『新型コロナ薬「有用性なし」の衝撃1600億円以上を売り上げた「新薬」は無駄だったのか』。先週話題になったこのネット記事。指摘されたのは、飲み薬「ラゲブリオ」だ。アメリカ企業が開発した抗ウイルス薬で、当時はデルタ株に一定の効果があることが確認されていた。
ただ、新たな変異株が出現し、ワクチン接種も進んだことで、2021年末から欧州連合の専門機関でその効果が再調査された。結果、「有用性が証明されていない」とされ、世界的にシェアが激減した。
日本でも費用対効果の調査がされ、値段のわりに効果が少ないという「費用増加」との評価が下された。つまり、この薬を使った治療費は1回で約9万4000円かかるにもかかわらず、解熱剤と変わらない効果だと判断。それでもいまだに販売されていて、国内では2年間で1600億円以上を売り上げているとの試算もある。
思えばアクリル板や体温計など「ムダ」との声が上がりながらも続けたものが存在する。過去の経験は活かされているのだろうか。『ABEMA Prime』で、記事を執筆した医療ジャーナリストの市川衛氏とともに考えた。
■有用性ないコロナ新薬、なぜ使い続ける?
市川氏はラゲブリオについて「高齢の人には効いているかもしれないというデータもあるが、中医協は余分なお金だけかかる最低ランクの評価だ、と。お医者さんごとに考え方はあるけれども、一旦は“使わなくてもいい”に近い評価」と説明。
感染対策アドバイザーの堀成美氏は「有用性と、患者一人ひとりに効くかどうかは違う話。日本人は薬があるなら欲しいという方がすごく多く、高齢者は重症化しやすいということでみんな怖がっていた。だけど、お医者さんから“使う人を狭めたほうがいいのでは?”という声は初期から聞いていた」と明かす。
市川氏が指摘するのは、薬の承認時と中医協の評価時の説明不足だ。「“こんなにお金がかかるけど使いますか?”“このぐらいの効果がある”といった情報があれば判断できる。しかし、“よくわからないけど効くらしい”という薬が月9000円だと言われたら、一般の人は飲むだろう。また、今回やっと薬の費用対効果の結果が出たのに、“費用増加”というわかりづらい表現になっている」。
ただ、医師が自身の利益のためにそうした薬を出すことはないといい、「処方時の管理料や手数料は存在するが、基本的に薬の売上は医師ではなく薬局に入る。モラルハザードはない」とした。
■効果に疑問も 「アクリル板」なぜやめなかった?
様々あった新型コロナ対策の中で、早くから効果が疑問視されていたのがアクリル板だ。市川氏は「効果検証した研究がないか調べたところ、効果がありそうだとはっきり言っていたのは1つ。食肉工場で、マスクをした状態でアクリル板を置いたら防げたというものだ。一方で、感染リスクを高めるという内容もあったりする。要は結局、過去も今も本当に効果があるのかは誰もわからない状態だ」と指摘する。
見直しが効かなかった背景には同調圧力をあげた。「まずはクレーム対策だ。また、一度始めたことに対して、“やめて変なことが起きたらどうする、誰が責任を取るんだ”という、日本特有とも言える考えが強く影響していると思う」。
堀氏は「私はテレビ局やエンタメ関係へのアドバイスをしていた。みなさんも効果があるとは思っていないが、設置してもしなくてもクレームが来る、と。また、感染対策のガイドラインや、国あるいは業界の方針があるから、あえて意図的に外さなくてもいいのではないか?という考えはあった」と振り返った。
今後に活かすべきこととして、市川氏は「テレビなどのメディアが持つ、“これは大事だ”と知らしめるアジェンダセッティングによる影響は、いろいろなところにある。メディアに属する人こそが“これは本当にいるのか?”と疑問を持って考えて、“こういう理由で外す”という説明をきちんとして欲しい。そして、意思決定の構造を決めておくことが大事だ」と主張した。
一方で、堀氏は「当時、テレビ局が集まって勉強会が開かれ、ロケや食レポ、ドラマはどうするかをみんなが考えていた。そうやってきたことは間違っていないと思うし、不都合を感じていた人たちの声は次に生かしていくべきだ」とした上で、「日本はすごく政治が前に出てきていた。本来は病院の医師というより公衆衛生・パブリックヘルスの専門家が出てくるべきだったと思う」と指摘した。(『ABEMA Prime』より)
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