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 「これは…やばいぞ!」俳優・東出昌大が映画の準備稿に危機感。脚本・監督の井上淳一氏と本音でぶつかった映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が3月15日(金)より公開される。同作は、1969年の若松プロダクションを舞台に命懸けで映画を作っていた若者たちの姿を描いた『止められるか、俺たちを』の続編。1980年代、故・若松孝二監督が愛知・名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に、映画と映画館に吸い寄せられた若者たちの群像劇が展開される。東出は「シネマスコーレ」の支配人・木全純治役を演じる。

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 前作のファンである東出は当初「2」をやることに対し、葛藤もあったという。最終的に「1を知らなくても、若松孝二やその時代の人たちを知らなくても楽しめる爽快な青春映画になった」と語った東出だが、現場で何を感じ、どのように向き合ったのか、話を聞いてきた。

『止め俺1』ファンの東出昌大、準備稿を読んで「これは…やばいぞ!」井上淳一監督に思わずダメ出し

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――『止め俺1』と比べても明るい青春映画の要素を強く感じました。東出さんは脚本を読んだ時にどのように感じましたか?

東出:僕自身、『止め俺1』が好きで。だからこそ、脚本を読んで前作とあまりにも違ったので「『止め俺2』でやっちゃダメだ!」と言いました。映画ファンの間でも「シリーズが続いても、名作が続くっていうのはなかなかないよね」て言われがちじゃないですか。「立つ鳥跡を濁さず」じゃないですけど、僕は『止め俺1』が好きだったから「『2』は良くない。だったら『青春ジャック』ってタイトルで単体の映画にした方がいい」って言い続けたし、今もそう思っている部分はあります。
ですが、誰よりも若松さんのそばで映画的時間を過ごした、しかも『止め俺1』からの脚本家でもある井上さんが、ご自身でメガホンをとって撮るというのは、映画人の映画愛が結実した作品であるということには嘘がないので、続きものとか『止め俺1』と似た世界観ということはなく、別物として楽しんでいただければと思います。

――東出さんにオファーがあったのはどのタイミングだったのでしょうか?

東出:『福田村事件』の前にオファーがあって…井上さんから「『止め俺1』にも負けない熱量で、木全さんの物語をやりたい」という話がありました。あの怪物・若松孝二監督と長年バディを組んで『シネマスコーレ』を存続させた人なんだから、波乱に溢れているだろうし、逆境を打破して、対立とか葛藤が描かれるんだろうなと思って、プロットもそんな感じだったんです。でも、『福田村事件』が終わって、もうすぐクランクインというタイミングできた準備稿に、木全さんの葛藤が全然なかった。僕の中でも『止め俺1』のイメージがあったので、「これは…やばいぞ!」となりました(笑)。率直に伝えたら、井上さんは「これから太くしていきます!」とおっしゃってくださり。その結果できた決定稿の太くなった部分というのが、木全さんではなく若者2人のエピソード部分でした。その決断は、僕はそれはそれですごくいいなと思いました。
「あれ?木全さんの逆境は?」って聞いたら、「木全さんは逆境がない人だから書けない」ってきっぱりおっしゃっていました(笑)。なので、僕は若者2人をバックアップする存在になろうと思って演じました。

「忖度を蹴破る若松監督の情熱。そういうパッションを映画人は失ってほしくない」

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――映画では、井上淳一さんの青春時代も赤裸々に描かれていますね。若さゆえの衝動的な姿や、かっこ悪い姿も描かれていたのですが、ご本人は恥ずかしさなどなかったのでしょうか。東出さんから見てどう思いましたか?

東出:いや、めちゃくちゃ美化して書いている!(笑)井上さんの半生が塗り変わったんじゃないかな。それは映画人の願望みたいなことだと思います。
実は、その“美化”を感じて、井上さんに直訴したシーンがあるんです。若松孝二は清濁併せ持つ人で、濁の部分もすごくある人。それを木全さんはもちろんご存知だった。井上青年が日大の芸術学部と早稲田と受かって、「若松監督が早稲田に行けって言いました。なので僕は早稲田に行きます」っていう変な学歴アピールみたいなことを言うシーンがあるんですけど、それに対して木全さんが「ほう、さすが監督やな」みたいに言うんです。そんなときに木全さんって、「さすが監督」って言うのかな…って僕は不思議で。井上青年の「早稲田」という選択は、彼の中では金字塔のようになってるかもしれない。中卒の若松さんは、そのことで苦労したこともあっただろうし「早稲田に行け」って言ったのかも知れない。でも、僕の中では「木全さんがこのセリフを言いますかね?」って納得できなくて。結局「この台本で行きましょう!」ってなりましたけど、そういうところに、井上青年の青春時代の美化を感じました。
ただ、そういうテイストだからこそ、劇場を後にする足取りが軽くなるような作品になったと思います。
…これは僕の問題でもあるんだな。どうしてもドロドロした方を見せたくなるという習性があるんです(笑)。裏には面白い話がたくさんあるので。井上さんは、若松監督の元から逃げて荒井晴彦さんのところに行ったとか、「時間が経って全部美化している井上の台本どうなんだ?」って、当時を知る関係者は言っていましたね(笑)。
そのドロドロを全部経た井上さんが、映画人として一つの形にしたというところがこの作品の魅力でもありますね。

――色々な伝説をお聞きしていると思いますが、若松孝二監督の現場に憧れはありますか?

東出:僕はお会いしたかったです。難しいところもあったと思いますが、それでもみんなが集まる器の大きさがある方だったのだろうと。お金には厳しくて、ロケ弁を1個多く発注すると怒られるみたいな話も聞きました。ただし、映画をより良いものをするためには厭わない。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の時は、鉄の球でご自身の別荘をぶち壊したとか。映画人として尊敬してしまうところはあります。
お客さんの心を掴んで動員数もすごかった『キャタピラー』とか、見せてはいけないとされているものを隠そうという忖度を「ふざけんな!」と蹴破る若松監督の情熱。先日の石井裕也監督の『月』もそうですが、そういうパッションを映画人は失ってほしくないし、そういう作品が増えてほしい。若松監督の存在は破天荒ではあるけど、燦然と映画界に輝く経歴、軌跡だと僕は思います。

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――最後に、観客の皆様へメッセージをお願いします!

東出:明るい映画です。今、ミニシアターで上映されるものって、ちょっと小難しいんだろうとか、問題を提起しているとか、そういうイメージがある。このご時世にこれだけ明るい映画がミニシアターでかかることも少ないので、娯楽として気ままに観に来てほしいです。1を知らなくても、若松孝二監督やその時代の人たちを知らなくても楽しめる爽快な青春映画になっています。

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写真:You Ishii
取材・文:堤茜子 

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