死刑が確定した「袴田事件」の再審で、静岡地裁が袴田巌さん(88)に無罪を言い渡した。弟の無実を信じて、58年間闘い続けてきた姉・ひで子さん(91)は、会見で「裁判長の『主文、被告人は無罪』が神々しく聞こえた。感激やらうれしいやらで、涙が止まらなかった」と語った。
袴田事件は1966年6月、静岡県清水市(現・静岡市清水区)で、みそ製造会社の専務宅が全焼した。焼け跡から一家4人の遺体が発見され、袴田さんが強盗殺人放火の容疑で逮捕された。そして1980年、最高裁で死刑が確定した。
今回の再審で、静岡地裁は、3つの証拠ねつ造があると認定した。「違法性の高い取り調べにより作成された検察官調書」「犯行時に着ていた5点の衣類」「袴田さんの実家で見つかった5点の衣類の端切れ」だ。さらに、検察官が一部ねつ造を認識していた可能性を示唆した。
40年近くともに闘ってきた小川秀世弁護士は「裁判官が3つの論点について、ねつ造を認定したことも画期的だ。検察官と警察官がタッグして、一緒にねつ造してきたことも、はっきり認定した。今までの再審請求審の決定にはなかった重要なポイントだ」と評価した。
袴田さんは裁判で一貫して否認するも、最高裁で死刑が確定した。翌年から裁判のやり直しを求めて再審請求を続けたが、2008年に最高裁で再審を認めない判断が確定した。元プロボクサーの袴田さんを、ボクシング界も支え続けた。
「静岡に何度も行った。『ボクサーだからやったんじゃないかって、みんな思ってますよ』(と言われて)、『ボクサーはバカなのか、この野郎』と言った。でもみんな諦めてしまっていた。『何回もやったけど、どうしようもない』と言う」(元世界ジュニア・ミドル級王者の輪島功一氏)
再審の扉が開いたのは、2014年に弁護団が行った「衣類のみそ漬け実験」だった。そこで、犯行時に着ていたとされる衣類が、みそタンクに1年以上あった場合、色合いが薄すぎることが確認された。同時に付着した血液の色の変化も証明した。弁護団は、これを新たな証拠として、2度目の再審を請求。静岡地裁は請求を認め、再審開始を決定。死刑執行を停止し、袴田さんは死刑囚として初めて拘置所から釈放された。
しかし再審決定を不服とした検察側が即時抗告し、再審開始が一時取り消されるなど、さらに10年の月日を要した。小川弁護士は「この件の捜査は、袴田さんを犯人に仕立てるため」だったと指摘する。無罪を言い渡した国井恒志裁判長は、ひで子さんに、こう語りかけた。
「裁判所は、真の自由を与えることはできない。ただ自由の扉を開けました。このあと検察の控訴によって、閉まる可能性がある。判決まで、ものすごく時間がかかったことについて、申し訳なく思う。これからも心身ともに、健やかに過ごしてください」
ABEMA的ニュースショーは、判決後にひで子さんに話を聞くことができた。「裁判所があそこまで踏み込んで言ってくれて、勝ったんだと思った。裁判長が『被告人を無罪に』と言ったとき、本当に神々しく聞こえた。感激して1時間ぐらい涙が止まらなかった。私はそんな涙もろい人間じゃないが、安心したということ。緊張していないようで、緊張していた」。
ひで子さんは今まで、袴田さんに不安を与えないようにと、あえて裁判の進展を報告してこなかったという。「あえて話はしないようにしていたが、ここまで来れば話してもいいと思った。巌の事件だから、巌にわかってもらわないと。喜んでもらわないといけない」と話す。
ねつ造によって、死の恐怖にさらされながら、58年間も人生を奪われた。しかしねつ造した側は謝罪すらなく、何の罪にも問われていないのが現状だ。無罪判決が出た後、ひで子さんは自宅で待つ袴田さんに、こう報告した。
「今日はいいことあったね。再審開始になったの。無罪の判決が出た。あんたが勝った。あんたの言うとおりになった。裁判長さんが無罪だって。これでもう終わったでね。もう安心して寝てな」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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