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 俳優・東出昌大が、ミニシアター黎明期を舞台にした映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(3月15日公開)に出演する。同作では若松孝二監督が愛知・名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に、映画と映画館に吸い寄せられた若者たちの群像劇が展開。東出は、「シネマスコーレ」の支配人・“木全さん”こと木全純治を演じる。

【映像】「結局オブラートに包めてない」話題になった東出昌大のニュースでの発言

 レンタルビデオ店が流行り出した1980年代、映画館への客足が遠のいていた時代に、ピンク映画を流すなどしてなんとか収益を立てようとする若松監督に対し、“木全さん”は「いい映画を流したい」と主張。個性的な企画上映を行い、インディペント映画を育てる場として「シネマスコーレ」を育ててきた。そんな“木全さん”に東出は共鳴。インタビューを通じて、2人の共通点が見えてきた。 

「お金なんて人生において大したものではない」東出昌大が共感した“木全さん”の価値観

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―― “木全さん”は穏やかながら主張するところはするという、意志のしっかりした面白い人という印象があります。イメージが東出さんにかぶるのですが、ご自身ではどのように思いますか?

東出:実際に木全さんにお会いしまして、それまでもドキュメンタリーなどで若い頃の映像を見ていたのですが、あの若松孝二とやり合っていた人ということで、のらりくらりとした人でした。木全さんを何十年も知る方々にお話を聞いた中で、プロデューサーの片嶋(一貴)さんが「老獪な人だよ」とおっしゃっていて、それが僕の中では印象的でした。木全さんが一見何も考えてないようにうつるというのは処世術。「そんなことでクヨクヨしててもしょうがないじゃない。それよりも人生や映画には大事なものがある」とキッパリと心の中に鬼を飼っている。そういう人物なんだろうなと思って演じていました。
ご自身が映画が好きで好きでたまらなくて、映画館の支配人になって、VHSが流行ってレンタルビデオ店が流行って劇場に足を運ぶ人が遠のいていった時期に、それでも名画を流したいと、自分の好きな映画を「これが映画なんだ!」って流したいと続けた。でも、それで全然お客さんが入らなくて…。トボトボ映画館から駅の地下道の帰り道を、木全さんと一緒に歩く機会があったんです。すごく長い道でした。その道を、お一人背中を丸めて帰っているんだと思うと…。「何がおかしいんだ。何がいい映画なんだ」「自分の信じてる映画は違うのか」「なんでお客さんはわかってくれないんだ。お金どうしよう」って、めちゃくちゃ考えていたと思うんです。なので、、僕は決して逆境や葛藤がないようには思えなくて、その上で心を鬼にして「まぁいいんじゃない、そういうのは」って話していたのではないかと。若輩者の僕が評価するのはおこがましいですが、強い人。妖怪のような、人知を超えた底知れぬ強さがある人だと思いました。

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――そんな木全さんから学んだものはありますか?

東出:自宅でカレーを食べるシーンがあるんです。映画館の経営がうまくいかなくて、自分の家のカレーから肉が消えてちくわ入りになってしまった。家計が逼迫して肉も買えない。奥さんは家庭教師を始めているらしい。本来悔いるシーンなんです。でも、木全さんは「そっか〜」ってヘラヘラしている。「え?その精神で芝居していいんですか!?逆境では!?」ってなったんですけど(笑)。
ただその後、木全さんと言葉を交わして、「お金なんて人生において大したものではないんです。それよりも人生で大事なことがあるんです。私にとっては、それが映画を人に多く見てもらうことだったりする。映画の中にはいろんな人生の良さが詰まっている。だから私は映画が好き。でも、お金のために映画を売るのは自分は嫌だ」とおっしゃっていました。人生というものを語るときに、「お金なんて大したことない」ってひょうひょうと言える人って、今世の中にどれだけいるだろうと思いました。お金ってすごく便利で、あればあるだけものを買える。でも、お金って苦しくて、例えば自分の月給が20万円で、友人たちの月給は10万円だったとする。その場合、そのコミュニティの中で自分は富める者だと意識する。ただ、自分の月給が100万円で、周りが500万円だったら、自分のことを貧相だと感じてしまう。お金は便利だけど魔力がある怖いもの。そんなものを最初から信じず、馬鹿にしている強さ。やっぱ木全さんは怪物なんですよ!妻が乳飲み子を抱えながら、家庭教師をやるって言って、「子どもの発育のために子どものカレーには肉は入るけど、大人はちくわね」って、全部わかった上で、ニコニコしてる精神ってやばいですよね(笑)。でもやばい人だけど、その情熱ってすごい。多くの人が見てみないふりして、考えないほうが、立ち向かわない方が楽だから諦めてしまうところを、木全さんは諦めないで、そういう人生を選択して今も『シネマスコーレ』の代表をしてらっしゃる。「人にいいものを届けたい。社会をよくしたい」という思いが強くあるんだろうなと思います。

――そんな木全さんの価値観は、東出さんに通じるのものがあるのではというイメージです。

東出:はい。僕は木全さんの気持ちはよくわかります。だから、井上さんにも「木全さんの葛藤あるよ!!」ってずっと言っていたんですけど、別の取材記事で(現配人の)坪井さんが「木全を調べればもっと逆境があった」っておっしゃっていて、「やっぱそうだよ!坪井さん!!」って握手したくなったんですけど。でも、井上さんが「ない」って言うんだから、しょうがない!(笑)

「付和雷同しないで生きていきたい」ファン急増中の東出昌大の本音

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――本作では映画館が出会いの場で人生のターニングポイントになっていますね。東出さんにもそういう場所はありますか? 

東出:若い頃に映画館や美術館に背伸びして通っていた時期があったのがよかったです。「わからない」「知らない」ではなく、「これがいいとされてるんだ。ふーん」でも、そういうものの蓄積があったから、人と話せたり、共通認識を持てたりする。いいものを吸収し続けると、どうやら蓄積されているので、人生いろいろ経た時に、そのときに立ち返って話せる。僕は今この仕事をできている原動力はそこにあると思います。

――毎日お忙しい日々だと思いますが、どのように吸収していますか?

東出:結構豊かな時間を過ごしています。今日来る時も家の周りは大雪で、これから帰るのもきついんですけど…。そんな環境に住んでいると、今日、取材で久々に歌舞伎町を歩いたら、「まじか、人ってこんな都市を作っているんだ…(笑)」って街の見え方も変わってくるんですよ。人間はどこに行くんだろうと、思索の種が転がっています。僕はやっぱり田舎が好きです。歌舞伎町に来て驚きました。“良いとされているもの”の画一化が進んでいると感じました。おじさんが昔「モー娘。を見ても違いがわからない」って言っていたけど、そんなレベルじゃない。看板を見ても、みんな整形、フォトショで同じ顔になっている。今の人類の余裕のなさはやばいぞ!(笑)小難しく考えすぎですか?(笑)

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――いえいえ、とても興味深く聞かせていただいています、東出さんはすごくお話がお上手ですよね。事前に準備してくるというより、その場で考えてお話されているのが伝わります。

東出:(事前に渡された質問案を)しっかり見てないんです。悪い癖なんです(笑)。

――先日の『ABEMA Prime』のご出演も話題になっていました。

東出:今、この時代ね、本心もなかなか言えないから。熊問題とかでも「熊絶滅してもいいでしょ」とくると、「いいわけないだろ!」って思うけど、強く言ったら炎上するから、ケアしながら話しました。結局オブラートに包めてないんですけど(笑)。

――それが東出さんの魅力ですね。

東出:最近、「ファンになりました」って声が怖いです。また「裏切られた!」とか言われたらショックですよ。何かあるから!人間だから!(笑)付和雷同しない(むやみに人に合わせない)で生きていきたいです。

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取材・文:堤茜子
写真:You Ishii

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