脱石油依存を目指す中東サウジアラビアは今、アートに力を入れている。なぜアートなのか、番組で現地を取材した。
【画像】幻想的な光のアート…包み込まれるような没入感 大きな注目を浴びるミュージアム
■歴史地区に「チームラボ」が
砂漠の中に立つ全面鏡張りの巨大な建物。驚くべき場所に現代アート作品が展示されているのは、日本からおよそ8700キロ離れた中東の国・サウジアラビアだ。
砂漠とアートという摩訶不思議な組み合わせはアート好きの心をつかみ、世界のアートシーンで大きな注目を浴びている。
そのサウジアラビアに今年6月、新たなミュージアムがオープンした。
石造りの巨大な建物の中には、光が生み出す幻想的な世界が待っていた。
2階建ての広大な建物にはデジタルテクノロジーを用いた80以上の作品が展示されている。特徴は包み込まれるような没入感。
そのすべてを手掛けたのはデジタル技術を駆使し、世界を魅了するアート集団・チームラボだ。
サウジアラビア第2の都市ジッダ。紅海に面する風光明媚なこの街は古くからイスラム教の聖地・メッカへの玄関口としてにぎわってきた。世界遺産にも認定された「アル バラド」と呼ばれる旧市街地には今も歴史の面影が色濃く残っている。
この地にほど近い歴史地区と呼ばれる場所に誕生したのが「チームラボボーダレス ジッダ」だ。
館内に広がるのは幻想的な光のアート。白糸のような水が降り注ぎ、滝の中にいるかのような体験を味わえるこの作品。子どもたちは滝の中で遊ぶかのように作品に没入し、楽しんでいる。
さらに深く入り込める作品も。まるで土の中から地表に上がるように作られたこの作品は、室内にいながら広大な里山の中にいるかのような体験が味わえる。
そして、光が作り出す巨大な彫刻に圧倒されるのが「ライトスカルプチャー(光の彫刻)」だ。
直線である光線があたかもカーブしたかのようなその姿は、思い描く既成概念を心地よく裏切ってくれる。
空間内に無数のランプが配置された「呼応するランプの森」は動く人に反応し次々と輝く、連続性の美を表現している。
■ボーダレスに「世界の認識の幅を増やせたら」
サウジアラビアならではの新作もある。
2階へとつながる階段の壁を流れるのは砂の滝。その中に真っ赤なバラが咲き誇っていく。この砂にも没入することができる。
駒見直音アナウンサー
「このように触ると手の上に砂が落ちてくるかのような演出です」
チームラボが中東で初めて巨大ミュージアムを作った思いを、代表の猪子寿之さんに聞いた。
猪子代表
「言葉や論理というのはこの世界を切り刻んでいく。もちろんいい側面もいっぱいあって、そのおかげで科学や文明ができてきたのかもしれない。ただ本当はこの世界はいろいろなものが関係しあっていく。この世界の認識の幅を増やせたらいいなと思っていて、それがどうやったらできるかいまだに分からないけれど」
コンセプトは「地図のないミュージアム」。空間や作品同士の境界がない、ボーダレスの世界が作り出す新感覚のアートだ。
例えば、部屋の中に現れたカラスの群れが縦横無尽に飛び回り、様々な展示空間へと移動していく。草花が芽吹き、花が咲き誇るまでを体感できたかと思えばその花々をのみ込むような波が押し寄せるなど、時間的にも空間的にも流動的でひとつながりな世界が目の前に広がる。
掲げるコンセプトについて猪子さんはこのように話す。
猪子代表
「(地図のないミュージアムに)ついては非常にクレームも多いんですけど。とにかくここはさまようんだ」
しかし、訪れる人には楽しみ方や魅力が存分に伝わっているようだ。
ジッダ在住
「とてもいい、ミラクル。きれい」
ニュージーランド人
「それぞれのストーリーを追っていくところがいい」
「こういうところに来るのは初めてです」
「自分のすべての感覚が引き込まれるような、とてもいい経験です」
■ギャラリーオーナー「夢のようなこと」
今回「チームラボボーダレス ジッダ」をオープンするにあたり大きなバックアップを行ったのがサウジアラビアの文化省だ。
サウジアラビア王国文化省 スポークスパーソン
アブドゥラハマン・アルモタワ氏
「チームラボはあらゆる世代の来館者がユニークな体験をし、触発されるミュージアムの一つです。文化省はあらゆる文化的領域で若者の才能を伸ばすことに取り組んでいます。文化省の戦略の一つとして、最も秀でて最も成功したチームラボを誘致しました。我々は文化・アートが全人類共通の言語であると信じています」
さらに、チームラボを招致したのにはもう一つの理由があった。
サウジアラビアは世界的な産油国として知られているが、限りある資源に頼ることがないよう独自の方針「サウジ・ビジョン2030」を掲げ、原油から観光、文化、経済などへの転換を図っている。
そのなかで注力しているのがアートだという。いにしえから多くの人々が訪れ交流がなされてきたジッダでは、アートを楽しむベースがあるという。
サウジアラビアでギャラリーを運営するモハメッドさんは現在の状況について、次のように話した。
アーサーギャラリー
モハメッド・ハフィズさん
「私たちは16年前にギャラリーを創設しました。こんにちまでに国内や世界で150を超える展示会を行ってきました。芸術の普及・交流が一層なされたはずです。チームラボがサウジアラビアにミュージアムを開くことは夢のようなことだったと言えます。その夢が実現し、地元の人たち、友人たち、この国を訪問する人たちと分かち合えることをとても誇りに思います」
■アートの力でインバウンド獲得目指す
モハメッドさんの言う通り、ジッダでは今、アートを中心とする文化的交流が盛んになっている。
サウジアラビアのアーティストによる作品が飾られた特徴的な外観の「ハイ ジャミール」は映画館やギャラリーなどを兼ね備えた複合施設だ。
週末ともなればアートに興味のある人々が足を運び、にぎわいを見せているという。
ジッダ市民
「(Q.若いアーティストは増えている?)最近は増えています。私にも歌手やアーティスト、画家の友人が何人もいます」
アートギャラリーに足を運んだ地元の人はこのように話す。
ジッダ市民
「(Q.ジッダにアートギャラリーがあることをどう感じる?)すばらしいことですね。私たちのアラブの起源や、すてきなアートを設置することは」
サウジ国内でアートの機運を高め、国外にアピールしたいと文化省のアルモタワ氏も語る。
アルモタワ氏
「世界遺産に登録されているジッダの歴史地区にチームラボのミュージアムが存在することで、歴史的で由緒ある地域に異なる独創的な現代アートが加わります。より観光客を呼び込みたいです」
アートの力でインバウンドを獲得したいサウジアラビア。そして、猪子代表はさらなる未来を見つめている。
猪子代表
「世界の見え方がほんの少しでも広がったり、変わったりするようなものを作りたいと思うし。本当言うと、さらにめちゃくちゃでかいものを作りたい」
(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年11月1日放送分より)