アメリカ大統領選挙が近づくなか、トランプ前大統領が共和党の副大統領候補に、39歳のJ・D・バンス上院議員を指名した。
バンス氏は、かつてトランプ氏を痛烈に批判していた。2016年には「トランプには腹が立つ。彼は有害で白人労働者階級を非常に暗い場所に導いている」、SNSでは「トランプは皮肉屋のろくでなし、またはアメリカのヒトラーだ」と発言している。
バンス氏はラストベルト(錆び付いた工業地帯)とよばれるオハイオ州出身で、幼少期に両親が離婚し、母親は薬物中毒だった。海兵隊員としてイラクに駐在後、イエール大学ロースクールを卒業。インド系移民の娘である妻のウシャ氏も、イエール大学ロースクール卒のエリート弁護士だ。
バンス氏は弁護士であり投資家で、ベンチャーキャピタル会社の社長を務めた。みずからの経験を元に、貧しい白人労働者の悲哀を描いた『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーとなり、作家としても脚光をあびた。
同書には「白人の労働者階層は、ほかのどんな集団よりも悲観的だった」「アメリカのあらゆる民族集団のなかで唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている」といった記述が。発刊当時、いち早く言及したのが、国際政治学者の舛添要一氏だった。
「『ヒルビリー』というのは田舎者の蔑称であり、『レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)』とも『ホワイトトラッシュ(白いゴミ)』とも呼ばれるが、バンスの故郷の人々がそうである。実は彼らこそが『Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)』と訴えるトランプ候補を熱烈に支持し、大統領の座に押し上げたのである」(2017年の舛添氏ブログから)
ベストセラー作家とはいえ、副大統領候補になれば“サプライズ人事”と言える。その狙いを舛添氏は「もしトランプ氏が死んだらバンス氏が大統領になる。しかし、そんな事よりも、どうすれば選挙に勝てるかしか考えていない」と分析する。
かつてトランプ氏を痛烈批判していたバンス氏だが、2022年にトランプ氏の後ろ盾を得て、上院議員に初当選し、いまでは「トランプのクローン」と言われるほど強固な保守派政治家だ。その忠誠心が副大統領候補になった決め手とも言われている。
舛添氏は、経済格差の分断が進むなか、「労働組合の貧しい方が民主党に行く。その貧しい白人を共和党の副大統領候補にしたのは、貧しい層の票を取るためだ」と指摘する。テレビ朝日外報部の中丸徹デスクは「トランプ氏のキャラクターが(銃撃事件を受けて団結を訴える主張に)変わった裏返しとして、かつての主張と同じ事を繰り返すバンス氏を副大統領に指名して、コア支持層を固めつつ、自分は中間層にいく作戦だ」と考察する。
バンス氏が副大統領候補に指名された会場には、母親の姿もあったと、舛添氏は語る。
「『私の母は、薬物をやめてから10年たった。そんなひどい環境の中で、自分が伸びた』と言う。1年前の上院選挙に通って、議員歴はまだ1年半。日本では1年生議員を重責に就けない」(舛添要一氏)
それでも起用した理由は「アメリカの分断を終わらせて、全国民を団結させる」との思いからだ。「バイデン批判は若いのにやらせた方がいい。また、イーロン・マスク氏が『バンスにしろ』と言い、その代わりに『毎月71億円献金する』と申し出たことも要因だ」と語る。加えて、トランプ氏の子どもと、バンス氏の仲の良さもあるという。
「ファミリーの関係もあるが、ラストベルトの票を取れるかで勝敗が決まる。バンス氏を副大統領にしたのは選挙のため。とにかく勝つ人選を考えた。民主党を支持する貧しい人たちに来てもらうのに、バンス氏は最適。麻薬の母親に育てられ、ここまで伸びた“アメリカンドリーム”をアピールした」(舛添要一氏)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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