大下「テレビ朝日の大下と申します。よろしくお願いします」
【画像】本木雅弘、倉本聰作品に初参加 主演映画「海の沈黙」で小泉今日子と32年ぶり共演
本木「もちろん、存じ上げております」
今月22日に公開される、本木雅弘・主演の映画「海の沈黙」。
世界的な画家の展覧会で、贋作事件が発生。
報道が過熱する中、北海道・小樽では、女性の遺体が発見される。
捜査が進み2つの事件の間に、ひとりの男が浮かび上がった。
かつて、天才画家と呼ばれるも、こつ然と表舞台から姿を消した、津山竜次だ。彼が内に秘めてきた美への思いや、忘れられない過去が徐々に明らかとなる。
脚本は「前略おふくろ様」「北の国から」「やすらぎの郷」などを手掛けた、
巨匠・倉本聰。本作が ”最後の映画”とも言われている。
大下「倉本作品の出演は初めてということですが…」
本木「自分も昭和から役者をやっているひとりとしては、誰もが倉本さんの作品に一度は呼ばれたいと思っていたと思いますけど、倉本先生の作品の中で見せる男の器量みたいな、いろんなタイプの味わいがありますけれども、それにはきっとそぐわないんだろうなと距離を感じていたんですが、ここにきて急に手繰り寄せられちゃったという感じが不思議でならない…そういった戸惑いも含めて”来てしまった”という感じですね」
大下「来てしまった…」
本木「背負えるのかと…」
当初は、倉本聰にまつわる”定説”に、戸惑いがあったという。
大下「撮影中に電話で倉本さんに相談したと聞いたのですが」
本木 「お電話で私がお話したのは撮影に入る前だけですね。とりあえず私が最初に先生に伺ったのは、倉本作品で定説になっている台詞の語尾、一字一句に至るまで書いてある通りに読まねばならないというのが、昭和の時代から”定説”として聞いていたので、『それはそういうことで間違いないでしょうか?』とそこから確認したら、(倉本さんが)大笑いして、『いえいえ、そんなことはないんですよ。あれは勝手に噂が一人歩きしましてね』と。『もちろんそこに、どうしてそういう語尾になったかという、ニュアンスは込めているけれど、その解釈が完全にズレていなければ、あなたの感じるままに演じていいんですよ』と、まず1つクリアみたいな感じで…」
本木演じる津山竜次は、天才画家と呼ばれるも、人々の前から姿を消し、贋作作りに手を染める謎の人物だ。
本木「倉本さんの作品の中で面白いのは、本当にその人の人物背景、各キャラクターの履歴がいただけるんですよ。手書きの倉本さんの文字で、A4用紙11枚ぐらい」
大下「11枚!?」
本木「はい。私が演じた津山竜次という役だけで11枚あった」
ドラマ「やすらぎの郷」の取材の際にも、巻物のような長~い履歴書が…。
倉本は、脚本を書くに当たって、主な登場人物、全員の履歴書を作成する。
本木「とにかく生まれてから今日に至るまでのエピソード時々のエピソードが書かれていて、物心つくと、ひとり浜辺で、両親の帰りを待ちながら、流木でひとり絵を描きこんでいた…、そういうことに始まり、いただいた役の両親が、お父さんが刺青師でありながら漁業もやっているという環境なんですけど、両親を海難事故で亡くしましてという経緯があって」
大下「細かいエピソードですけど、まったく映画には出てこないけれども人物背景として…」
本木「そうです。そのキャラクターがどういう経験を経て、どういう性格・性質が形成されていったか、うかがい知れるわけですね。
その後、ヨーロッパに皿洗いから始めて、刺青師を経て、贋作作家になっていくという流れも事細かに書いてあるんですよ」
大下「それを直前に渡されて…」
本木「そうなんですよ。一緒にその出来事とともに、彼の感情を知って今に至るというところにいけるんですけど、なかなかそうならないので、面白いけど難しい」
■かつての恋人役に小泉今日子…32年ぶりの共演
共演陣も豪華な顔ぶれが揃った。津山のかつての恋人・安奈を、小泉今日子が演じる。
大下「小泉今日子さん、かつての恋人役で”花の82年組”でデビュー同期。おふたりが再会するシーンがとても素敵で好きで…」
本木「不思議ですよね。役の上で再会するシーンなんですけど…」
2人はこの作品で、およそ32年ぶりの共演を果たした。
映画「海の沈黙」(埠頭の再会シーン)
津山「やぁ、みつかっちゃいましたね」
安奈「何年振りかしら?」
津山「忘れました」
大下「私、『あぁ!』って、映画を観ながら声出すことって初めてで。
おふたりの会話と情景、場面がすごく良い…」
本木 「何気ない埠頭でちょっと薄い風が吹いていてという感じで。
ただ元恋人同士が再会したという懐かしさとか嬉しさとかだけではないし、そのころには、映画の役どころでは、命が尽きるもしれないと自覚しているし、だから30何年振りにあった。ただ恋人というよりも、この2人の関係が面白くて…」
画家・津山の行動を見守る謎めいた男の役は、中井貴一だ。
本木「津山竜二というアーティストを献身的に支える、マネージャーみたいな役どころなんですけど、中井さんは徹底しているしブレないんですよ。私もどこかで演じる中に込めようと思っていたのは、最近の言い方でいえばソウルメイト的な、純粋に美に対しての思いとか。そういう風に通じ合っているから、そこで繋がっているということのブレなさ」
だが、そんな中井に対しては、ある”不満”があったという…。
本木「中井さんがズルいなというか、心がつながっている役なので、撮影中も自分で誘って親交を深めた方がいいのかなという風に思うんですけど。時々、出番がないときにジムで会ったりして、『こっそり誘ってみようか』みたいな、彼女に声をかけられない何とかみたいですけど、タイミングをずっと考えていたんですね。一度思い切って『いついつの日、中井さん何時に終わるみたいなんですけど、食事とかどうですか?』みたいな感じで言って…」
大下「勇気 出していきました」
本木「『OK』と言われたんですけど」
やっとの思いで食事の約束を取り付けたが、直前になって連絡がきた。
急用ができたのでキャンセルにと…。
本木「それで映画の撮影中、そうやって悶々として自分の出番が終わってしまった…。私が最後に中井さんにご挨拶に行った。その時に終わったから、正直に話したんですよ。『声かけていいのかどうやら…親交を深められないままで、すみませんでしたって』。
そうしたら『とんでもない、僕そういうの大嫌いなんだよ。俺は本木君の目を見ても竜次としか見てないよ。これで一緒に酒飲んで飯食って、嫌なところとか見ちゃったら、そのあと芝居できないじゃん』と。
そういうスタンスだったんですよ」
大下「最初にそう言ってくだされば、思い悩むこともね…」
本木「そうですよね。あの戸惑っていた時間を返してくれよ(笑)」
■本木雅弘にとって『美』とは…
主人公・津山は、病に体を蝕まれるなか、残り少ない時間で、作品を描こうとする。
大下「この映画のテーマは『美』だと思いますが、本木さんにとって『美』とは、どんなものだと思いますか?
本木「私にとって『美』というのは、言葉にならないものだと思う。
かつ、この美とはそういった美意識、美意識というのはすべてに通じているじゃないですか。私もやはり『美』というのは生きる糧だなと思います。それは自分の中でしか説明のつかない記憶とか、そういう心の中にあるものも、自分が大切にすべき『美』なのではないかと思います」
映画『海の沈黙』11月22(金)TOHO シネマズ 日比谷 ほか全国公開
(C)2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
配給:ハピネットファントム・スタジオ