黄金時代築くも…“フジ文化”の象徴 フジHD・日枝氏が取締役退任へ
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大幅な経営刷新案のなかに“ドン”の名前はありませんでした。フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスは、中居正広氏と女性とのトラブルをはじめとする一連の問題からの信頼回復を目指して経営体制を見直すと発表。長きにわたりグループを率いてきた日枝久氏(87)は、両社の取締役相談役を退任することになりました。

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■役員減らしスリム化「透明性高く」

27日午後5時から行われた会見には、フジ・メディアHDの金光社長と、フジテレビの清水社長が臨みました。

フジ・メディアHD 金光修社長
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フジ・メディアHD 金光修社長
「新体制は役員数を減らしてコンパクトにし、平均年齢を若くし、女性役員比率を上げ、客観性を高めるための独立社外役員比率も上げる。新たなフジ・メディアHDおよびフジテレビへの第一歩を踏み出したと思っています」

27日に開かれた取締役会で、親会社のフジ・メディアHDは、取締役を17人から11人に減らす刷新案を決議しました。フジテレビも大幅に減らします。

フジテレビ 清水賢治社長
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フジテレビ 清水賢治社長
「(フジテレビは)取締役の総数が以前は22名だったのが、今年6月の株主総会後からは10名、半分以下となります。経営と執行の分離をきちんとやり、より透明性の高い、ガバナンスの高い会社経営にしたいと考えています」

■「別の役職で残ることない」

このなかには、長年フジサンケイグループのドンとしてトップに君臨してきたとされる、日枝久取締役相談役も含まれています。

フジ・メディアHD 金光修社長
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フジ・メディアHD 金光修社長
(Q.日枝氏は自ら退かれた)
「日枝相談役は早い段階から経営刷新の方向は賛成していますし、刷新する方向に関しては『任せる』と言っていたので、当然、代表権者である私、フジテレビでは清水が中心に体制を考えた」
(Q.別の役職で残ることは)
「ございません」
(Q.フジサンケイグループ代表は)
「グループのガバナンスに影響を与えるものでもないですし、指示する権限を持っているわけではないですが、本人から『フジサンケイグループ代表は辞任する』と申し出があった」

日枝久氏
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日枝氏は27日付でフジテレビの取締役を退任、フジ・メディアHDの取締役も、6月に予定されている株主総会をもって退任します。当の日枝氏は、腰椎の圧迫骨折で先月末から入院中のため、27日の取締役会には出席していないということです。

フジ・メディアHD 金光修社長
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フジ・メディアHD 金光修社長
(Q.退任について本人から言葉は)
「特にございません。最終的に固まった案に関しては届けましたが、非常に今のフジテレビの状況を心配していることは分かりますが、何かお言葉があったわけではありません。刷新すること、我々が主体的に決めたことに何か言うこともなく、頑張ってほしいという感じ」

■“中居氏問題”から企業体質問われ

去年12月、週刊誌の報道があった中居正広氏と女性とのトラブルから始まった問題は、フジテレビの企業体質が問われる事態にまで発展しました。1月に記者会見を開くも、撮影を認めないなどしたため、閉鎖的だと批判が集中。その後、改めてカメラを入れて会見を行いました。

フジテレビ 港浩一社長(1月当時)
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フジテレビ 港浩一社長(1月当時)
「色んな議論、色んな意見があったなか、最終的に私がああいう形の定例記者会見を判断しました。大きな判断間違いだったと思っています」

やり直し会見時の港社長と嘉納会長
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10時間を超えた異例の“やり直し会見”。フジテレビとフジ・メディアHDは独立した第三者委員会の設置を決め、フジテレビの港社長と嘉納会長が辞任。当初、経営体制の見直しは、今月末をめどに出される第三者委員会の報告書を受けてからとしていました。

フジ・メディアHD 金光修社長
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フジ・メディアHD 金光修社長
(Q.調査報告書待たず体制を決めた狙いは)
「信頼回復するために、この経営体制の刷新というのは大きなポイントだと認識をしておりましたので、できることなら速やかにこれを決めて発表したいという思いがありましたが『人事』のことでございますので、あらかじめ“いつそれができる”かなかなか明言できなかった」

敏感に反応したスポンサー企業は次々とCMを差し止めました。フジテレビによると、1月末までにCMを差し替えたのは311社に上り、先月の放送収入は前年比で9割減少。

フジテレビ 清水賢治社長
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フジテレビ 清水賢治社長
(Q.4月以降、どのくらいのスポンサーが戻ってくる見通しか)
「4月以降のことにつきましては、まだはっきりと見えているものではありません。約7割弱のスポンサーが今、判断保留ということですね。まだやるかやらないかははっきりしていないというものです。まだ今の段階で何割が埋まりますとか、売り上げが何割戻るということは全く確定したものはないです」

25日時点で、取引があるスポンサー企業は約100社だということです。

フジテレビ本社
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今回の刷新で、取締役の女性比率は3割以上となり、平均年齢はフジテレビが67.3歳から59.5歳に、フジ・メディアHDは71.2歳から61.6歳にまで下がるということです。

フジ・メディアHDの株式を保有するイギリスの投資ファンドは…。

ゼナーアセットマネジメント ミッチンソン氏
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フジ・メディアHDの株主 ゼナーアセットマネジメント ミッチンソン氏
「体制や構造を変更し、顧客や視聴者、株主などの信頼を取り戻す姿勢を示したと思う」

フジ・メディアHD 金光修社長
(Q.日枝氏がこのタイミングで退任することに対しての所感は)
「41年間の振り返りをほんの僅かな数秒で答えることは私の能力ではできません。日枝に『本当に長い間お疲れ様でした』という気持ちでいっぱい」

フジテレビ 清水賢治社長
「1980年代フジテレビ躍進、それを作った方ではあります。そういうところに関して、非常に今までの貢献には感謝したい」

今回の発表内容について、局内で働く人は…。

局内で働く人
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局内で働く人
「経営陣も結構新任の方が増えたので『この人になったんだ』『この人はどんな感じなのかな』と社内では話題として盛り上がりました。社員が働きやすい環境をつくってほしいというのが第一ですが、テレビは観るコンテンツとして楽しみの1つだと思うので、情報もできるだけ明るみに全部出してほしいなと思います」

フジ・メディアHDの新たな経営体制は、6月の株主総会で正式決定されます。外資系の株主などが27日に示された案とは別の提案をする可能性も指摘されています。

■グループの“黄金時代”築くも…

日枝久氏
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27日の会見で最も注目されたのは、日枝久氏の去就でした。40年にわたり経営の中枢にとどまり、フジテレビの文化を作ったと言われる日枝久氏とは。

フジ・メディアHD 金光修社長
(Q.日枝氏が作った企業風土が一連の問題に影響を与えた点は)
「当然のことながら長く在籍していたわけですから、それは影響力があるのは当然ですけれども、今回のこの事案とどう関係があるかということに関して、私が明解に『ここでこうです』と言うことはできない」

日枝久氏
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1961年、設立わずか4年目のフジテレビに入社した日枝氏。若いころは社員の待遇改善を求めようと労働組合の結成に奔走したため、経営陣と対立することもあったといいます。1980年、42歳の若さで局の司令塔とも言われる編成局長に抜てきされると、手腕を発揮。「楽しくなければテレビじゃない」を合言葉に、若者に支持されるバラエティー番組やテレビドラマを次々と生み出し、1982年にフジテレビは初の視聴率三冠を達成するまでに至りました。その後、取締役となり、1988年に社長に就任してから4年。大きな“転換点”を迎えます。

フジテレビ 鹿内宏明会長(1992年当時)
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フジテレビ 鹿内宏明会長(1992年当時)
「支持がなければ地位に恋々とするつもりは毛頭なく、率直な意思疎通がないまま今回の事態に至ったことは誠に不本意であります」

創業から30年以上、グループに大きな影響力があった創業家・鹿内一族を退け、名実ともにトップに。東証一部上場をはじめ、持ち株会社体制への移行を推進し、グループ内での力をより強くしていきました。

フジテレビ 日枝久社長(1997年当時)
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フジテレビ 日枝久社長(1997年当時)
「私どもは放送局であると同時にソフトメーカーである。分かりやすくいうと、ちょっとおこがましいのですが日本のハリウッドを目指したい」

2001年には約13年務めた社長を退任し、会長職に就任。そして2003年、テレビや新聞、ラジオなどのメディアから美術館などの文化事業までを傘下に収めるフジサンケイグループの“代表”に。2005年、ライブドアによるニッポン放送買収騒動が起きると、その矢面に立って買収を阻止しました。

フジテレビ 日枝久会長(2005年当時)
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フジテレビ 日枝久会長(2005年当時)
「結果として、フジサンケイグループ全体のシナジー効果がより一層高まり、21世紀の勝ち組メディアとして生き残っていくための経営基盤の強化を図ることが可能になった」

2017年に会長職を退いてからは取締役相談役を務めてきました。40年以上、取締役を務め、グループの黄金時代を築いてきた“日枝体制”。それが今、刷新されようとしています。

フジテレビ 清水賢治社長
(Q.日枝体制下での反省点、何を変えていかなければいけないのか)
「日枝がというよりも、我々自身がフジテレビが80年代の躍進の歴史に結構、成功体験となって、その後のイノベーションのジレンマが起こってしまった」

フジ・メディアHD 金光修社長
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フジ・メディアHD 金光修社長
「忖度(そんたく)するということは悪いことではありませんから、おもんぱかる気持ちがより強くなるメカニズムが長くいるとできあがってしまうのかなというのはあります」

フジテレビ 清水賢治社長
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フジテレビ 清水賢治社長
(Q.今後“院政”のような形にならないのか。影響力をなくしたいとの考えはあるのか)
「今回の人事も影響力が全くない陣容を発表できたと思います。それは皆様方ご覧になってたぶんそう判断いただけるんじゃないかと」

■“日枝体制の終焉”信頼回復は

フジテレビの社員の声
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日枝氏の退任を受けて、フジテレビの社員からは「日枝体制の終焉(しゅうえん)は社員も願っていたことなので良かったと思います。経営体制の見直しも世間からどう見られるか分かりませんが、これが変わるきっかけになるといいなと思っています」という声が上がっています。

(Q.退任するとはいえ、今後も日枝氏の影響力が残る可能性は)

日枝氏の影響について
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フジテレビの清水社長は27日の会見で「今回の人事も(日枝氏の)影響力は全くない陣容を発表できたと思う」としています。また、フジ・メディアHDの金光社長は「将来に関して経営に与える影響はないことが大事。経営に関することは、我々が自主独立的な考え方でやっていきますと明言する」と話していました。

大幅な体制変更について
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“大幅な体制変更”ですが、27日の発表では両社とも取締役の人数を減らし、社外取締役や女性の比率を増やすとしました。

フジ・メディアHD
取締役:17人→11人
社外取締役:6人(11人中)
取締役の女性比率:3割以上

フジテレビ
取締役:22人→10人
社外取締役:6人(10人中)
取締役の女性比率:3割以上

刷新の理由について「意思決定の迅速化を進め、ガバナンスを強化するため」としています。

ただ、フジ・メディアHDの取締役については6月の株主総会にはかられるため、この通りの人事になるかどうかはまだ決まっていません。

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フジ 日枝相談役が退任 社内取締役“全員退任”狙いは
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