今月5日に行われるアメリカの大統領選挙。ミシガン、ペンシルベニアという2つの激戦州に挟まれたオハイオ州はかつて「オハイオを制する者が大統領選を制する」と言われるほど象徴的な激戦州でしたが、今は様変わりしていて“トランプ王国”となっています。熱烈なトランプ支持者が増え続けているのは一体なぜなのか。支持者の本音に大越健介キャスターが迫りました。
【画像】トランプ支持者増加の理由は?大越がインフルエンサー直撃 米大統領選オハイオ州
■姿を変えた“激戦州”
19世紀初頭からアメリカ有数の“工業地帯”として栄えたオハイオ州は、かつての激戦州の姿を一変していました。
大越健介キャスター
「今、私がいるのは車社会のアメリカで、ドライバーたち、ご近所さんの胃袋を満たす飲食店、いわゆる“ダイナー”ですが、トランプ氏への支持を示す大きな横断幕が掲げられ、至る所にトランプ支持の旗が立てられています。中に入ると目立つのがトランプ氏の肖像画です。お客さんを伺うと、白人のお客さんが非常に多いということです。そして、一番目に付く所には、トランプ氏が演説会で銃撃された直後に立ち上がった時の写真が掲げられています」
大越健介キャスター
「これまたすごいですね。トランプさんとハリスさんの両方のハロウィーンの人形があって。ハリスさんの前には1人しかいなくて、トランプさんの前には赤い服着た共和党支持者があんなにいるぞ、トランプすごいぞっていうのを全力でアピールしていますね」
大越健介キャスター
「ここもまた熱烈なトランプ支持ですね。ヤードサインで支持を表明する人が。このお宅もトランプ支持ですね。ここもトランプのヤードサインがあるんだ。トランプ支持者多いなという感じですね。ここもバナーをはってますよ」
■白人支持層の“本音”
オハイオの人々を引き付けているものはなんなのか。熱烈なトランプ支持者で、クラシックカー販売店の経営者をしているティム・フランコさん(49)に聞きました。
ティム・フランコさん
「(Q.あなたがトランプ氏を候補に推すのはなぜですか?)彼の良いところは便宜を図らない。お金のためにやっていない。ただただ国を愛しているからやっているのだと思う。ちょっとナルシシストなのは支持者も認めているけれど少しも気になりません」
もともと警察官だったフランコさん。退職後、一念発起して、念願だった会社を立ち上げました。
ティム・フランコさん
「(Q.民主党、特にハリス氏が信じられないのは?)民主党を信じないというより、価値観が違うんです。私は週60時間以上、働いてきました。税金をたくさん払い、請求書も滞りなく支払い、住宅購入のために貯金もしました。なのにハリスは1軒目の住宅購入者に2万5000ドル(約380万円)を支給するという。その財源が自分の払った税金だと思うと、はらわたが煮えくり返ります。この国は今、ビジネスマンの指導者を必要としています。経済を立て直さないといけません。猛烈なインフレが皆を襲っています」
トランプ氏に経済を建て直してほしいというフランコさん。同様の話を別の場所でも耳にしました。
オハイオ州はアメリカの東西南北をつなぐ交通の要衝であり、全国からドライバーが集まります。その多くが経済への不満を口にしていました。
トランプ支持者 トラックドライバー
「(Q.トラック運転手にとって重要な政策は?)インフレ対策ですね。一番大事です。出費が何よりもネックです。バイオディーゼルも燃料費も」
■“移民の街”拡散する不安
経済問題だけではありません。支持者が重視しているもう1つが移民問題です。
トランプ支持者 トラックドライバー
「合法に来ているのなら移民への文句はありません。入国許可を持っているんだから。不法なのは困ったことで、誰も取り締まろうとしない」
オハイオ州は、その移民問題をめぐって、やり玉にあげられたといっていい場所です。
共和党 トランプ候補(大統領選討論会 9月)
「スプリングフィールドでは移民たちが犬や猫を食っている」
この発言で有名になってしまったオハイオ州の町スプリングフィールド。地元当局がそんな事実はないと否定したにもかかわらず、トランプ支持者たちの間でうわさ話が拡散。こうしたデマはSNSだけではなく、別の媒体を介して広がっていることがあります。その1つがラジオです。
ボブ・フランツさんのラジオ(9月16日放送)
「大げさな表現でしたが、トランプ氏は“動物が捕まえられ殺されている。そんな報告を受けている”と指摘しただけだ」
車社会アメリカにおいて、ラジオは重要な情報プラットフォーム。ローカルラジオの放送内容が地元の人々に大きな影響を与えることもあります。
■地元ラジオ インフルエンサーに直撃
クリーブランドのローカルラジオのパーソナリティ、ボブ・フランツ氏に直接、話が聞けることになりました。
保守系ラジオパーソナリティー ボブ・フランツさん
「(Q.人々は何を求めてあなたのラジオを聴くのですか?)政治やニュースに関心があるリスナーはABC、NBCやCBSなどの大手テレビ局とは異なる視点に触れ“もう片方の見解”を知るために聴いてくれるのです」
保守系ラジオパーソナリティー ボブ・フランツさん
「(Q.主流メディアは信用できないと?)もはや信用できません。彼らは事実を公平に伝えるより、自らの目標達成のため、ニュースに角度をつけ、ゆがめて伝えているのです。報道は文脈全体を伝えて初めて“公平”と言えます。しかし、あの討論会でトランプ氏が語ったことを、彼の“でっちあげ”のようにメディアは伝えました」
保守系ラジオパーソナリティー ボブ・フランツさん
「(Q.トランプ氏は『移民はペットを食べている』と発言しました。スプリングフィールドは直後にその主張を否定しましたが、トランプ氏は公平だったと思いますか?)トランプ氏が強調していたのは、不法移民が大挙し町に流れ込んでくる問題で、メディアは“犬や猫を食う”という些末な話に固執したのです」
なぜ、移民問題が過激な感情を引き起こすのか。こんな質問を投げかけてみました。
保守系ラジオパーソナリティー ボブ・フランツさん
「(Q.中西部で白人の人口減少が続いています。白人は移民との“入れ替え”を恐れているとお考えですか?)それは正確な表現とはいえず“入れ替え”は恐れていません。移民が大量に流入すると多くの資源が奪われます。教育や医療、住宅、財政あらゆる資源がアメリカ市民ではなく、入国すら認められていない移民に使われています。トランプ氏は不法移民ではなく“アメリカ優先”だと言っているのです」
こう話す一方で、危機感をにじませた部分もあります。ハリス氏が掲げている移民制度改革。不法入国への取り締まりを強化しつつ、ふさわしいものには市民権を獲得する道も作るべきというものです。
保守系ラジオパーソナリティー ボブ・フランツさん
「不法移民が『民主党とハリス、バイデン、オバマが受け入れてくれた。市民権も与えてくれた』と考えたら、彼らは誰に投票しますか?あなたは『入れ替えの恐怖』というが、これは白人の入れ替えではない。この国が受け入れた恩を忘れない人たちとの票との“入れ替え”です」
■大越が見た“トランプ王国”
(Q.トランプ支持者の方々それぞれの心のグラデーションを感じて驚きました。実際に取材をしてどう感じましたか?)
大越健介キャスター
「実際にトランプ支持者の日常生活のなかでお会いすると、皆さん非常に善良で、我々の取材にも丁寧に応じてくれる方が多いです。長距離トラックのドライバーの皆さんが口をそろえて言うのが、燃料費がかかって商売にならないというぼやきでした。経済への不満は得てして現在の政権に向けられがちではありますが、アメリカの庶民の一定数が『トランプ政権の頃は物価も安定していて良かった』とノスタルジーを込めて振り返っていたのが印象的でした」
(Q.足元の生活を良くしたいという思いが、トランプ氏に集まっているということですか?)
大越健介キャスター
「それは大きいと思います。そして、もう1つ感じたことがあります。トランプ氏に対する信頼が、伝統的な共和党支持者の間にも根付いてきているということです。8年前にトランプ氏が頭角を現した時、その破天荒な言動には、折り目正しい共和党支持者のなかには眉をひそめる人も少なくありませんでした。しかし、例えば今回取材した車の販売業者のフランコさんは『最初は自分もトランプ氏を奇妙な役者のように思っていたけれど、今は決してそうは思いません。自分のように自らリスクを取って商売をし、努力して稼いで自立して税金を納めてきた人間にとって、トランプ氏は価値観を共有できる人物。少なくとも共和党の候補者としては、トランプ氏は最善の人物だと思います』と話していました」
(Q.ハイチ系移民がペットを食べているという情報について、市の当局が否定しているにもかかわらず、そうした情報が一方的に拡散してしまうと、有権者の意識が1つに染まってしまう危うさもありませんか)
大越健介キャスター
「情報をどこから取っているかは、1つの大きな要素だと思います。トラックドライバーたちの取材では職業柄もあってか、全国ネットのテレビではなく、SNSやラジオから情報を得ているという人が大半でした。不法移民がペットを食べているという話について、古くから共和党を支持してるフランコさんは『政治家の話というのは多少誇張を含むものなので気にしないよ』と意に介していない風でしたが、一定の影響を受ける人は決して少なくないと思います。保守系の人たちに人気の、ラジオパーソナリティーのフランツさんは、非常に博識でジェントルマンというイメージにピッタリの人でした。ただ、話をしていて驚いたのが、いわゆる“陰謀論”の話題になった時でした。トランプ氏が演説会場で襲撃された事件は『トランプ氏の大統領就任を阻止しようと、何か巨大な国際組織が、彼を暗殺しようとしたものに違いない』としきりに強調していました。根拠はなさそうでしたが、こうした陰謀論がアメリカ社会で一定の幅をきかせているのも事実です。自分の好きな情報源から、自分が好きな情報だけを選び取り、一色に染まっていく。異なる意見には耳を貸さなくなり、その結果として社会の分断が深まっていく。そんな現象が、ここアメリカではより明確になってきていると感じました」