アメリカのバイデン大統領が大統領選から撤退し、後継にハリス副大統領を指名したことで、状況が変化しつつある。
ハリス氏は1964年、ジャマイカ出身の父、インド出身の母のもと、カリフォルニア州で生まれた。検事を経て、黒人女性として初めてカリフォルニア州の司法長官に選ばれ、2016年に南アジア系では初めて、アフリカ系女性としては史上2人目の上院議員となった。
バイデン氏が撤退を表明した翌日、ハリス氏は抱負を語るとともに、トランプ前大統領を“口撃”した。「ドナルド・トランプは私たちの国を後退させようとしている。彼の極端な政策は中間層を弱体化させるだろう。我々は後退しない、絶対にしない!」。
これにトランプ氏は「嘘つきカマラ・ハリスは、一度も国境を視察したことがなく、その無能さでアメリカ国境を世界で最悪かつ最も危険な状態に変えた。カマラ、お前はクビだ。出ていけ!」と反撃。元NNNワシントン支局長のジャーナリスト・青山和弘氏は「バイデン氏の時は圧勝モードだったトランプ陣営が、ハリス氏に変わったことで焦っている」と指摘する。
ハリス氏が当選すれば、女性初の大統領となる。2016年の大統領選でトランプ氏に敗れたヒラリー・クリントン氏は、「ハリス氏は政界の多くの女性と同様に過小評価されている。彼女は勝利し、歴史をつくれる」と、ニューヨーク・タイムズ紙電子版に寄稿した。オバマ元大統領も「あなたが選挙を勝ち抜き、大統領執務室に入るために全力を尽くす」とエールを送っている。
著名人からも支持の声が。ビヨンセはハリス陣営が選挙戦で、自身の楽曲『フリーダム』を使用することを許可した。ジョージ・クルーニーやスティーヴン・スピルバーグ氏らも支持を表明。ドイツのショルツ首相は支持を表明しないものの、「ハリス氏が勝利する可能性は非常に高い」と発言した。
CNNの世論調査では、トランプ氏の支持率49%に対して、ハリス氏は46%と拮抗し、34歳以下の登録有権者に限れば、トランプ氏を上回る逆転現象も起きた。黒人系からはトランプ氏の支持率15%に対して、ハリス氏は78%にのぼる。
ANNワシントン支局長の梶川幸司氏は、この“ハリス現象”を「Z世代、女性、黒人の支持が急速に伸びている。“老老対決”に嫌気がさしていただけに、59歳の新鮮さから瞬間風速として良い結果が出ている」と分析する。
ハリス氏は先日、アメリカを訪れたイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、「悲惨な現状に対する懸念をはっきりと伝えた。私は黙ってはいない!」と発言した。バイデン政権がイスラエルへの武器供与を続けていることを意識した発言と考えられる。
勢いよく追い上げるハリス氏だが、青山氏は「この盛り上がりはご祝儀みたいなもの。落ち着いたら、バケの皮が剥がれてくる」とみている。梶川氏も「ワシントンでは、ハリス氏は副大統領として、めぼしい実績をあげることができず、むしろバイデン政権の足を引っ張る存在として評判は散々だった」と振り返る。
梶川氏は、9月10日に予定されるテレビ討論会に注目している。「ハリス氏は検察官vs罪人のレッテルを貼って、追及したい構えだ。大統領選では、投票直前の10月に衝撃的なことが起きる『オクトーバー・サプライズ』という言葉もある。何が起こるかわからない」。
大統領選まで100日と迫るなか、この3週間ほどでトランプ氏の銃撃事件や、バイデン氏の撤退などがあり、「急に熱を帯びて注目を集めている」と、梶川氏は語る。
「81歳のバイデン氏と、78歳のトランプ氏の“老老対決”に、59歳のハリス氏が登場したことで、新鮮さが世論調査に表れている。黒人、女性、若者といった民主党の強い層をバイデン氏は取り逃していた。瞬間風速ではなく、100日間持続できるかがポイントになる」(梶川幸司氏)
では、トランプ氏の心中はどうなのか。「ハリス氏に代わって、参ったなと思っているだろう。銃撃事件後は、これまでにないキャラクターを演じることで、無党派層や女性の支持を得たいと、もくろんでいた。しかし、いまや元のトランプ氏に戻っていて、ハリス氏への個人攻撃がほとんど。選挙戦略の見直しを迫られる、大きな誤算だったのではないか」と推測した。
青山氏は「政治力としては、評価されることがない」と解説する。「いまアメリカで問題になっているのは、移民と物価高だ。バイデン氏が失敗したと言われるなか、副大統領のハリス氏は『私ならできる』とは言いづらい。どのような演説で対抗できるかがポイントになる」とした上で、「予備選挙をやらず候補者になったハリス氏が、期待に応えられるかによって、評価も分かれてくる。激戦州の7州が重要で、なかでもペンシルベニアなど白人労働者が多い所で、どれだけ票が取れるか」と、今後の争点について語った。
こうした状況でもなお、梶川氏は「現状はトランプ氏が有利」と予測する。「勢いがどこまで続くか疑問だ。攻めと守りをしっかり見せて、争点をどちらがうまく設定するか」との見方を示した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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