ラッパーであり精神科医という異色の肩書きを武器に、独自のアートやエンタテイメントを追求し続けるDr.マキダシが中心となり、各々の活動やイベント開催などを経て繋がったラッパーやDJ、ビートメイカーなど総勢10名からなるクリエイティブ・チーム「ドクターインダハウス」が制作中のアルバムから2ndシングル「DON'T TEST DA FLIPMASTER」をリリース。

今作はハハノシキュウが黒幕を務める韻に特化した大喜利イベント『INPON GRAND PRIX』のテーマソングとして制作された。 ゲストバトラーとして第一回大会から参戦しているDr.マキダシと伊藤竣泰、メインスタッフとして企画・運営を担当するキムタク(がんばりま翔)に加え、第二回大会優勝者のガクヅケ木田を客演に迎えたマイクリレー曲である。 のちに過去の大会参加者から希望者を募り、remix企画を行う予定である。

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そもそも「ドクターインダハウスってなに?」という疑問と共に、今回リリースされたこの楽曲においても、何を歌っているのかいまいちピンと来ない人は少なくないと思う。

と言ってもヒップホップのリリックというのは小さな村の半径でしか通じないトピックの連鎖であり、それが醍醐味とも言える。例えば、リリックに有名人でもなんでもない地元の友人の名前がドロップされたり、狭い人間関係のほんの小さな一コマを切り取ったりしたものが反映されるのは珍しいことではない。

ただ、今作においては「INPON GRAND PRIX」という年に一回しか開催されていない有名でもなんでもないイベントがテーマとして掲げられていることもあり、実際にイベントに足を運んだり配信チケットを買ってくれた人以外にも背景が伝わるように、サイドストーリーを綴ってみよう思う。

時は2021年、思い返してみればコロナ禍真っ只中だった。イベントを主催するだけで白い目で見られたりするような状況下で、僕(ハハノシキュウ)はライブハウスに企画を頼まれ続けていた。配信に特化した無観客ライブもやったし、もはや禁忌でしかないカラオケイベントの主催もした。

後者に関しては「やっちゃダメ」と言われていることを敢えてやりたくなってしまう僕の悪い部分が顕著に出た動きだったと自負している。カラオケボックスが軒並み営業自粛を強いられている中での開催だったため、当たり前だが見えないところで色んな人に怒られた。

ただ、根底にあったのはクラブやライブハウスの経営の力になりたいという一点だけだった。普段通りの経営ができない中で、箱のスケジュールに穴を空けてしまうことのダメージの大きさは想像に容易かった。

だから、イベントの企画を頼まれると断れるはずもなく、どうにかこの状況でも「何か手立てはないか?」と四六時中考えていた。逆に言うとネタ切れというか、次に何をしたらいいのかわからなくなっていた。

基本的にこの頃の僕は周囲のラッパーや関係者から力を借りたり、親睦を深めたりすることが苦手で仕方がなかった。これを伏線と呼んでいいのか微妙なところだが、前述のカラオケイベントをきっかけに僕は周囲に協力を求めることの価値を学んでいた。

それまでは1人でMCバトルイベントを開催したり、なるべく自分の力だけで乗り切れるものばかりを企画してきたのもあって、誰かに頼るという選択肢があるだけで頭の中の地図が2倍になったような感覚があった。 MCバトルのように飛沫や距離に配慮し過ぎない形で、尚且つ何かを競うようなものをやりたいと当時の僕はぼんやりと考えていた。

Twitterで「◯◯で踏める韻をお願いします」なんて呟いているアカウントがあって、様々なラッパーがリプライを飛ばしていたのを見て「これをもっと建設的に形にできないものか」と思っていた矢先だった。 MCバトルの相手のターンを聞いている時のように自分のターンまでに何かを捻り出さないといけないという強いプレッシャーの中で「韻ポン」という言葉が急に降ってきたのだ。

これはテレビで放送されている「IPPONグランプリ」から連想しただけの極めて単純なパロディだが「INPONグランプリ」と言葉にしてみると瞬間的にイベントの情景が映像として頭に駆け巡ったのを覚えている。

「韻」に特化した大喜利大会が開かれているという話は聞いたことがなかったし、本職のラッパーが参加するなら尚更だと思った。 僕は直感を頼りに先輩であるNONKEYさんに電話をかけた。

センターフライのごとく降ってきたアイデアをグローブでキャッチし、間髪入れずにホームベース目掛けて投げたような感覚だった。 この企画案を伝えるにあたって説明は短ければ短いほどいいと僕は考えていた。

「今度、IPPONグランプリのパクリでINPONグランプリっていう大喜利大会をやろうと思ってるんすけど」 NONKEYさんが僕のこの喋り出しだけで全体図を把握してくれたのがわかった時、本当の意味で開催を決意したのを覚えている。

「つまりあれだ、韻を踏む大喜利ってことね」 「そうなんですよ」 NONKEYさんに司会を頼み込み、そこを軸にイベントの煉瓦を積み上げていった。 MCバトルで見事に脚韻が決まった時の高揚感、大喜利で名回答が出た時の気持ちよさ、この両方を兼ねる感動はあり得るのか? そんな模索が始まり、気付けばコロナ禍も去り、2025年で5年目を迎える。

人の縁というのは奇妙なもので、このコロナ禍にイベントを開催していくという難儀な状況において、周りには互恵関係のようなものが生まれていた。

僕の主催する「INPON GRAND PRIX」

や「ラッパーカラオケ」とDr.マキダシの主催する「ラッパーの怖い話」や「アワーコメディ」(正しい表記とプレビなどの補足をお願いします!)などのイベント運営に携わる人間の半径が少しずつ重なり始め、クルーともグループとも言えない不定形なチーム感を持つようになったのだ。

これがドクターインダハウスの前身である。 今作「DON'T TEST DA FLIPMASTER」に参加したメンバーも当然その半径に含まれる。 そのためドクターインダハウス代表のDr.マキダシの参加は言うまでもないだろう。

他にINPON GRAND PRIXの企画運営として活躍し、イベントを裏から支えている敏腕スタッフのキムタク(がんばりま翔)もラップパートを担っている。彼は大喜利業界に精通しており、あくまでラッパー目線でしか大喜利を目測できない僕をこの上ないくらいサポートしてくれている。

(このようにドクターインダハウスにはスタッフもバックDJもトラックメーカーも関係なくラップで参加するという野猿のような趣きがある)

また、このイベントを立ち上げる際に僕はただの「面白さ」や「笑い」でおさまるものにはしたくないと考えていて、韻を踏んだり上手いことを言ったりするだけの大会ではなく、あくまでリリシズムを追求したいと思案していた。だから、ラッパーと芸人だけではなく、詩人の参加も必要不可欠と踏んでいた。

ポエトリー関係のイベントを数多く打っているイコマさんにそのことを相談すると「うってつけの詩人がいるよ!」と、1人の男を紹介してくれた。 それが今作にも参加している伊藤竣泰である。

彼のラッパーサイドにも芸人サイドにもない発想はINPONに立体感のようなものを与えてくれたと個人的に思っている。(のちに飛鳥新社から『面白くない話事典』を出版し作家デビューを果たすのだが、それはまた別の話) ここまでがドクターインダハウスの半径である。(他のメンバーについては別の曲のリリースの時に語るかもしれないし語らないかもしれない)

そして、この曲にはやはり客演として芸人さんの参加が絶対条件であると話し合いの中で自然と決まり、第二回大会チャンピオンであるガクヅケの木田くんを召喚することとなった。

ちなみにこぼれ話になるが、木田くんは「1人16小節ずつのマイクリレー曲」とスタッフが伝えていたのにも関わらず、32小節のバースを用意してきていた。結果としてそのバースがラッパー目線で嫉妬するほどの出来映えになったのは聴いてもらえればすぐにわかるはずだ。

過去に4回行われている「INPON GRAND PRIX」だが、芸人サイドの強さが年々際立ってきているように感じられる。韻を踏みながら大喜利としての面白さを両立する参加者のポテンシャルの高さには毎年舌を巻いている。

そんな逆境だからこそ、僕はラッパーがこの大会を制する日を今か今かと待ち侘びている。 ここから最後まで勝ち逃げられたラッパーはまだ1人もいない。

ドクターインダハウス 

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