俳優の東出昌大の狩猟生活に密着したドキュメンタリー『WILL』の上映が好調だ。都内映画館での公開初日は満員御礼で、東出とエリザベス宮地監督のサイン会にも長蛇の列ができた。そんな話題作のメイン被写体である東出と、出演者であり友人関係にあるMOROHA・アフロがインタビューに応じた。東出の山での生活が好奇的にメディアで取りざたされる現状について、2人は何を思うのか。
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「でっくんの姿と自分の活動がリンク」アフロが語る東出昌大との共通点
ーーそもそもお二人は何年来の御友人なんでしょうか?
東出:8年くらい?
アフロ:初対面は2016年の『しゃべくり007』。でっくんが会いたい人として僕らを指名してくれました。
東出:そうそう。その収録終わりに改めて楽屋で挨拶した際に、お互い同い年であることがわかって。それで連絡先を交換してね。
アフロ:でっくんが最初にメシに誘ってくれたよね。
ーー本作でのコラボもさることながら、アフロさん初主演映画『さよなら ほやマン』(2023)の完成披露試写会に東出さんが駆け付けたりして、この間柄はもう親友と言っても過言ではないですね。
東出:とはいえ週一で必ず会うとか、そういう関係性ではないんです。大体1年に1、2回会うくらい?けれど僕は最初からアフロの作る音楽に心を惹かれてファンになった人間で、MOROHAの紡ぎ出す音楽の実直さや真摯さ、精一杯さが大好きなんです。実際にご本人に会ってみたら、アフロはMOROHAの音楽そのもののような人柄で、すぐに意気投合できました。僕が彼に信頼を預けるのは早かったし、同い年ということもあってアフロも仲良くしてくれています。
アフロ:でっくんは真面目なんですよ。俺のラッパーとしての仕事は、人が見て見ぬフリをしていることを公の場に出すということがあるんですけれど、でっくんともそのような会話ができます。でっくんは「こうあるべきだ」という思いだけではなくて「こうである現実」という境目で揺れ動いて、もがいているようなことを共有できる人。俳優とラッパーでやっていることは違うけれど、お互いの立ち位置で理想と現実のギャップに必死に向かい合っている感じが似ているような気がする。でっくんは山の中で動物を撃って食べるという現実と同居していて、便利で安定した社会の中では考えなくて済むような状況下にあえて突っ込んでいるわけです。ものを食って生きていく残酷さを実感した上で、それでも生きるというでっくんの現実。MOROHAが音楽でやろうとしていることを、でっくんは狩猟を通じてやろうとしているのではないかと思う時があります。でっくんの姿と自分の活動がリンクするとき「あ、こういう理由で俺たちはずっと付き合い続けているんだな」と感じるんです。
ーー東出さんの孤高な生き様にインスパイアされることも?
アフロ:インスパイアと言うと大げさかもしれないけれど、影響されることはあります。楽曲を作る中でふと「このフレーズはでっくんにハマりそうだな」と思うことがあります。
ーー劇中のライブシーンも印象的で、まるでMOROHAが東出さんにエールを送っているかのように感じました。
アフロ:それこそ音楽の持つ力の一つだと思います。でっくんに関わらず、誰かのドキュメンタリーに俺たちの歌をグッと入れたら、その歌はその人の音楽になるだろうし。改めて音楽って凄いなと思います。『WILL』でそれが深く突き刺さるのは、俺たち二人のこれまでの関係性もあると思います。スクリーン上に映されるでっくんの生き様が超上質なイントロになって、それをMOROHAが受け取って続きを歌うみたいな。そんな風に感じられる作品になったのが嬉しいです。
東出:選曲については、これまでMOROHAのことをずっと撮ってきたエリザベス宮地監督のなせる技でもあると思います。エリザベスさんがMOROHAの魅力をたっぷりと知っているからこそ、MOROHAの重厚な音楽性と僕の密着場面が作品として一緒に活きていて、僕の気持ちを代弁してくれているように思います。僕は『WILL』を通して「どこへ?なぜ?どうして?何をもってそこまで?いつまで?誰の為?何の為に?追いかけ続ける問いかけの答え」という『五文銭』の歌詞を改めて聴いたときに、狩猟をやりながら自分も全く同じことを考えていたんだなと気付かされました。僕の考えとアフロの考えが交差していた事実を、第三者であるエリザベスさんから提示されることもあるんだとビックリしました。
アフロ:俺たちのライブ場面も、動物的表情を捉えてもらって良かったと思っています。生命力が溢れ出ているかのようなライブが俺にとってはいいライブだと感じるので、そんな瞬間を上手く切り取ってもらえて嬉しかったです。ただ当初はでっくんパート半分、MOROHAのライブパート半分の構成だと聞いていたので、完成作品を観た時は「俺たち全然出てねえじゃん!」と思いました。そうやって躊躇なく舵を切った監督の英断には脱帽です。それによって作品がより面白くなっていますから。
“第二次東出ブーム”メディアの持ち上げ方を静観する東出「そろそろ内省して、自分の中に籠る時期」
ーー約1年半密着が行われたそうですが、その間に東出さんの状況は大きく変わりました。俳優業に加えて、今ではバラエティでも人気を集める存在になっています。
アフロ:それもやかましいじゃないけどさ、実際のところはメディアの持ち上げ方も信用していないでしょ?
東出:そうそう、そうなんだよ(笑)。
アフロ:だよね。だから今のでっくんは最強だと思う。なんていうか、孤独を確立している気がする。メディアに持ち上げられて褒められたとしても「あ、そう思ったんですね。はい、頑張ります」みたいな静観。でっくんからは「俺は俺のやることをやる」感が出ていて、何事に対しても一喜一憂しない境地にあるよね?
東出:信用していないと言うと語弊があるかもしれないけれど、ここしばらくは僕の山での生活が好奇の目に晒されて、自分の思うところを取材で喋ったりすると「好感が持てる」「共感できる」「興味がある」などと言われることが増えました。でも、せっかく都心を離れて狩猟生活をしているのに、メディアや付和雷同する世間に対して自分の考えを外側に出す作業ばかりになっていくと、自分の中での成長が生まれないような気がします。そろそろ「生きるとは?人生とは?友人とは?人間関係とは?」と内省して、自分の中に籠る時期なのかなとも。『WILL』も公開されましたから、しばらくは山での生活の取材はなくなるのではないかと思います。
ーー前回インタビューさせていただいた際に「人生相談のメールが届く」という内容が大きく話題になりました。その反響によって不必要なメールが届くようになってしまったのではないかと心配しているのですが、大丈夫ですか?
東出:それは大丈夫です。ご心配なく(笑)。あ、でも今日も「私はジビエ料理が苦手です。だから美味しいジビエ料理を食べさせてください」というメールが来ました。それは僕ではなく専門店に問い合わせてください!(笑)
アフロ:そんなメールが届くんだ!いいね!
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii