「デモに行け」と言われても…日本に住む私たちが出来ること 子育て中の記者が研究者の言葉から得た民主主義のヒント
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民主主義の仕組みと権威主義との違いについて、連載で伝えてきた。では、民主主義を守るためには何が必要なのか。私たちにできることは何だろう。スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」のスタファン・リンドバーグ所長(イエーテボリ大学教授)へのインタビューを通じて、世界各国の民主化の状況を分析しながら、これらの問いについて考えてみたい。

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テレビ朝日デジタルニュース部では「アニメでわかる!民主主義のおはなし」を制作しました。民主主義の仕組みや、独裁政治、権威主義についてオリジナルキャラクター「デモにゃん」がわかりやすく解説します。

投票権がなくても、出来ることがある

――民主主義を維持するために、私たちができることはどんなことですか

私たちは常に声を上げ続け、闘わなければならないと思います。間違いなく。最も簡単なことの一つは、選挙に行って投票することです。

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私たちは市民として、政治家が何をしているのか、何を決めているのか、どのように社会を変えているのかを見ることができます。それが気に入るかどうか、つまり支持するかどうかを判断します。

そして、投票所に行き、紙を手に取り、自分が支持する政党や候補者の名前を書く。そして、それを箱の中に入れます。とても簡単なことです。

同時に、私たちは選んだ政治家がウソをついていないか、彼らが責任を持ってやるべきことをしているかどうか、チェックをする責任があります。もし、約束と違うことをしていたら、次の選挙で別の人を選ぶことができます。

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――投票権を持たない若い世代に民主主義の重要性をどのように伝えるべきでしょうか

たとえまだ投票権がなくても、政治や市民社会に関心を持つことは大切です。生活の中で議論に参加することも可能でしょう。気になることがあれば周りの人と話し、必要であればデモに参加することも、デモを組織することもできますよね。そうしていくことで、周りにいる、人々の投票行動に影響を与えることができるかもしれません。

民主主義の最前線には常に若者がいた

――若者の行動によって政治システムが改善した例はありますか

民主主義のために闘ってきた場所では、常に若者が最前線にいました。2000年代に旧ソ連諸国で起きた「カラー革命」では、若者が非常に重要な役割を果たしました。ウクライナのオレンジ革命(2004年)では、若者や学生が不正選挙に対して抗議し、民主化を求めました。グルジア(現ジョージア)で起きたバラ革命(2003年)やキルギスのチューリップ革命(2005年)でも、学生らが腐敗した政府への抗議活動で中心的な役割を果たし、結果的に政権の崩壊をもたらしました。

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南アフリカのザンビアで民主化を求める運動があったときは、若者や女性の団体が反腐敗運動に参加したり、政府の透明化や説明責任を求める声を上げたりしました。彼らはソーシャルメディアを活用して政治参加を呼びかけ、選挙に対する意識を高める活動をしました。その結果、若者たちが支持する候補者が勝利を収めました。

2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘運動」は、香港に対して統制を強めた中国本土に対する大規模な市民運動で、大学の若者たちがデモを組織しました。彼らは失敗し、敗北しましたが、先頭に立って抵抗する姿は世界中から注目されました。

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民主化運動では、しばしば学生組織や若者による団体、労働組合の青年部門などの市民社会組織が非常に重要であり、彼らは常にバリケードの前に立ち、人権と民主主義を守るために声を挙げたり、街頭デモをしたりしてきました。

声をあげる機会を利用しなければ、文句はいえない

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――日本の20代の投票率は他年代に比べて常に低いです。どうすれば若者が政治に関心を寄せると思いますか

若者が民主主義の価値を理解し、政治や市民活動に参加することは、日本の民主主義を守るためにとても大切なことです。政治に関与することで未来の日本をどのようにするか、影響を与えることができる、そうでしょう?

もし政治に関心を持たなければ、何が起こっても受け入れなければならないでしょう。

投票する機会はありましたか。
市民活動に参加する機会はありましたか。
デモに参加して、声をあげ、自分の意見を主張する機会はありましたか。

もしあったのに、そのチャンスを利用しないのだとしたら、為政者によって決められることについて文句を言う資格はありません。

――民主主義のシステムを機能させるために一番重要なのは教育、メディア、現役の政治家…どれでしょうか

私はすべてが重要だと思います。民主主義は一つの要素にかかっているわけではなく、どれか一つが他よりも大事だと言うことは難しいです。

若者が良い教育を受けること、特に民主主義について知ることはとても重要です。なぜ民主主義が大事であるかについて、もっと教育されるべきでしょう。

メディアは非常に重要であり、インターネットが発達し、瞬時にデマやニセ情報が飛び交う世界において、真実を伝える役割はいままでになく重要です。

(取材・構成:テレビ朝日デジタルニュース部 今村優莉、石川瑞樹)

ー取材を終えてー「デモに行け」と言われても…

「投票に行かなければ、文句も言えないじゃないか」。直近の国政選挙(2021 年)で、日本の20代の投票率が36.5%であることを伝えたとき、7時間差あるオンライン画面の先で、スタファン・リンドバーグ教授はあきれたような、少しいらだっているような表情を見せた。「なぜ日本の若者が政治と距離を置いているのか、私には理解できない」と首をかしげた。 

民主主義の大切さについては理解できたが、世界におけるデモや革命の話をされても、それをそのまま読者に伝えて共感を得られるか、正直ピンと来なかったのがホンネだ。どうすれば、日本の若い人たちに民主主義や選挙の大切さを知ってもらえるだろうか。いや、そもそもなぜ、政治に興味がない人が若年層には多いのだろうか。

ヒントを求めて、粕谷祐子・慶応大学法学部教授(V-Dem東アジア地域センター所長)を訪ねた。

粕谷氏は、フィリピンやマレーシアの選挙の様子を目にした経験をもとに「家庭単位」での教育が大事ではないかと指摘する。「東南アジアの国々の人は、選挙に家族で行くんです。親や、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に選挙に行くようになると、小さいうちから『選挙とは、行くものだ』という習慣のようなものができていく」と話す。 

教育、というよりは「家庭単位でそういう習慣があると、政治に関する環境に無意識に近づいていく」。また、国政レベルでは、政権交代が起こりそうにないなど、最初から誰が国のリーダーになるのかが分かってしまう選挙だったら「『行ってもしょうがないよね』と世代を問わず諦めに近いものがあるかもしれない」とも分析。政権を任せたいと思える新たな勢力が日本では育っていないことが、投票率の低さにつながっていることを暗示した。 

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民主主義は身近なところにもある、と粕谷教授は話す。「例えば、生徒会。学校だから、生徒は全員、投票権を持っていますよね。でもそれを使わなかったら、自分が好きではない人が生徒会長になって、めちゃくちゃな校則を作ってしまうとか。そう考えると、投票に行った方がメリットがあると伝えやすいですよね」。生徒会選挙でなくても、例えばクラスのなかで新しいルールを決めることも「クラスの自治をどうするか、という話ですし、リーダーシップを発揮する子どもにどうしたら育てられるのか話し合うことも、民主政治です」と説明した。 

「政治の仕組みを理解するのは政治学者の仕事ですが、投票権がない子どもたちにも、普段の生活から自分事として考えられるところに民主主義があるよ、と話したり、自分の生きている空間、学校の仲間や一緒に過ごしている友達の間でどんなふうに合意の形成をしていくのかっていうことについて考えたりするという過程を大事にしてほしい。そこが、民主主義の一番の基礎だと思います」。 

出来ることが、私たちにもあるかもしれない。選挙に行っても変わらない、いや、そもそも政治に興味を持ってはもらえないだろうと諦めるのはまだ早いと考えさせられた。

まもなく、選挙だ。子どもを連れて投票に行ってみようと思った。(今村優莉)

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