韓国の法務省は9日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の出国を禁止する措置を取ったと明らかにしました。現職大統領に対しては、初めてとなる内乱の疑いがかけられています。
【画像】現職大統領が「出国禁止」に…終わりの見えぬ“混乱” 大越が見た“戒厳令”の余波
7日、与党がボイコットし、成立しなかった弾劾訴追案。野党は今週再び、提出し、週末に採決する予定です。
同時進行で進む捜査と弾劾手続き。カギを握るのは、世論の動向です。
8日、国会前に行ってみると、多くの人が道路で座り込みをしていました。
大越キャスター
「抗議集会ではあるけど、流れてきているのは日本のアニメソング。若い人が多いせいでしょうか、ペンライトを持っています。かつてのろうそく、いまはペンライト。若い人、特に女性が多いです」
この日、国会前に集まったのは、主催者側によると10万人。大統領の行動に衝撃を受け、街に出ていました。
大学生(20代)
「今回の事態は、韓国の国民として絶対許せない。40年前に多くの人が血を流して手に入れた民主主義を壊す行為だ。必ず弾劾せねばならない。民主主義を守るために来た」
大学生(20代)
「(Q.どうして若い女性が多いのか)みんな、集会をそれほど深く考えず、『一度は民主主義のために立ち向かう』くらいの意味で参加している」
大学生(23)
「戦時状況でもないのに、戒厳令を出し、多くの市民が怒っている。『国民の力』議員たちの採決ボイコットにも怒っている」
民主主義国家の指導者が、なぜ暴挙に出たのか。
韓国メディアで指摘されている疑惑があります。極右YouTuberの影響です。
政治コンサルタント パク・ソンミン氏
「大統領は、自分が思い描く世の中と、実際の世の中が違うことから、“現実の世界の方が偽物”だという妄想に陥っている。大統領や、極右YouTuberは、前回の大統領選が僅差だったことや、総選挙で与党『国民の力』が負けたのは、不正選挙だったからだと主張して、妄想から抜け出せなくなっている」
実際、尹大統領が、極右YouTuberの影響を受け、陰謀論を唱えていると訴えていた人物がいます。
与党『国民の力』 キム・ウン前議員(6月)
「大統領、YouTubeを見るのはいい加減やめてください。このままでは私たち国民は、みんな死んでしまいます」
与党大敗で、尹政権が袋小路陥った4月の総選挙。極右YouTuberは「不正選挙」を盛んに訴えていました。
今回の戒厳令で、軍は国会だけでなく、選挙管理委員会にも突入。戒厳令を大統領に進言したキム・ヨンヒョン前国防相は、不正選挙疑惑の捜査が目的だったとしています。
戒厳令で軍が展開していた場所が、実は、ほかにもあります。
革新系として知られ、尹政権を激しく批判してきたYouTube番組。撮影していたスタジオの建物の外に兵士たちが集まり、出入り口を封鎖しました。
この番組のメイン司会者が、与野党の指導者らと並び、尹大統領の“逮捕対象者リスト”に入っていたのです。そのYouTuberに話を聞くことができました。
YouTuber キム・オジュン氏
「家にいて、戒厳令直後に『逮捕組、暗殺組が稼働するから、すぐ逃げろ』と連絡をもらった。それで、家からすぐ出た。(Q.逮捕の対象者だと知ったときは驚いた。それともありうると思ったか)あると思った。私を憎んでいる」
「尹大統領は、自分だけの仮想現実の中にいる」とみています。
YouTuber キム・オジュン氏
「『北朝鮮から指示を受けた野党に不当な攻撃を受けている。大韓民国は危険な状況で、自分の決断で救わないといけない』という仮想現実の中にいる。狂っている。尹錫悦は戒厳をしたのではなく、仮想現実で救国の決断をした」
デモの現場だけでなく、街ゆく人たちにも話を聞いてみました。
市民(33)
「(Q.尹大統領の決断をOKと言う人は)私の周りには1人もいなかった。若者たちは、尹大統領が嫌いですが、野党第1党の『共に民主党』が好きかというと、それも違う。ただ、いまは、現在の与党と大統領を引きずり下ろすのが第一目標」
市民(71)
「(Q.いまの状況をどんな気持ちで見ている)国民の一人として、惨憺(さんたん)たる気持ち。こんなことが起こるとは想像もできなかった」
市民(56)
「わが国は民主化して、結構、長いし、経済成長も成し遂げた国として、こんなのは克服済みだと思っていたが、現実的ではないことが起きてしまった。一番良い方法は、辞任することだが、できなかったら弾劾で退けるべき」
弾劾訴追案は、与党がボイコットし、先行きは見通せません。一方で、戒厳令を進言した前国防相が検察に拘束され、自身も出国禁止の措置が取られるなど、捜査の手が狭まっているようにも見えます。
政治コンサルタント パク・ソンミン氏
「挙国一致内閣を野党『共に民主党』が受け入れるわけがないし、弾劾は与党『国民の力』はやらないだろう。従って、一番、早い職務停止の方法は、捜査機関による拘束です。断言できないが、いま多くの国民が、大統領の下野・弾劾・拘束を訴えている状況で、時間が経つに連れて、混乱が加速するはずなので、捜査機関は、かなり速いスピードで拘束する可能性があると思う」
◆大統領の弾劾に揺れる韓国にいる大越キャスターに聞きます。
(Q.ソウルの人たちの声を聞いて、尹大統領を取り巻く情勢をどう感じますか)
大越キャスター
「尹大統領は、土俵際に追い詰められたどころか、八方塞がりの状態という表現が正しいと思います。私は、たくさんの人々にインタビューしました。その範囲では、保守系を含め、ほぼ全員が、大統領を強く非難していました。「自ら辞任してほしい」という声は、まだ優しい方で、弾劾や逮捕に踏み切るべきだという声が圧倒的でした。そして、共通していたのが、大統領が戒厳令の発令に至った理由を、いまだに誰もが理解できずにいることでした。最も説得力を持って語られているのが、大統領自身、ある種の陰謀説に取りつかれてしまって、自らクーデターを起こしたという説でした。つまり、それくらい、今回の戒厳令というのが理解不能なものであって自分の国の指導者が、そうした行為に走ることがあるのだという、その現実が、人々の危機感に火をつけたと言うことができそうです」
(Q.野党は、引き続き弾劾を目指す姿勢ですが、国会の混乱もまだ続きそうですか)
大越キャスター
「私がインタビューした与党に近い著名な政治コンサルタントは「この問題は、政治レベルでは決着はつかない可能性がある」という見方を示していました。与党は、野党に主導権を渡すことを嫌う。弾劾訴追案が何度出されても、これを拒否し続け、時間稼ぎに出るだろうと予測していました。それよりも可能性が高いのが、内乱罪などを適用して、検察を中心に大統領を拘束・逮捕することであって、そこで初めて、与野党とも次の大統領候補選びに本腰を入れるのではないかという見方も示していました。韓国の法務省は、キム・ゴンヒ大統領夫人の出国禁止も検討しているといわれています。一向に姿を見せない大統領夫妻と、その側近たちの動静が、きょうの時点での最大の関心事と言っていいと思います」
(Q.連日、ソウルのど真ん中で集会が開かれていますが、人々を突き動かしているものとは何なのでしょうか)
大越キャスター
「一言でいえば、世論の大きさ。韓国の人たちは、世論というのが、実際に政治を動かすということを、身をもって知っているのではないかと感じます。過去にも、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾・失職という例がありますが、今回は、大統領の内乱罪が取りざたされるという、過去に例を見ない重大事態ですので、なおさらのことと言っていいと思います。そして、軍事政権時代の負の経験を伝え聞いてきうた若い人たち。この若い人たちが、集会の輪に加わりました。K―POPが鳴り響く会場で、よりカジュアルな形で政治的な意思表示をしている。それが今回の特徴と言っていいと思います。昨夜、市内の食堂で、30代の男性は「ソウルでの若い世代は、普段、政治や経済に関心が決して高くはないけど、さすがに今回は堪忍袋の緒が切れたのではないか」と話していました。くしくも大統領による戒厳令という驚きの行動が、若い人たちを覚醒させたという面がありそうです」