数々のアニメ作品に出演している人気声優・浪川大輔。少年時代から映画の吹き替えを担当し、「E.T.」の主人公エリオット役で監督のスティーヴン・スピルバーグに認められた“神童”でもあった。今年4月で48歳にもなり、芸歴も40年近くなるが、若き日に「これをやったら引退しよう」と決めていた役があった。それでも先輩たちが引き止めた声には今でも「思い出すだけでグッときちゃう」という。
アニメをきっかけに浪川を知ったファンでも、その経歴を振り返れば、外画の吹き替えによる出演作の多さに驚くだろう。デビュー作もアメリカのテレビドラマ。さらに「E.T.」、「ネバーエンディング・ストーリー」「グーニーズ」と日本でもヒットした映画に立て続けに出演したことで、業界でも知らない者はいない天才子役になった。
学生時代、決して順風満帆ではなかった浪川にとって、一つの区切りにしたい憧れの役があった。浪川、22歳の頃に人気絶頂だったハリウッド俳優、レオナルド・ディカプリオだ。「日曜洋画劇場の『ロミオとジュリエット』があったんです。レオナルド・ディカプリオの吹き替えをやったら、(もう)やることはない。区切りにしたくて」と考えていた。
その時、手を差し伸べたのが同作の音響監督を務めていた佐藤敏夫氏だ。「ずっと気にかけてくれた。佐藤敏夫さんが『たまたまだと』おっしゃっていたけど、違う仕事をしているスタジオまでオーディションしにきてくれて。『お前(ロミオ役に)合っているんじゃないか』と」。見事合格した浪川は、憧れの役を演じて引退を決めた。
ただ、そんな浪川を周囲の先輩たちが引き止めた。ある飲み会に参加し「これも最後か」と思っていたところ、不意に「お前、辞めようと思ってねえか」と話しかけられた。素直に「思っています」と答えたところ「辞めんな」と止められ、今後も声優として生きていくべきだと、背中を強く押されたという。ここで辞めていれば、後に「スター・ウォーズ」「ロード・オブ・ザ・リング」へ出演することもなかった。
2003年に事務所を移籍。先輩・山寺宏一から「うちに来なよ」と誘われ、業界大手・俳協に入った。ここからは今まであまりなかったアニメ作品への出演が一気に増え、「今で言うラノベの走りとか、深夜アニメとか」と、あっという間にアニメ界でも名を広めていくことになる。
2012年には自ら声優事務所を設立。2016年には声優養成所も立ち上げ、次の世代を担う者たちへと経験、技術、思いなどを伝えている。「年齢も重ねていい歳になった。下に譲らないといけない。恩返しの1つです」。今度は浪川が、次のスター声優候補生の背中を押す番だ。
(SHIBUYA ANIME BASEより)