篠田麻里子の不倫妻体当たり演技が大きな話題を呼んでいる、土曜ナイトドラマ『離婚しない男―サレ夫と悪嫁(およめ)の騙し愛―』(土曜午後11:30)。地上波放送のドラマとは思えぬ変態的濡れ場と凄まじい喘ぎ声を聞かせる篠田が、その舞台裏を脚本家・鈴木おさむと語り合う。
妻の不貞現場を目撃した大手新聞社の社会部エース記者・岡谷渉(伊藤淳史)が、愛娘の親権を得るために父親の親権獲得率わずか1割の壁に挑むサレ夫逆襲ブラックコメディ。漫画家・大竹玲二による人気コミック「離婚しない男」をベースに、今年3月限りで放送作家業と文筆業から引退する鈴木が、最後の地上波ドラマとして放送コードギリギリの攻めた表現とテンションで唯一無二の不倫劇を描く。
小池徹平とのラブシーンの裏側「地上波ドラマであそこまで喘ぎ声が聞こえるのは久々だと思います」
ーー篠田さんと小池徹平さんの“笑撃的”なラブシーンが毎話注目されています。篠田さんの笑いに対するセンスの高さも伺えます。
篠田:私は笑いに関してはヘタクソだと思います。何しろ小池徹平さんや伊藤淳史さんのやることなすこと全てが絶妙に上手すぎて、私はそれを見て笑う側です。私が笑いを狙いに行くとどうもスベっているような感覚があるので、笑いを取りに行くというよりも目の前で起こっている事象やシチュエーションに対して一生懸命向き合って生きるような感覚で撮影に臨んでいました。綾香として全力で役に向き合っているだけ。その様子が傍から面白く見えているのであれば大成功です。撮影中は笑わせてやろうなどとは考えられませんでした。
鈴木:何が凄いって、篠田さんの出演が伏せられていた初回の予告編で篠田さんの喘ぎ声がしっかりと使用されていたという点。とんでもない予告編だなと思いました(笑)。
篠田:私もビックリしました(笑)
ーー指導があって、あの凄まじい喘ぎ声に到達されたのでしょうか?
篠田:その質問に対して「指導はなかった」と答えたら、それはそれで恥ずかしくなりそうです(笑)。
鈴木:喘ぎ声も実はセリフとして台本にしっかりと書いています。書かないと芝居じゃなくなると思ったし、セリフとして書いてあればその通りに演じたんだと言えますからね(笑)。ただ地上波ドラマであそこまで喘ぎ声が聞こえるのは久々だと思います。
篠田:私はおさむさんの台本に書かれた通りに演じただけです!ただマサト(小池徹平)から鈴付きの首輪が出された途端、方向性を理解したというか、感度高めで綾香を演じようという覚悟を持ちました。
ーー声のトーンやハードさは、調整しながら今の形に落ち着いたのでしょうか?
篠田:綾香の喘ぎ声は最初から完成されていました。最初からマサト役の小池さんが全力でマサトとしてぶつかって来てくれたので、それに対抗するにはあれしかなかったという結果です。こうしようかああしようかという悩みもなく、役に反応する形でストレートに出ました。
鈴木:小池君はそれも計算のうちだと思います。自分が照れると相手役がやりにくいだろうから、自分がスイッチを120でいけば篠田さんもおのずとそれに反応してくれるだろうと。そこが彼の素晴らしいところです。
篠田:おさむさんの仰るように、マサトが小池さんで本当に良かったです。撮影初日から感謝しました。
ーー小池さんからは謎のネイティブ英語セリフでの言葉攻めを受けます。つい笑ってしまうとかは?
篠田:あります、あります(笑)。「スローorクイック」など、おさむさん考案のセリフがそもそも面白いので、カットがかかるごとに爆笑していました。
鈴木:ふざけ切った世界観ですよね(笑)。
篠田:撮影で面白いのが「スロー」と「クイック」の言い方に悩んだりして…。言葉が悪いかもしれませんが、そのふざけ切ったことに対して、現場全員で顔を突き合わせて悩むんです。傍から見たらとても滑稽だけれど、そんな真剣さがまた面白くて。真剣にふざける雰囲気が完成した映像にもしっかりと反映されている気がします。
鈴木:僕としては、これまで見たことのないラブシーンを作りたかった。見たら人に話したくなるようなもの、つまりツッコミを入れたくなるようなラブシーン。学園の青春もので出てきそうな青臭い言葉を大人にトレースしてみると異様に滑稽になるので、それをラブシーンでやってみたら面白くなるだろうなと。
ーーラブシーン毎にマサトが取り出す鈴のついた首輪というネタも冴えていますね
鈴木:あの鈴は現場で木村ひさし監督が決めたもの。まさに木村監督の真骨頂です。
篠田:木村監督からは鈴に反応してもいいし、しなくてもいいと言われました。小池さんが鈴を弾いて音を鳴らしたので、それに対して「アン!」と声を出したら、監督が「それいいね!」と(笑)。それをきっかけに綾香は鈴に反応するという設定になりました。おさむさんの台本に書かれたことがベースにはありますが、撮影ではそれをより一層面白くするためにはどうしたらいいのか、みんなで考えながら進めていきました。
鈴木:あの鈴をコント的な場面でコントっぽくやったら普通です。それをあえてクソ真面目にやることで生まれるギャップが面白い。木村監督はこの作品の持つ世界観をちゃんと理解して演出してくれています。
「映画で脱ぐのとテレビドラマで脱ぐのとは大きな違いがある」鈴木おさむ、篠田麻里子の今後に期待
ーー本作に関わる前と後で変化したことはありますか?
篠田:吹っ切れ方は大きく変わりました。今回のドラマの撮影にあたり、引き受けたからには腹を括って向き合わねばとは思っていましたが、撮影中に不安になることもあったし、これでよかったのかと悩むときもありました。自分の気持ちの持って行き場に困ることも正直ありました。けれど放送が始まってみると、より一層やって良かったと思うようになりました。不倫妻を演じることでバッシングが起こることも想像していましたが、自分の想像以上に反響も含めて好意的なものが多いのでホッとしたところもあります。それと同時に、他人の評価よりも自分自身が「やり切ったぞ」と思える作品に携われたことが良かったと感じています。自分の決断に対して、一番自分が腑に落ちていることが何よりも嬉しいです。
ーー俳優・篠田麻里子の凄みとは?
鈴木:今回の役を引き受けたという事実が、俳優・篠田麻里子の一番の凄みです。この役に挑戦した経験値は必ず彼女の糧になると思います。これをきっかけに色々な役のオファーが来るはず。常盤貴子さんがゴールデンのテレビドラマ『悪魔のキス』で風俗嬢を演じた際に、バストトップまで披露したことがありました。映画で脱ぐのとテレビドラマで脱ぐのとは大きな違いがあって、常盤さんはあの作品で大ブレイクしました。世の中の人は常盤さんの根性をそのドラマを通して知っているわけですから、普通の恋愛ドラマに出たとしても評価のされ方が違います。それは篠田さんも同じで、普通の主婦役を演じたとしても今回のドラマでの気概がベースにあるから、視聴者は一目置くような視点で篠田さんのことを見る。今後の飛躍が楽しみです。
ーー鈴木さんには引退を撤回していただき、篠田さんとの再タッグを期待したいです。
篠田:私からもお願いしたいです!
鈴木:引退します。だって『仕事の辞め方』という本も出しちゃいました(笑)。
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii