来る自民党総裁選に候補者が続々と名乗りを上げる中、現職の官房長官から挑むのが林芳正氏(63)だ。
「刷新感より、刷新そのものが大事」と語る林氏は、2012年の総裁選で安倍元総理に敗れて以来、2度目の挑戦となる。強みは「経歴」で、1995年の初当選以来、防衛大臣、経済財政政策担当大臣、農林水産大臣、文部科学大臣、外務大臣、そして官房長官と、6つの閣僚ポストを歴任した。
不祥事で辞任した大臣の後任となる機会が多く、「政界の119番」との異名も持つ。「経験と実績を全て生かして、この国のために使いたい」と意気込む林氏だが、先月のANN世論調査では、次期総裁としての支持率が1%だった。『ABEMA Prime』では、林氏の人となりとともに、実現したい政策を聞いた。
■林官房長官ってどんな人?
林氏は1961年1月生まれで、山口県で育った。東大法学部から三井物産、米ハーバード大の大学院を経て、1995年の参院選で初当選(現在は衆議院議員)、2008年に初入閣した。高祖父(貴族院)以来、5代目の国会議員で、旧岸田派(宏池会)座長を務め、自民党所属の国会議員によるバンド「ギインズ」のボーカルでもある。
官房長官として支えている岸田総理との大きな違いについて、林氏は「銀行員(岸田総理)と商社マン。私は即断即決するが、総理はじっくり考える。だから大体向こうの方が正しい」と苦笑いする。
オフの日は「ピックルボール」にハマっているという。「この仕事(官房長官)だと、30分以内の場所にしか行けず、ゴルフができない。昔はテニスをやっていたが、今はキツい。ピックルボールに誘われて、最初はおもちゃみたいだと思ったが、行ってみたらハマって、毎週のようにやっている」。
娘から言われて傷ついた一言はないが、「上の子の結婚式で、新郎とお辞儀してから握手する順番を間違えて、お辞儀を飛ばして新郎が不思議そうな顔をした。後で指摘されて、ちょっと落ち込んだ」とのエピソードを明かした。
バンドマンの一面を持つ林氏が、テンションを上げる時に聞くのは「ビートルズやイーグルス」だ。「最初は、ガロが日本語でカバーした『レット・イット・ビー』から入った。中学校の同級生に『いい曲だ』と言ったら、『それはビートルズの歌だ』とシングルを貸してくれた。そこでショックを受けて、ずっと聞いている」。もしもタイムマシンに乗れるなら、イギリスの「キャヴァーン・クラブ」へ行きたいと語る。その理由は「ビートルズが1960年代に演奏していた」からだ。
■世論調査では1%の支持率「ここから大逆転しなければいけない」
ANNが8月24日・25日に行った世論調査によると、「次の自民党総裁」は石破茂氏27%、小泉進次郎氏23%、高市早苗氏9%、上川陽子氏6%、河野太郎氏6%、小林鷹之氏6%、林氏1%、茂木敏充氏1%、加藤勝信氏0%、齋藤健氏0%という結果が出た。現在までに林氏、小泉氏、石破氏、河野氏、茂木氏、小林氏、高市氏、加藤氏が出馬表明していて、上川氏も9月11日に出馬表明することを決めた。
世論調査で「7位」の結果を受けて、林氏は「ここから大逆転しなければいけない。総裁選が始まると討論があり、政策や考え方をフラットに見てもらえる。そこでしっかり訴えたい」と奮起する。
アピールする上では、会社員経験も生かされる。「商社時代も業績を問われた。利益をどれくらい出したか、案件を増やしたかなど、ギリギリの所から社会人を始めた。仕事の成果を出すのは、国会議員になってからも頭にある」。
林氏が目指しているのは「ウェルビーイング向上社会」だ。そこでは「3つの安心」として、「中長期の少子化対策」雇用改革(底上げによる格差是正)、公教育の再強化、地域活性化、「防災・減災」国土強靭化でハード・ソフトの蓄積の推進、ボランティア登録制度など、「外交防衛」民主主義と市場経済を守り抜く GXやDX、スタートアップなどの企業支援が掲げられている。
経済政策としては、「実感できる経済再生をしたい」を訴える。「アベノミクスから、岸田政権の『新しい資本主義』までやってきて、実質賃金がプラスになったが、世論調査では『実感しない』と出る。地元に帰っても、地方や中小企業に波及していないとの声が強い」。
現実とのギャップが生じる原因として、平均値を指標としていることを挙げる。「平均値はプラスの人が増えると上がるが、真ん中や下は変わっていないかもしれない。平均値ではなく中間値を見る政策をやりたい」と語った。
■解雇規制問題「あくまで判例だ。政府では変えられない」
今回の自民党総裁選をめぐっては、「解雇規制問題」に触れる立候補予定者が出てきている。日本では現状、整理解雇(リストラ)の企業に「人員整理の必要性」「解雇回避の努力義務」「被解雇者選定の合理性」「手続きの妥当性」の4要件が求められるため、解雇は難しい。もし解雇規制を緩和すれば、「転職が容易に」「賃金UPしやすい」といったメリットがある一方で、「突然の解雇」「解雇をちらつかせる対応」などのデメリットも考えられる。
河野氏は、正規・非正規の格差があまりに大きく、労働市場の流動性がないとして、解雇に対する補償のルール作りや、スキルアップ支援によるセーフティーネットを提案する。また小泉氏は、企業が雇用を検討せざるをえない場合に、リスキリングや学び直し、再就職支援を義務づけ、成長分野へ移ることのできる制度づくりに意欲を示す。
しかし林氏は、そもそも「解雇規制」という表現に違和感を持っている。「解雇の規制はなくて、あくまで判例だ。政府では変えられない。金銭による解雇が、最高裁で判例を理由にダメになると、企業はためらってしまう」と懸念を示す。
人材の流動性については「嫌々やめさせるよりは、選択肢を増やして、より良いところに自分で行くのがいい」と考える。「『解雇規制』は不本意の解雇を規制する。自分から進んで新しいところへ行くのは『解雇』とは呼ばない」。
労働時間の規制が強まり、働き方改革による新たなルールも定められ、労働を取り巻く状況を、林氏は「ヨーロッパに近づいている」と見る。「その次はどうするか。同じ時間働いても、生産性が上がれば、賃金も上がる。選択肢を増やして、リスキリングしてもらい、生産性が高い仕事をやってもらえる雇用環境の整備が大切だ」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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