去年11月、大学生だった水谷歌乃さん(当時20)がアルバイトからの帰り道、信号無視をした時速約60キロで走る車にひき逃げされ、亡くなりました。
【画像】シャワー浴びて「酒の臭い消し」 飲酒ひき逃げ“危険運転”で懲役9年
■飲酒ひき逃げ“危険運転”で懲役9年
車を運転していたのは、白坂翔被告(24)。事故後にアルコールが検出されたことなどから、危険運転致死などの罪に問われています。
事故当日、白坂被告は岐阜県多治見市で、2軒の飲食店をハシゴ。3時間半にわたり、少なくとも7杯の生ビールと、梅酒ソーダを半分ほど飲んでいました。その後、ハンドルを握った被告は、事故を起こすまでの約30分間、センターラインを越える蛇行や居眠りを何度も繰り返します。そして、信号を認識できないまま、事故が起きた交差点に進入していきました。
白坂翔被告 「(Q.ずっと眠気に襲われていたのでは)ずっとではありません。(Q.人とぶつかったとは思いませんでしたか)思いませんでした」
フロントガラスが割れていることに気付いた後も、被告は、現場に戻ることなく、自宅でシャワーを浴びることを優先させます。
白坂翔被告 「(Q.なぜ通報しなかった)これからのことを考えたからです。(Q.風呂に入って酒の臭いを消したかったと言っていたが)言った」
6日、検察側は “正常な運転は困難”で危険運転にあたると、懲役13年を求刑。一方、弁護側は、白坂被告が1つ手前の交差点までは「記憶があった」と話していることから、正常な運転が困難な状態だったとは言えないとし、「危険運転致死罪の中でも軽い部類の刑事責任」などと主張していました。
そして、13日、白坂被告に懲役9年の実刑判決が言い渡されました。アルコールが事故に強く影響したことは明らかだと断罪し、量刑についてこう述べました。
坂本好司裁判長 「被告人は飲酒する予定でありながら、自動車を運転して飲食店に行き、店を出て、まもなく運転を開始した。身勝手な判断で、その危険性を軽視し、寝落ちし始めてから、何度も運転をやめる機会があったのに、運転を継続した意思決定は、強い非難に値する。飲酒運転による重大事故が社会問題となって久しいにもかかわらず、本件のような悲惨な事故が後を絶たない現状も考慮して量刑した」
判決を受け、亡くなった水谷さんの父親がコメントを寄せています。
水谷歌乃さんの父親 「白坂被告の存在に屈しないように、これから前向きに強い気持ちをもって、家族で生きていきたい。この裁判をきっかけに、飲酒運転による事故が少しでも減ってくれれば」
■「危険運転」に“数値基準”案
◆今回は「危険運転致死罪」の“量刑”をめぐる争いでしたが、これまで「危険運転」の適用をめぐって判断が揺れることもありました。13日、新たな動きがありました。
大分市や伊勢崎市での死亡事故。どちらも当初は「過失運転致死罪・致死傷罪」で起訴されましたが、その後、検察が「危険運転」に訴因変更しました。
判断が揺れた理由として指摘されているのが、「危険運転」が成立する要件のあいまいさで、遺族からも「見直すべき」との声が上がっていました。
これを受けて、法務省は有識者による検討会を開催。その報告書案が公表されました。要件に具体的な数値基準を設ける可能性が出てきました。
飲酒運転については、現在の要件は『アルコールや薬物の影響で、正常な運転が困難な状態』とされていますが、検討会では、『呼気1リットルあたり0.15ミリグラム』『0.25ミリグラム』『0.5ミリグラム』という数値基準が考えられるとの意見もありました。最も厳しい0.15ミリグラムは、道交法の「酒気帯び」と同じ数値です。科学的な知見をもとにした『正常な運転が困難な状態』にあたるアルコール濃度だということです。
スピードについては、現在は『制御することが困難な高速度での走行』となっていますが、これについても、検討会で「最高速度の『1.5倍』や『2倍』の速度」との意見が出ました。たとえば、最高速度が時速60キロの道路なら1.5倍の時速90キロで「危険運転」に該当することになります。
今後、最終的な報告書をまとめる方針で、法務省は、それを踏まえ、法改正をするかどうか検討するということです。