自民総裁選“小石河連合”競合…小泉進次郎氏も出馬へ 勝敗のカギ握る意外な存在
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史上最多の候補者が見込まれる自民党の総裁選。“小石河連合”と呼ばれた石破茂氏は8月24日、河野デジタル大臣が26日に立候補を表明。小泉進次郎氏も9月6日に立候補を正式に表明すると発表した。上位2人による決選投票にもつれ込むとの見方が強まる中、専門家は、決選投票も見据え、勝敗のカギを握る、意外な存在を指摘した。

【画像】”小石川連合”の直接対決 勝敗のカギは?

小石河連合
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1)かつての盟友“小石河連合”直接対決に突入

前回2021年の自民党総裁選で連携した、小泉進次郎氏・石破茂氏・河野太郎氏の3人が今回の総裁選では直接対決する。石破氏は「今回互いに競い合うことがあったとしても、根底でつながりあうものがあるとすれば、私はあると思いますけど“小石河”というのがこれから先もその核になる。そういうことがあるといいなと思っております」と発言。

石破氏
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河野太郎氏も「3人それぞれ頑張ろうと思う。総裁選が終わったら自由民主党としてみんな1つになる」と語った。

河野氏
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3人の直接対決をどう見たらいいのか。久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、3年前との構図の違いを指摘した。

3年前の総裁選では、菅氏が岸田氏に対抗するため、河野氏を担ぎ、そこに人気のある小泉氏と石破氏が結びつき、“小石河連合”ができた。今回の総裁選では、河野氏は本籍地である麻生派から麻生氏の了承を得て出る。小泉氏は菅氏の支援を受けて出る。石破氏は自ら出る。小泉氏と石破氏は繋がりが強い。河野氏に関しては、麻生派の多くは麻生氏の言う通り動くかもしれないが、一部は小泉氏に乗る。あるいは石破氏に寄る可能性も必ずしもゼロではない。石破氏と小泉氏は、いわゆる菅氏側の非主流というか無派閥という陣営だが、河野氏だけが菅氏サイドではなくなった。

佐藤千矢子氏(毎日新聞論説委員)は、今回の総裁選のポイントについて以下のように述べた。

今回の総裁選は、候補者が乱立していて、議員票が分散するので、第1回投票では、党員票に強い人が1、2位に行く。第1回投票で小泉氏がトップで、2番目が石破氏となる可能性が現時点では高い。そうなった場合に決選投票で、麻生派である河野太郎氏、そして麻生氏はどう絡んでいくのかが勝敗のポイントになる。小泉氏、石破氏ともに「菅カード」なので、麻生氏とすれば、どちらにも乗りたくないはずだ。石破氏については自らが総理在任中に退陣を迫られた経緯があるため、麻生氏は、おそらく小泉氏に自分のカードを寄せるだろうというのが今、流れている見方だ。

小石河連合
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今回の総裁選での菅前総理と麻生副総裁、2人の重鎮の戦いについて、久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、「最終決戦的な意味合いがあるのは事実」と分析する。

決選投票はツートップで行われるので、麻生氏としては何としても、自分が推している河野氏、あるいは甘利氏を通じて関係がある小林鷹之氏、もしくは、出馬する可能性が極めて高くなっている上川陽子氏をツートップに入れたい。濃淡はあれ、自分のサークル、自分の推す人間が2番以内に入るかどうかが、この決戦の要諦だ。今後の自民党内の覇権構造、ひいては憲法改正などの行方にも影響してくる。 
同時並行で行われているのが、3番手以下に自分の仲間をどれだけ作っておくか。1位か2位に入っても、3番手以下に仲間が多くなければ決選投票で勝てない。菅氏の場合は、小泉氏を推しているが、石破氏を推さないとは口が裂けても言わない。河野氏とケンカしているわけでもない。小泉氏がツートップに入ったときに、3番手以下をどれだけ寄せられるかが重要なので、両面作戦で行く。

2)最有力候補、小泉進次郎氏の政策は…「しがらみなき改革への期待も」

現状では総裁選の最有力候補とされる小泉進次郎氏。主導している政策のひとつが日本版ライドシェアだ。これは、移動手段不足の解決策としてタクシー事業者の管理の下、一般ドライバーが自家用車を使い有償で人を運ぶ制度だ。小泉氏は、このライドシェア全面解禁に向けた議論を推進している。環境大臣在任中は、2020年7月に開始した「レジ袋有料化」で旗振り役となった。

小泉氏実績
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久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は小泉氏について以下のように指摘した。

小泉氏は現在、衆議院の安全保障委員会の委員長で、その前は安保委員会の筆頭理事だった。しかも、選挙区は三浦半島の横須賀だ。横須賀は、米海軍と自衛隊、日米同盟のど真ん中だ。あまり知られていないが、防衛問題に詳しい。もう一つは既得権益に対する姿勢だ。道半ばに終わったが、自民党の農林部会長の時に、農協改革に着手しようとしたこともある。ライドシェアにしても農協の問題にしても、身近で分かりやすいところの改革で、いわゆる既得権益に切り込む姿勢なのかと。

佐藤千矢子(毎日新聞論説委員)氏も、小泉氏に改革への期待も寄せられていると指摘する。

衆院選を間近に控え、小泉氏を「選挙の顔」として支持する人もいるが、小泉氏は無派閥を続けており、人気者であることを強みとして、しがらみなき改革ができると期待している人もいる。永田町はしがらみだらけだ。「政治とカネ」の問題にしても、安倍派の顔色を窺って、踏み込めない雰囲気が出てきている中、小泉さんはそこを突破していける人だとみている。

木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)氏は、小泉氏について「自民党の危機感の中で支持が集まった状況なので、是非ここから先は具体的な政策を打ち出して、政策面でも信用されるところを見せて頂きたい」と語った。

3)総裁選立候補予定者の経済政策は? 勝敗のカギ握る存在とは「皮肉にも…」

10人以上が立候補への意欲があるとされる自民党総裁選。中でも、“小石河連合”と呼ばれた小泉進次郎氏・石破茂氏・河野太郎氏の3人について、政策面での傾向は、どのように見たらいいのか。

立候補予定者
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木内登英氏(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)は、3人の経済政策に大きな違いはないとしつつも、スタンスの違いを指摘した。

経済政策で言うと、やや保守的で共通していて、規制緩和を進めて経済の潜在力を供給側から高めていこうというスタンスだ。財政の健全化では、石破さんが一番明確だ。石破さんはいわゆるアベノミクス(金融緩和・財政出動・成長戦略)についての功罪をきちんと評価すべき時期が来たと言っている。石破さんが総裁総理になった場合には、その総括がなされるのではないか。アベノミクスについては、その後の菅氏、岸田氏ともに、あいまいなままスルーしてきた。石破氏の場合は、財政についてはやや緊縮し、金融政策は円安も配慮するという思考が他の2人よりも強くなるだろう。

総裁選の今後の展望について、久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、「まだ予断を許さない」としつつ、決選投票で勝敗のカギを岸田派が握る可能性を指摘した。

ここまでの分析はあくまで現時点での動きについてであり、これから1か月の間には、まだ何が起こるかわからない。今回、安倍派がバラバラで、二階派と茂木派は二分。麻生派は、河野氏をやるけれども、小林鷹之氏をやる人たちもいる。私の現段階のシミュレーションでは、決選投票でキャスティングボードを握るのは、派閥の中で、一番“固まり”で動きそうな岸田派だ。皮肉なことに、派閥解消した岸田派の40数人の“固まり”が、最後どこに乗るかで勝敗を左右する可能性がある。票の散り方によっては、そういう展開になると踏んでいる。

佐藤千矢子氏(毎日新聞論説委員)は、「次の次」をにらむ動きを指摘する。

今回出馬の可能性が高いとされる方々は、次の政権は短命政権になる可能性もにらんでいると思う。政権できました、だけでは衆院選で勝てる保証はない。そこを乗り切ったとしても、来年の夏には参院選がある。参議院は与野党の議席差が少ない。衆参のねじれを引き起こして政権が非常に不安定化する可能性もあり、今回出馬する人の中には、「次の次」を見ている人も当然いる。今ここで名乗りを上げて自分の仲間づくりに絡んでいかないと、という動きだ。

久江雅彦(共同通信特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』)

佐藤千矢子(毎日新聞論説委員。第一次安倍政権時に官邸キャップ。元政治部長。2001年ワシントン特派員。著書に「オッサンの壁」)

木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト。2012年、内閣の任命により日銀審議委員に。任期5年で金融政策を担う。専門はグローバル経済分析)

(「BS朝日 日曜スクープ」2024年8月25日放送分より)

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