世界人口の7割が権威主義的な国に住む現実 背景に中国とロシアの影…日本が陥る可能性も「民主主義に永遠はない」
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強権的な手法で人々の自由を制限し、政府が中央集権的に支配する「権威主義」。過去20年の間に、こうした国に住む人の割合は、71%に増えたことが、スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」の報告書で分かった。権威主義とは、何なのか。スタファン・リンドバーグ所長(イエーテボリ大学教授)に聞いた。

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テレビ朝日デジタルニュース部では「アニメでわかる!民主主義のおはなし」を制作しました。民主主義の仕組みや、独裁政治、権威主義についてオリジナルキャラクター「デモにゃん」がわかりやすく解説します。

42カ国で進む権威化「過去にない歴史的な状況」

――「民主主義リポート2024」では、民主主義の後退について特に詳しく書かれています。現在の世界の民主主義の状態についてどのように評価しますか

今日、民主主義は20~30年前よりずっと弱くなっています。世界の多くの場所で民主主義が弱まり、崩されています。それを裏付けるように、現在、42カ国で権威主義化が進んでいます。これらの国に住む人は28億人もいます。世界の人口の18%を占めるインドで、権威化が進んだことが主な原因ではあるものの、42カ国で強権的な状態に進んでいる状態にあることは、過去にない歴史的な状況です。

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――報告書によると、世界の民主主義の度合いが1985年の水準まで低下しています。もっとも懸念すべき要因はなんですか

まずは中国とロシアの存在を挙げましょう。中国は世界の中でも特に民主化の拡大を阻止しようとしてきました。SNSなどを含めた言論統制を強化し、メディアの監視や検閲の仕組みを強化しました。香港では2019年に香港政府が刑事犯の本土への引き渡しを許可する法を導入したことで、権威化が加速しました。

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次にプーチン(政権下)のロシアです。プーチン氏が1990年代後半に権力を握ってから、ロシアでは民主主義がほぼ排除されました。旧ソ連の多くの国々の発展にも影響を与え、今でもウクライナへの侵攻を含む反民主主義的な活動を続けています。

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3つ目はサウジアラビアです。1980年代後半以来、非常に保守的で急進的なイスラム教の教えを広めています。

4つ目は、世界中で広がる経済的な格差です。これは1980年代の初めに始まりましたが、全世界に影響を与えています。収入や社会的な地位に不平等を感じる人々は、反民主主義的な政党やリーダーを支持する傾向にあることが、データからわかっています。

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――V-Dem研究所では、世界各国・地域の政治体制を4つに区分しています。「自由民主主義」「選挙制民主主義」「選挙制権威主義」「閉鎖的権威主義」。これらの違いについて、なるべく簡単な言葉で教えてください

自由民主主義は「完全な民主主義」とも言います。みんなが自分の意見を持って、それを表現する自由があります。また、多くの人が望むことが実現される仕組みです。さらに、裁判所や警察などで公平・公正に扱われることが約束されています。つまり、「法の支配」が守られているということです。

選挙制民主主義では、みんなが自由に自分の意見を言えますし、誰でも新しい政党を作ることができます。そして、自分の好きな政党に自由に投票できます。選挙で勝った政党は政治的な力を持ち、社会で何をするかを決めることができます。

選挙制権威主義では、選挙があるため、一見、民主主義と同じように見えます。しかし、政治のリーダーがメディアの多くを支配し、特定の政党を弾圧したり、何らかの理由で一部の政治家を投獄したりすることがあります。

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閉鎖的権威主義では、選挙を行わないので、制度としてはシンプルです。一人の王がすべて決める国もあれば、北朝鮮のように一つの党がすべてを決める場合があります。イランやアフガニスタンのように宗教指導者がすべてを決める宗教政権もあります。独裁ともいいます。

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――自由民主主義と選挙制民主主義は一見同じように見えます。違いは何でしょうか

自由民主主義と選挙制民主主義の大きな違いは、自由民主主義のほうが、行政権に対するチェックがしっかりしていることです。政府が疑わしい行動や違法行為に関与した場合、立法機関がそれを調べて対処します。また、自由民主主義において司法は完全に独立しており、政治的な影響やその他の影響を受けません。そのため、政治指導者は司法制度を政治目的で利用することができません。

権威主義に良いことは本当に一つもないのか

――あえてお聞きします。「民主主義」と「権威主義」のどちらが良いのでしょうか

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権威主義、特にその中の一つの体制である独裁国家には何の利点もありません。 一人または少数の人々やその人たちが属する政党、または宗教団体がすべてを決定します。そして、自分の裁量であなたを投獄したり、拷問したり、殺害したり、あなたのお金を奪ったり、家を取り上げたりします。

――強権的な政治のもとでは経済発展がしやすいとも言われます

中国やシンガポール、それに1960年代から1980年代初めの韓国を見て、強権的な政治の方が経済をうまく発展させることができると言う人がいるかもしれません。でも、世界のさまざまな例や歴史を見れば、それが正しいとは言えません。中国の過去20~30年や、同じころの韓国、そしてそれより前の台湾のような例は、とても稀なケースです。

通常は、独裁的な政治のもとでは、(治安の悪化や大統領選挙で不正があった)コンゴ民主共和国のような状況に陥る可能性がはるかに高いんです。あるいは、カンボジアのようになる。これらが典型的な例です。

したがって、独裁的な指導者のもとで経済が発展したり、人々の生活が良くなったりするのは、ほんの一部の例に過ぎません。多くの場合、そうはならず、全体的に見れば、民主主義の方が経済を成長させたり、人々の生活を良くしたりするのに、優れているということが分かっています。

――では、民主主義は?

自由民主主義は、私たち個人の日常生活に多くの利点をもたらします。

表現の自由、拷問からの解放、政治指導者を選ぶ自由、デモを行う自由など、大切な自由を提供します。

医療システムの提供、乳幼児死亡率の低下、疾病との闘いはもちろん、道路整備や、電力供給など、私たちの日常生活を支えるインフラの整備、ワクチン接種など、あらゆる面で権威主義体制の国よりも優れています。

「どの国も、永遠に民主主義が続く」と安心はできない

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――日本が権威主義に陥る可能性はあると思いますか

今のところ、日本が民主主義から外れそうな兆しはありません。でも、権力を一部の人だけが握る権威主義の危険から完全に守られているわけではないと思います。将来、日本が権威主義に陥る可能性はあります。

たとえば、インドは1945年からほぼずっと民主的な国でしたが、最近はその力が弱まってきています。どんな国でも「永遠に民主主義が続く」と安心するわけにはいきません。民主主義は、時代が変わるごとに活性化され、新しい世代が進めていかなければならないものなのです。

(取材・構成:テレビ朝日デジタルニュース部 今村優莉、石川瑞樹)

V-Dem研究所 スウェーデン・イエーテボリ大学に本部を置く研究機関。世界200以上の国と地域を対象に1789年以降の民主主義に関するデータ集を作成、無償で公開。4,200人以上の専門家が参加して作る世界最大級のデータは各国の政治的自由や市民の権利の状態を評価することに重点を置く

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