「政治活動にお金がかかり、回らない状況」弁護士・国会議員から被告に 有罪判決を受けた広瀬めぐみ氏が法廷で語ったこと
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公設秘書の給与を国からだまし取り、東京地裁から懲役2年6カ月、執行猶予5年の有罪判決を受けた広瀬めぐみ元参議院議員。 弁護士、国会議員と華々しい経歴からまさかの被告に。失ったものはあまりにも大きかった。
(テレビ朝日社会部司法クラブ 西平大毅)

【画像】華々しい経歴から…「エッフェル炎上」「不倫報道」

■懲役2年6カ月、執行猶予5年の有罪判決

「主文、被告人を懲役2年6カ月に処する。裁判確定の日から5年間刑の執行を猶予する」

勤務実態のない公設第二秘書の給与など358万円を国からだまし取った一人の元国会議員は、その判決をまっすぐ前を向いて聞いていた。

弁護士として、国会議員として、自信に満ち溢れていた姿はなく、悲哀そのものだった。

判決言い渡し後、報道陣から逃げるようにして東京地裁を去った。

■新しい風を期待された苦労人の努力と華々しい過去

広瀬元議員は1966年に岩手県盛岡市に旅館を営む家に生まれた。

長く母子家庭で育ちながら勉強に励み、上智大学に進学。卒業後は一念発起し、専業主婦をしながら司法試験の勉強をし、30歳を超えて見事合格。育児をしながら司法修習をこなし、弁護士登録。弁護士として虐待や高齢者の財産保全、女性の社会的自立支援などにあたった。また、家庭裁判所の非常勤の裁判官や家事調停委員など公職も担った。

そんな法律のプロだった、広瀬元議員に転機が訪れたのは2022年の参議院議員選挙のこと。

参議院議員選挙に立候補した広瀬元議員(2022年6月)
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岩手選挙区から自民党の候補として出馬し、県民26万4422票の負託を受け、ついに国会議員となったのであった。岩手といえば、長らく「小沢王国」と呼ばれる立憲民主党・小沢一郎衆議院議員の地盤。

県民は停滞する政治に、法律家として人の痛みも分かるからこそ、新しい風を呼び込んでほしいと投票したことだろう。

当選した広瀬元議員(2022年7月)
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■「エッフェル炎上」「不倫報道」

しかし、実際には新しい風ではなく強烈な向かい風だった。

1つ目は国会議員となってから1年ほどが経った2023年7月、自民党の松川るい参議院議員が投稿した、自民党女性局がフランス研修中に撮影した写真。エッフェル塔前で塔をまねたポーズの写真に批判が集まった。その研修に広瀬元議員も参加していたのだ。

「エッフェル炎上」として連日報じられ大きな波紋を呼んだ。

問題となった「エッフェル姉さん」と呼ばれた写真(「松川るい参議院議員のSNSから」現在は削除されている)
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研修中に広瀬元議員が投稿したSNS フランス料理もある(「広瀬めぐみ参議院議員のSNSから」現在は削除されている)
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2つ目は2024年2月に不倫が一部週刊誌で報じられた。

その後広瀬めぐみ元議員は盛岡市の事務所で「子どもたちにつらい思いをさせてしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と涙ながらに謝罪していた。

■「広瀬めぐみ参議院議員の自宅などに家宅捜索」

有権者の期待を裏切ることになった広瀬元議員。挽回するため秘書らとともに岩手県内の支援者たちに謝罪行脚をしていたという。

そんなさなか7月30日に耳を疑う情報が岩手県内や東京・永田町で駆け回った。

「広瀬めぐみ参議院議員の自宅などに家宅捜索」

ある陣営の一人は「あの日(広瀬元議員を)謝罪でいろんなところでアテンドしていたのに急に秘書から『代議士に緊急事態が起きて東京に戻らないといけなくなった』と連絡が来た。その後すぐにつけていたテレビの画面に強制捜査のテロップを見た。今度は何なんだ…とがっくりしてしまった…。本当にあきれ返った。どうしようもない」と肩を落とした。

広瀬元議員の事務所を家宅捜索する東京地検特捜部(2024年7月)
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慌てた広瀬元議員は急いでその足で東京の自宅に戻った。

何があったのかという報道陣の問いかけに「またしっかりと説明します」と弱い声で話し自宅に入っていった。

自宅に帰ってきた広瀬元議員(2024年7月)
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その後、参議院議員を辞職した。

■公の場で説明はないまま

岩手県内で聞き込みをすると驚きの事実や発言が出てきた。

事務所関係者や陣営関係者から「どうやら秘書の給与をピンハネさせていたのは事実らしい」「お金には困っていたようだ」など。聞き込みを続けるほど疑惑の確度は高まっていく。

挙句(あげく)の果てに、「弁護士のほうがもうかる。次の選挙には出ない」と広瀬元議員が話していたと語る関係者まで。

どうして国会議員になったのか。26万4422票の県民の熱い期待は何だったのか…

またいつまでたっても説明の場が設けられることはなかった。

東京地検特捜部は詐欺の罪で在宅起訴し、呼称は「国会議員」から「被告」になってしまった。

■「国会議員」⇒「被告」 法廷で語ったことは

年が明け、今年2月6日に東京地裁で開かれた初公判。

初公判に向かう広瀬元議員(2月)
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紺のスカートとスーツで入廷した広瀬被告。
裁判長から職業を問われると「弁護士をしております」と答えた。

被告人質問で弁護人から動機を聞かれると、

「政治活動にお金がかかっていて、個人的な資産を投入しなければ回らない状況になっていた」

「(個人資産を)選挙活動のために500万以上を投入していたと思います」と窮状する懐事情を明かした。

当初は公設秘書の名義を大学生の娘の名前で使おうと思った広瀬被告。「年間1000万円損する」などと複数回打診するも、弁護士である夫から違法であることを指摘され、最終的に公設第一秘書だった男性の妻を公設第二秘書として採用したように装ったという。

広瀬被告は「初めての政治の世界で挑戦をさせていただいて、足元が浮かれ気味になっていたと思う」と率直に振り返った。

また、司法試験に向け勉強していた頃を聞かれ、「息子の子育てをしながらの勉強は大変でした」と泣きながら答えた。

その言葉は、子育てと法律家としての自分の夢に向かっての努力の大変さをうそ偽りなく吐露する姿に見えた。

時折、涙を浮かべながら話す広瀬元議員
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弁護側は秘書給与詐取について「つなぎのつもりだった。利益を得るものではなかった」と強調。また有罪になれば弁護士資格も失われることにも言及した。

「魔が差した」のかもしれないが、それにより失うものはあまりにも多すぎた。

■それでも説明をみんなが待っている

裁判では「国民の皆さんの信託と信頼を踏みにじって大きな責任を感じている」と話した広瀬被告。

しかし、当初「しっかりと説明します」と話した広瀬被告が裁判以外の場で有権者に対し、自分の思いや謝罪の言葉はいまだにない。

秘書給与の原資は紛れもなく国民の税金である。つまりは岩手の有権者だけでなく、国民一人ひとりが被害者なのである。

国民の代表である国会議員だった者として、有権者に対し直接説明することは必要なのではないだろうか。

議員辞職し、法廷で全てを話せば終了という考えはあまりに都合が良すぎる。

今後について、一市民として「女性と子どもの権利」のために活動することを裁判で明かした広瀬被告。

まずは自らの口で有権者の前で誠心誠意説明すれば、きっと応援してもらえる人が出てくるはずだ。

長らく公職に携わってきた苦労人の一からのスタートを心待ちにしている。

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