生田斗真とヤン・イクチュンがW主演を務める映画『告白 コンフェッション』が5月31日(金)から公開する。原作は、『カイジ』の福本伸行氏と『沈黙の艦隊』のかわぐちかいじ氏が共作した人気コミック『告白 コンフェッション』。『リンダ リンダ リンダ』『苦役列車』などで知られる山下敦弘監督がメガホンを握った。雪山で遭難してしまった浅井啓介と韓国人留学生のリュウ・ジヨン。足に大けがを負い、死を確信したジヨンは、浅井に「最後に聞いてくれ――」とこれまで言えなかった過去の秘密を打ち明ける。しかし、山小屋を見つけ避難すると、事態は急変。助かってしまったのだ! 秘密を打ち明けたジヨンとそれを聞いてしまった浅井の間には不穏な空気が流れ…。息をのむほどの壮絶な一夜を2人だけで演じきった生田斗真とヤン・イクチュンに、作品について、当時の思い出について聞いた。
「韓国の俳優は怒りの表現がうまいと思います」生田も絶賛・イクチュンの鬼気迫る演技
――本日はよろしくお願いいたします。本作は、ほぼ2人だけのシーンという作品ですが、相手役を知ったときはどう思いましたか。
生田斗真(以下、生田):日本の映画でイクチュンさんと共演できるとは想像もしていなかったことだったので、まずはすごくうれしかったです。彼の作品を見ていましたし、野性味があってワイルドなイメージを持っていましたが、実際は優しくて可愛らしい人でした。初めて会ったときにこちらに寄ってきてくれてハグしてくれて、一緒に作品を作るのがとても楽しみになりました。
ヤン・イクチュン(以下、ヤン):僕は生田さんには、強くてしっかりしているイメージを持っていました。作品のなかでは、浅井よりもジヨンのほうが強く見せないといけないのに、彼以上の強さを表現できるかなと心配になったくらいです。ただ、現場に入ってみると、なにかに追われて恐怖のジレンマに陥っている浅井を全力で演じ切ってくれたので、僕も自然と演技をすることができました。僕の先生です。
生田:(笑)日本語の台詞がたくさんあったので、すごく苦労されていたんですよ。そこでちょっとアドバイスしたら「せんせ~」って呼ばれるようになって(笑)
ヤン:同じ俳優として台詞のニュアンスなどを指摘するのは簡単なことではないので、してくれたことに本当に感謝しています。生田さんは僕よりも年下だけど、お兄ちゃんのような、先輩のような感覚でした。
――イクチュンさんの鬼気迫る演技が印象的でした。生田さんは近くで一緒にお芝居をしていかがでしたか。
生田:エネルギーに満ち溢れていて、人間が表現できる感情のマックスを二つも三つも超えていくんですよ。制御不能になっているように見えて、自分でコントロールできるからすごい。繊細な心の機微も見事に表現されていて、、見習いたい部分がたくさんありました。
――イクチュンさんは、狂気に満ちたジヨオンの感情をどのように作ったのですか。
ヤン:僕としてのベストを尽くしました。僕が子供から大人になって行く時代、韓国はいろんな意味でとてもハードでした。大人に成長していく過程で、社会にはさまざまな形の暴力が多かった時代でもあり、僕の中にも色々な形の憤怒があったと思います。世の中の大変さや、個人レベルのことも、国を通して感じたこともありました。だから、無意識のうちに憤怒が内在していて、そのことが演技者としての自分にもなんらかの影響があるのかもしれません。僕だけじゃなくて、韓国の俳優は怒りの表現がうまいと思います。
――山下監督は今回、初めてご一緒していかがでしたか。
ヤン:監督は今回の作品を撮るにあたって、自分にとって新しい映画にチャレンジしたいということを何度も言っていました。僕自身も、男二人が生存をかけて戦うという作品は今までになくて面白そうだと思いました。ただ簡単ではないという思いもある中で、現場で監督が俳優をうまくリードしてくれて、コミュニケーションを気さくに取ってくれました。あとは、監督はタバコ仲間でもあって、タバコを吸いながら言葉を交わすことも何度もありました。私が考え事をしていると察すると、わざとその場を離れてくれるような気遣いもしてくれました。
――生田さんはいかがでしたか。
生田:これまでの監督のオフビートのワンカットで空気を撮るような作品とは打って変わって、カット数も多くて、どんどん展開していく種類の映画です。ただ出来上がりを見たときには、この映画も空気を撮ることが大事だったことに気付く場面がありました。漫画だと吹き出しで心の声が書かれていますが、それを僕らはお芝居だけで見せないといけない。その張り詰めた空気をものすごく丁寧に撮っていたことが、完成作品を見てわかりました。
――体力、精神力がいる作品だったと思いますが、その部分はどう乗り越えていきましたか。また面白みを感じた部分があったら教えてください。
生田:アクティングエリアが限られていてワンシチュエーションの山小屋の中だけで、作品を成立させるのはなかなか大変でした。ただ怯えているだけじゃなくて、いろんなパターンを考えながらやっていたような気はします。面白さというか、挑戦になったのは、韓国の俳優さんと男2人だけで一つの作品を作るのが初めての経験だったことですね。言葉の壁も上手くこの作品は利用できたと思います。ジヨンの感情が高ぶって、台詞が韓国語になってなにを言っているのかわからなくても、それが恐怖に変わっていくので、二人の共演ならではの武器になったと思います。
ヤン:ジヨンが追いかけていくときの、恐怖におののく浅井の表情が面白かったですね。とくに私が2階から下にいる浅井を見ているときの、怯える表情は素晴らしかったです。私にとって大変だったのは、やはり日本語です。演技は演じると終わりが来る。でも日本語は終わりが来ないようなイメージです。というのは、みなさんが映画を観て、私の日本語に対してどう感じるだろうという不安には終わりがないから。私のように、外国人が自国以外で映画を撮るときには、必ず言葉に対する恐怖感があると思います。ブラッド・ピットも同じじゃないかな。
ヤン、印象的な思い出は生田のパンツの柄「可愛いパンツをはいていました」
――言葉の話になりましたので、もし今回新しく覚えた日本語があったら教えてください。
生田:「レモンサワー」じゃない?(笑)
ヤン:毎日、レモンサワーを2缶飲みました。告白=レモンサワーですね。生田さん、レモンサワーのCMをしてください。
生田:(笑)、ホテル暮らしだったからアリエールをあげたんですよ。
――めちゃくちゃいい話ですね。イクチュンさんは、日本でレモンサワーを好きになったんですか。
ヤン:撮影中は、思いきり発散しているので、撮影後は気力が落ちています。もっとなにかを自分の中に入れてエンストを起こすことが自分にとって必要な作業です。お酒が飲みたくて仕方がないのではなくて、一種の睡眠導入剤。休めるようにするためのものという感覚でした。
――生田さんには役を離れてリフレッシュするための、レモンサワー的なものはありましたか。
生田:体育館の中に山小屋のセットを立てて撮影していたから、カットがかかるたびに外に出て太陽を浴びて深呼吸をするような感じでしたね。
――やっぱり太陽は大切ですね。おふたりの雰囲気の良さが伝わってきますが、カメラが回っていないときの思い出があったら教えて欲しいです。
生田:よく韓国料理の話をしていました。イクチュンさんが鍋を食べるジェスチャーがものすごく上手なんですよ。それを見ていると、鍋を食べたくなってくるから、撮影後、帰宅すると家では何回も鍋を食べていましたね。
ヤン:作品の中では、相手に殺意を持って対峙していましたが、空き時間に話すこともありました。具体的に何を話していたかは忘れてしまいましたが、一つだけすごく印象に残っていることがあって、二人で衣装に着替えながら、生田さんのパンツの柄を観察していたのは覚えています。可愛いパンツをはいていましたよ。
――どんな柄だったのか気になります(笑)。お2人の関係性がとてもよかったからこそ、あの恐怖の作品が生まれたんですね! 本日はありがとうございました!
取材・文:氏家裕子
写真:You Ishii