台湾総統選挙」では与党「民進党」の頼清徳氏が勝利。米中が台湾をめぐってしのぎを削るなか、総統選の結果を受け中国がどのように動き、国際情勢はどう変わるのか? ANN中国総局の冨坂範明総局長に話を聞いた。
━━争ったのはそれぞれどんな政党か?
「民進党は中国と距離を置き、対アメリカ関係を重視している。一方敗れた国民党は対中国関係を重視、野党第二党の民衆党は“両者の真ん中”、米中とバランスをとって付き合っていこうという政党だ」
━━民進党の頼清徳氏勝利という結果は予想通りだったのか?
「事前の予想でも、頼氏が少し有利と言われていた。中国と距離を置く民進党の路線が支持された形だ。ただし、野党の2党もそれぞれ票を集め、与党・民進党の得票率は5割に届かなかった」
━━国民党の侯補は支持を集められなかったということか?
「総統としての魅力では頼氏が国民党の侯氏に勝った形だが、実は、国会にあたる立法委員選挙では、国民党が52議席を取り、51議席の民進党に勝利した。エリア別に見ると台北や高雄など、都市部は民進党の支持が多いが、地方などでは国民党や民衆党の支持が伸びた。経済的に厳しい地方では、中国と対話ができる国民党に期待する層もいると考えられる」
━━台湾総統選前に中国の福建省を取材したと聞いたが、なぜ台湾ではなく福建省を取材したのか?
「実は福建省は台湾の向かい側にあり、去年9月に省全体が台湾統一に向けた『モデル地区』となった。これは、中国側の平和統一に向けた青写真とも言われる。人的・経済的融合を深め、依存させたうえで、統一にもっていくという政策の一つだ。福建省アモイと台湾・金門島はフェリーで30分、1月1日から、アプリで通行証を申し込めるなど、往来がさらに便利になった。さらに、福建省内には、『基地』という台湾の青年を支援する施設がある。取材した『基地』では、ネットの生中継が無料で出来る場所を提供している。この基地ではおよそ1000人の台湾の若者を福建省側に呼んで起業支援を行ったという」
━━実際にどのような支援があるのか?
「アモイで台湾料理店を開いた若者によると、200万円の起業支援金と、毎月12万円の経営補助、4万円の家賃補助が出たという。彼らはこれからも中国で事業を拡大したいと話していた」
━━「モデル地区」は経済の力を使い“平和的な”統一を目指しているということだが、それは効果的なやり方なのか? 台湾の人はどのように受け止めているのか?
「もちろん、経済的には中国に頼りたいが、民主と自由というのは魅力的な価値観。そのため統一は避け、現状維持が一番だというのが台湾の一番多い民意かと思われる。とはいえ、立法委員議員選挙で、国民党が第一党になった“ねじれ状態”を考慮すると潜在的に中国の経済力に期待する意見も強いと思う」
━━「経済的」に統一が厳しいと、「軍事統一」という選択肢もあるのか? “台湾有事”が起きる可能性は?
「習近平国家主席は、今年の年頭あいさつで、『祖国統一は歴史の必然だ』と強い意欲を示しているが、軍事統一はすぐにはないと思われる。なぜなら攻撃によって発展している台湾のインフラが壊れ、台湾の市民の反中感情も一気に高まり、中国にとって良いところはない。あくまで平和統一が原則だろう」
━━そもそも、なぜ習近平主席は台湾にこだわるのか?
「もともと、中国全土の解放は共産党の悲願。習近平は福建省での勤務が長く、今回の取材で彼が住んでいた家を見てきたが、きれいに整備されていた。対岸の台湾には思い入れも深く、『核心的利益中の核心だ』として最重要視している」
━━台湾の選挙結果は今後、中国と台湾の関係性にどのような影響を及ぼすのか?
「中国は圧力を強めるだろう。すでに王毅外相が『台湾独立の道に先はない』と、強い言葉でけん制している。また、太平洋の島国ナウルが、台湾と外交関係の断絶を発表し中国と国交を結ぶなど、切り崩しも始まっている」
━━アメリカ、そして日本への影響は?
「アメリカは早速使節団を台湾に派遣し、頼清徳氏と面会した。今後も、アメリカと日本は頼政権支援の姿勢を強めるだろう。結果、中国との摩擦が強まる可能性が高い」